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第三十一話・「獅子戦吼!」

 和臣の一撃はコージの頬にクリーンヒット。

 上体が後方に倒れそうになるが、のけぞったままで踏みとどまる。伸びをした状態で止まった身体を振り子の要領で元に戻すと、ニヤリと笑って和臣の頬に全く同じ角度の拳を見舞う。

 鏡を見るような攻撃だった。

 頬から突き抜ける痛みが和臣の脳を揺らす。目の前が明滅し、危うく意思が身体から飛びかける。確かに線対称を見るように同じような攻撃ではあったが、拳に込められている威力には大きな差が存在した。体重の乗った強烈な一撃。拳の中に鉛でも詰まっているのではと疑いたくなる硬質な衝撃。

 和臣はもらったダメージを如実に反映しようとする身体を気力でねじ伏せる。

 背中を付いて倒れることを何とか堪えると、口から細く息を吐き水平に蹴りをたたき込む。放たれた攻撃は風を切り、流れてきた木の葉を巻き込んで、コージの脇腹にたたき込まれた。

 体育館裏に鈍い音が響く。

 女子ならば耳を押さえてその場にしゃがみ込んでしまうような暴力の音。肉と肉……あるいはその内側の骨と骨が双方を壊し合う音。まるで、硬質なものを膜の内側で叩き壊したかのような。音が膜にぶつかることで、音はくぐもったものに変異する。

 先に表情を崩したのはコージではなく、和臣の方だった。コージは脇腹を襲った脚を痛みが伴うのも構わずに甘んじて受け、くわえ煙草のまま、すかさずその脚を抱える。

 煙草の先端が煌々と輝くのは空気を吸い込んだから。コージは肺に吸い込んだ酸素とニコチンを力に変えると、和臣の足を素早く払う。片足を抱えられた状態で残りの一本脚を払われ、和臣は自らのコントロールを失った。

 重力に引かれて落ちる身体に、コージの右腕が伸びる。

 決め台詞とばかりにコージが咆哮する。


「おらよっ、獅子戦吼!」


 和臣のシャツをつかみ、重力に手押しで加速をプラスした。

 重力、加えることのコージの膂力。台詞と行為が合致しない攻撃で胴体を激しく地面に叩き付けられ、和臣の口から唾液と空気が飛び出す。肺がつぶされたような痛みに呼吸が困難になり、打ち付けられたはずみで耳なりさえも誘発する。

 

「からの、マウントポジ――おわっ!」


 それでも意識はまだ身体に留まっている。

 マウントポジションに移行しようとするコージの背中を何とか蹴ることに成功する。

 胸元近くにまたがられたのが幸いした。

 抜け出した和臣は頭を左右に振る。髪の毛が乱れる中、軽い脳震盪のせいで敵が二重に見えた。

 構わず大地を駆ける。激痛を抱えたままスピードを上げ、後ろ回し蹴り。さすがのコージも直撃を受けては立っていられず、後方に吹き飛ぶ。

 くわえていた煙草が宙に舞い、灰と共に地面に転がった。

 夏の夜の花火のように、極小の火花が四散する。

 コージは一回転して、外に放置されていたハードルを巻き込んで仰向けに倒れた。ハードルに激突するすさまじい音が体育館裏に反響する。

 そばに生えていた木から小鳥たちが二羽、三羽と慌ただしく逃げていった。

 さえずりを邪魔されて不快だったのか、単に驚いただけなのか。真意は電線の上へと消える。

 すさまじい戦いだった。

 まばたきすら出来ない。指一本すら動かせない。

 周囲で見守る不良達が飲んだ固唾の音。

 それは、例えるなら、テレビCMがよく謳い文句にする爽快なのどごしの音に似ていた。

 ハードルに埋もれたコージは、ゴホゴホと幾度か咳き込みながらも、ハードルの山から這い出してくる。目の前に落ちていた煙草にまだ火があるのを見つけると、即座に拾い上げ口にくわえてみせる。

 額からは血が滴り、土埃で私服は薄汚れている。


「痛てぇ……マジで痛てぇ。クソ。俺の必殺獅子戦吼を受けて倒れないとは……やるなクソが! ああ、クソ……こうなりゃ俺の秘奥義、獅吼爆砕陣を使うしかねーか!? あぁんッ!?」


 陸上競技のクラウチングスタートよろしく地面に手を付けた状態からスタート。

 地面を駆ける一歩一歩が、そのままギアのアップそのものだった。

地の文だらけ。つまんない。……と言われた気がします(汗

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