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第十九話・「アイツはいつも白と黒だ」

「好きだ。俺達は友達だ」

「はい。僕たちは友達です」


 好きを繰り返して分かる確かな気持ち。和臣はやはり応えてくれる。言葉や態度、寄せられた期待。それは勃起部だったり、部員である自分や藍子だったり……。

 だから、俺もそんな和臣に応えたい。もらった分ぐらいはきちんと返したい。もらったから返すと聞けば、打算的な友情にも聞こえるかも知れない。

 誠一郎は前を向く。

 純粋に和臣と台頭でありたいのだ。前を歩くでも、後ろを付いて行くでもない。横に並んで同じ方向を向いて、同じ速度で歩きたいのだ。

 友情は、無償で対価なく助け施すもの……無粋なものすら入り込まない美しい言葉に、一聴すれば聞こえる。

 しかし、それは違うのではないかと誠一郎には思えた。肩を並べるために、余計な施しは受けない。友の期待に応えたい。友に期待を寄せたい。

 そんな互いを支え合う信頼と信頼の結びつきが、友情ではないか。

 俺達なのではないか。

 そんな風に誠一郎には思えてならなかった。


「……。はい、じゃない。ちゃんと好きだと言え」

「むむ、どうしてもですか?」

「どうしてもだ」

「す……す……駄目です、恥ずかしいのでこれ以上は却下させていただきます」


 やはり恥ずかしかったようだ。誠一郎は少し嬉しくなる。


「全く……誠一郎君は僕にこんなに好きと言わせてどうしたいんですか? さすがにもう好意の安売り投げ売りはしたくないですよ」

「どんなに投げ打ったって、安売りしたっていいさ。俺が全部買い占める」


 ヘッドセットの奥、和臣のマイクの向こうで息をのむ音。


「……誠一郎君、僕は今、自分が男であることを少し呪わしく思えました」

「ん? 俺はお前が男で良かったと思ってるぞ」

「そう言うことではないのですが……まぁ、いいでしょう」


 困ったような苦笑いがマイクを震わせた。


「誠一郎君が僕を好きでいてくれるように、藍子さんも誠一郎君を好きです」

「偏執的だけどな……」

「だからこそ、藍子さんを混乱させたくないのです。先程の冗談のくだりを分かりやすく説明します。藍子さんにとって僕が敵になる。誠一郎君が僕の味方になる。それはすなわち、誠一郎君が藍子さんの敵になってしまうということです。守りたいのに守れない。好きなのに好きになれない……」


 落ち着いた声音で早口に説明する。まるで用意された原稿を読むキャスターのように。


「そういう矛盾は、藍子さんのすべてを否定してしまいます。藍子さんは誠一郎君が全てです。誠一郎君が藍子さんを矛盾に追い込んだりすることは、彼女自身の崩壊を招きます。どんな些細なことでも……いえ、物事というのは得てして些細なところから崩壊というのは始まってゆくのです。難しいのはそれが目に見えないということ」


 事実、気が付くことが出来なかった。和臣という周囲に人一倍気を配れる人間がいなかったら、その偶発的に藍子を陥れた矛盾にすら、誠一郎は気が付くことが出来なかったのだ。


「そう……だな。アイツはそう言う奴なんだよな。世の中には白と黒で区別がつけられないグレーな部分もたくさんあるのに、アイツはいつも白と黒だ」


 藍子の澄んだ黒い双眸は、母親を盲目的に信じる赤子のようで。見つめられていると自分がまるで神にでもなってしまうような変な気分になってしまいそうになる。


「善と悪。敵、味方。戦争で言うところの正義は、両者に存在します。そんな矛盾や欺瞞だらけの世界で、藍子さんだけは純粋なまでに誠一郎君至上主義なのですよ。世界をただそれだけの理由で二つに大別できてしまう藍子さんを僕は羨ましくあります。そんな藍子さんの目で世界を見れば、きっと色が付いているのは誠一郎君だけで、その他全ては灰色の世界なんでしょうか」


 右と言えば右を向き、左と言えば左を向く。

 藍子という人間をこうも簡単に左右できてしまうこと。

 だからこそ、誠一郎には強い思いが宿っている。


「……藍子には、いつかそれだけじゃないってことを、俺とお前で教えてあげられたらいいな」

「誠一郎君、それはひどく遠回りをしているように感じます。誰にでも分かる一番の近道をあえて避けているように思えます。誠一郎君だけが出来る一番の近道を……」

「さて、そこを曲がれば保健室だぞ」


 会話はそこで終了となり、誠一郎は緊張の度合いを調整するように、ゴクリとつばを飲込んだ。


珍しいこともあるものですね。二日連続で更新です。

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