第38話. ブーメランの法則
ハン・ユンジェが最も尊敬していた師であり、検察の巨悪であるチェ・ジンヒョク。
第38話では、20年前の闇に葬られた「欠番」の真実が、ついにその姿を現します。
法を武器に弱者を踏みにじってきた男に、ユンジェが突きつけるのは、他ならぬ彼自身が定義した「正義」という名の刃です。
大統領選出馬という栄光の舞台で、果たしてどのようなブーメランが彼を襲うのか。
復讐のカウントダウンが、今、始まります。
[D-96 / 02:17:33]
暗闇が深く立ち込めるB-07の隠れ家、メインルーム。
数十台のサーバーが吐き出す低い機械音と、青白いモニターの光だけが虚空を彷徨っていた。
ユンジェはすでに三杯目となるコーヒーの、冷めきった苦味を飲み込みながら、画面上のデータを凝視した。
そこにはチョン・ウジンが自らの命と引き換えに守り抜こうとした最後の保険、**[過去_記録_1998.zip]**フォルダ内の暗号化されたファイルたちが、巨大な墓標のように静かに眠っていた。
「検事さん、ようやくファイルの一つを開きました。ですが……記録されている内容が、我々の予想していたものとは少し毛色が違います」
キーボードを叩くB-07の指先が微かに震えている。
ユンジェが椅子を引き寄せて座ると、モニターの上に20年の歳月を遡った残酷な真実の破片が、その姿を現した。
[H大_事件_最終証拠_1998.11.18.pdf]
「このファイル、チョン・ウジンさんは一体どのような経路で入手したんだ?」
B-07はファイルのメタデータを分析した別の画面を映し出す。
「2017年3月、Sグループ会長の長男がASのVIP顧客として加入する際、提出したいわゆる『信頼の担保』ファイルです。ASは高官級の顧客を受け入れる際、互いの致命的な弱点を交換することで、裏切りを源泉から遮断する方式をとっていました。これはSグループが自分たちの秘密を預ける代わりに、チェ・ジンヒョクと共犯であることを誓約した証文だったのです」
ファイルが開かれる。
色褪せた紙の上に、拙く書き連ねられた一枚の供述書。
所々滲んだインクの跡の上に、二十五歳の女性が残した最後の証言が、悲鳴のように刻まれている。
『彼はドアを閉め、私の胸ぐらを掴みました。叫びましたが誰も来ず、翌日、彼は奨学金の書類に署名しながら、私の父親が誰であるかを忘れるなと嘲笑いました。検事さん、公訴時効まであとわずか3日しかありません。どうか、この録音テープを採択してください。お願いです、私を助けてください』
日付は1998年11月18日。
公訴時効満了まで、わずか72時間。
[1998年11月18日、ソウル中央地検 面談室]
肌寒い空気が漂う廊下の突き当たりの面談室。
女性は砕け散りそうな震える手で、一通の封筒を机の上に置く。
向かい側に座る40代前半の検事、チェ・ジンヒョクは、機械的な手つきでその切実な封筒を開け、カセットテープの黒いフィルムを確認する。
女性は、彼が直接作成して渡した受付証を、救いの綱でも掴むかのように大切に握りしめ、安堵の涙を流した。
だが、チェ・ジンヒョクの視線はすでに彼女を通り過ぎ、窓の外の遠い風景へと向けられていた。
「これで……これで彼を処罰できるんですよね?」
「証拠として採択するには、手続き上の問題があるようですね」
チェ・ジンヒョクの声は冷たい。
「法は感情で動きません。ただ冷徹な法理だけが、正義を完成させるものなのです」
女性が泣き崩れながら部屋を去ると、チェ・ジンヒョクはかつて誰かの絶叫であったはずのテープを、引き出しの奥深くへと押し込んだ。
そして、法務行政システムにアクセスする。
証拠物受付番号7742番。クリック。
『欠番(Missing Number)』処理。
行政上は受理されたが、実際には存在しない証拠。
法の名の下に削除された、一人の人間の真実。
二週間後、漢江のほとり。一人の女性の遺体の上に、「学業のストレスによる投身」という短い記事が一行だけ被せられた。
[D-93 / 14:22:09]
「チェ・ジンヒョクは権力層の子女の犯罪を葬り去り、その対価として彼らをASの顧客として誘致し、自分だけのカルテルを設計したんだ」
ユンジェはB-07が抽出した金融追跡の結果と、不起訴処分名簿を照合しながら冷たく呟いた。
1998年から2005年まで、Sグループが『法律顧問料』という名目でチェ・ジンヒョクに上納した12億ウォン。
彼が不起訴処理した112件のうち、38件の被疑者がわずか1、2年の間に約束でもしたかのようにASのVIP顧客となった状況。
(偶然とするには、あまりにも露骨な、取引の痕跡だ)
[D-90 / 21:33:44]
テレビ画面の中で、大統領候補となったチェ・ジンヒョクが慈愛に満ちた微笑みを浮かべて叫んでいる。
「性犯罪に公訴時効があってはなりません。被害者の痛みに時効はないからです!」
怒りに震えるユンジェは、リモコンを叩きつけた。
「チェ・ジンヒョク、あんたが他人を裁く時に振りかざしたその鋭い基準が、今度はあんたの首を打つブーメランになるんだ」
ユンジェは一気にホワイトボードへ刑法の条項を書き殴り始めた。
刑法第122条(職務遺棄罪): 正当な告訴を意図的に放置した行為。
刑法第155条(証拠隠滅罪): 受理された証拠物を『欠番処理』し、司法正義をテロした罪。
刑法第357条(背任収賄罪): 職務に関連して巨額の顧問料を受領した取引の状況。
一呼吸置き、ホワイトボードの反対側に、チェ・ジンヒョクが日頃主張してきた『起訴原則』を並べて記す。
「公職者の道徳的欠陥は、職務遺棄に準ずる」
「第三者を通じた間接的な後援は、賄賂罪の変形である」
「証拠を故意に漏落させる行為は、司法正義に対するテロである」
二つのリスト。完璧な一致。
自らが作り上げた論理で、自らを閉じ込める、最も精巧で残酷な起訴状。
[D-87 / 19:00:00]
出馬式の前夜。
ユンジェは138ページに及ぶ最終報告書を、今一度検討し始めた。
終わりの一文を過ぎたマウスカーソルが、『予約送信』ボタンの上に重なる。
「B-07、明日午前09時50分整。検察庁監察部と主要メディア、そして大統領府の民政首席室へ、このすべての記録を同時送信する」
夜明けの空気のように冷たくなった声で、ユンジェが言った。
「彼が舞台の上で全国民に向けて『正義』を宣誓するまさにその瞬間、彼の掌の中にあるスマートフォンには、自身の醜悪な『罪状』が届いているはずだ」
「法理だけが正義を完成させると言っていたな?」
彼は静かに呟いた。
「ああ。これからは、あんたが一生をかけて積み上げたその傲慢な法理が、あんたを裁く番だ」
クリック。
[予約送信が完了しました]
その瞬間、壁面のデジタル時計が数字を変えた。
[D-85 / 00:00:00]
大統領選出馬式当日。
昇る太陽が、黒ずんだ火炎を吐き出している。
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第38話、お楽しみいただけましたでしょうか。
かつての恩師が法の名の下に葬った20年前の真実。
ユンジェが作成した138ページの報告書は、単なる告発状ではなく、チェ・ジンヒョクが作り上げた「法律」という迷宮に、彼自身を閉じ込めるための檻です。
出馬式の華やかな舞台で、最悪の「ブーメラン」を受け取ることになるチェ・ジンヒョク。
その戦慄の瞬間が描かれる次回の第39話。
復讐の刃がその喉元に届くのか、どうぞご期待ください。
それでは、また明日お会いしましょう。




