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第十八話・「好きです」

「ところで、誠一郎君に一つお願いが」


 胸の熱が冷静に冷やされた頃合いに、再び和臣の声がヘッドセットから響いた。


「先程の冗談は、二度と言わないと誓っていただけますか?」


 保健室へと向かう誠一郎の耳に、和臣の柔らかな声が滑り込む。冗談の内容を思い出せないでいる誠一郎の無言を感じ取ったのか、和臣は繰り返す。


「藍子さんが冗談で私を敵と言ったときのことです」


 ――僕はいつだって藍子さんの味方ですよ!

 ――……。ならいい。

 ――じゃ、俺は和臣の味方をしようかな。

 ――……っ!

 ――どうか冗談であると言ってください。お願いします。

 ――……分かった。……冗談だ。

 ――良くできました。


 部室で今回の作戦会議をしていた一連の風景を思い出す。


「あ、ああ……あの時か」


 今回の作戦説明の合間、いつもの閑話休題。別名、横道に逸れたとも言う。ただ、それは本当にいつものことで、和臣が作戦遂行の途中であえて取り立てるほどの重要性があったとは到底思えない。

 しかし、和臣はそんな誠一郎の楽観を踏みとどまらせるように、声のトーンを一段階落とした。


「はい。そして、誠一郎君が冗談でも僕の味方をしようとしたことです」

「それの何が悪かったんだ? たかが冗談だろ?」

「そうですね。たかが冗談です。誠一郎君と私にとっては。しかし、誠一郎君、藍子さんにとっては違うのですよ」


 藍子のことを分かっていない。

 言外の意味を持っているかのように、そう言葉が勝手に誠一郎の脳内で変換される。誠一郎の胸に、線香花火が明滅するときのような、チリリとした焼け付くような音を発生させた。


「藍子は冗談の通じないような奴じゃないぞ」


 少し強い声で言い返してしまった自分に嫌気が差してしまい、誠一郎は首を振る。

 他の奴ならばまだしも、和臣に限ってそんな回りくどい言い方はしない。和臣はいつだって和臣にとって大切と思うことに笑顔で応えてくれたのだから……。

 和臣はそんな誠一郎の逡巡を飛び越えて言葉の橋をかける。


「その通りです。しかし、ある一点……誠一郎君に関しては例外なのです」


 二人の一呼吸が、廊下に落ちた。


「誠一郎君は僕のことが好きですか?」

「好きだ」

「……」


 まるでマイクを切ったように和臣の声が無くなった。


「ん? どうした?」

「あ……いえ、なんと言いますか。まさか即答していただけるとは」

「お前は即答してくれないのかよ。俺が、好きだって」


 少しすねたような声が出てしまう。誠一郎は自分が格好悪いことをしているなと少し顔が熱くなるのを感じた。


「自分から言い出しておいて、逆の立場になった瞬間この醜態。面目次第もありませんね。改めて言い直す機会をいただけないでしょうか」

「よし、許す。テイクツーな」

「コホン。では……」


 しんと静まりかえった耳元と、廊下を急く誠一郎の足音、息切れ。

 空間と空間、声と声を結ぶ2.4GHz帯には何者も立ち入ることは出来ない。


「誠一郎君は僕のことが好きですか?」

「好きだ」

「和臣は俺のこと好きか?」

「好きです」


 言い終わった後に、心地よくも熱い静寂が訪れる。

 恥ずかしくて口元が自然とにやけてしまった。

 もしかしたら和臣もそうなのかも知れない。いや、きっとそうだろう。

 手に取るように友人の姿が目に浮かんでしまうのが楽しくて恥ずかしくて仕方がない。

 繋がっている、そんな気がした。


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