第28話. 見えない監視者
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「防御論理……。一理あるな」
深夜三時。静寂を破る呼び出し音。
モニターの向こう側に現れたのは、正体不明の依頼人「Guest_112」でした。
ユンジェが仕掛けた「論理的毒薬」に鋭い疑念の目を向ける依頼人。
絶体絶命の瞬間、ユンジェは検事時代の知識を総動員し、
自らの「罠」を「最強の盾」へと塗り替える危険な賭けに出ます。
姿なき怪物との息詰まる心理戦。その勝者は――。
眠りは訪れなかった。ノートパソコンを閉じた後も、網膜には依然として「0」と「1」で構成された捏造数値が残像のように焼き付いていた。
午前三時四十分。メッセージアプリ『シグナル』の呼び出し音が、部屋の静寂を切り裂いた。
[A-12:ハン作家、今すぐ接続可能ですか? 依頼人が『リアルタイム検討』を要求してきました]
ユンジェは唇を噛み締めながらノートパソコンを開いた。画面には共同編集ドキュメントのウィンドウが表示されていた。
しばらくすると、文書の上に一つの見慣れぬカーソルが現れた。IDはない。ただ『Guest_112』という無機質なラベルをつけたカーソルだった。
そのカーソルは、ユンジェが徹夜で整えた文章をなぞるように下りていった。まるで誰かの視線が自分の首筋を這い回るような、不快な感覚が伝わってきた。
やがてカーソルが止まった。ユンジェが仕込んだ「毒薬」が含まれる一節だった。
『血管内膜の変化の可能性を排除するには十分である』
カーソルはその文章を荒々しくドラッグした。直後に画面下部のチャットウィンドウが活性化された。
[Guest_112:この文言、あまりに断定的すぎます。学術誌のリジェクト(Reject)理由になる。なぜこのように書いたのですか?]
直接的な声は聞こえなかったが、短いテキストの向こう側から、依頼人の冷ややかな疑念が読み取れた。傍らではA-12が、リアルタイムでタイピングの速度を監視しているはずだった。
ユンジェはキーボードの上に手を置いた。迷いのない速さで、回答を打ち込んでいった。
「医学論文は科学の領域ですが、通過した後は法律の領域となります」
相手のカーソルが動きを止めた。ユンジェは止まらずに次の文章を打った。
「将来発生するかもしれない医療訴訟を考えてください。『示唆する』や『可能性が高い』といった曖昧な表現は、製造元が欠陥を認知していたという自白になります。しかし、この文章は違います」
ユンジェは自分が捏造した数値へのリンクを貼った。
「この表現は、あくまで我々が加工したデータのみに基づいています。後日、法廷で『当時のデータとしては副作用を確定的に排除することが可能だった』という、完璧な防御論理になります。これは論文であると同時に、あなた方を守る最後の方舟なのです」
画面の向こうに静寂が流れた。Guest_112のカーソルが、文章の周囲を徘徊した。
数秒が永遠のように感じられた頃、チャットウィンドウに新しいメッセージが浮かんだ。
[Guest_112:……防御論理か。一理あるな]
カーソルはそれ以上、疑わなかった。むしろユンジェが仕込んだ他の十二個の「補助指標」を、入念に確認し始めた。その指標たちが自分たちを守る心強い盾であると信じ込んだようだった。
それが自分たちの首を絞める毒薬だとは、夢にも思わずに。
[A-12:危機対処能力が素晴らしいですね、ハン作家。依頼人が大変満足しています。お父様の入院先には、特別管理を指示しておきました]
チャットルームが閉じられ、画面が暗転した。ユンジェは震える手をデスクの下に隠した。
顔も知らぬ幽霊との戦い。だが、ユンジェは確信した。奴らはもはやユンジェの「文章」を疑わず、崇拝し始めたことを。
ユンジェはカレンダーを見た。
百六日の戦争。D-105。
敵の心臓部に、最初の亀裂を入れた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「Guest_112」という新たな脅威を、自らの知略でねじ伏せたユンジェ。
彼が仕込んだ「12個の毒薬」は、今や依頼人の全幅の信頼という名の守護神に化けました。
しかし、この完璧な欺瞞こそが、破滅へのカウントダウンでもあります。
次話、ついにユンジェの前に意外な協力者が現れます。
D-100を目前に、孤独な戦いは新たな局面を迎えます。
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