第21話. 亀裂の方向
【韓国NAVERミステリー部門1位獲得の話題作!】
「兄は止めようとし、この男は通り抜けさせた」
兄・ソジュンの遺した記録を辿るソヨンは、そこに刻まれた「言語的指紋」を見つけ出します。
一方、ユンジェは過去に自分が「削除」した一文の正体に気づき、戦慄することに……。
一文字の重みが、誰かの命を左右する。
真実に近づくほどに深まる亀裂。第21話、始まります。
【五年前、ある夜明け】
ソジュンは研究室に一人残っていた。
蛍光灯の下、机の上にはプリントアウトされた報告書とタブレットの画面が並んでいた。
結論はすでに決まっていた。
「危険性なし」
「追加検討の必要なし」
ソジュンはその一文を、何度も書き直した。
研究報告書内の数値に間違いはなかった。実験過程にも明白な誤りはない。
だが、彼は要約欄にカーソルを移すことができなかった。
代わりに、一文を書き残した。
『本結果は、追加検証が行われるまでは、外部の判断材料として使用するには適さない』
数十億ウォンが投じられたプロジェクトだった。
だからこそ、「不合格」と記せば報告書自体が却下され、書き直しを命じられることを彼は知っていた。「阻止すべきだ」と書く勇気もなかった。
ただ、まだ次の段階へ渡すことはできないと記したのだ。
ソジュンは理解していた。
「不合格」と書けば報告書は差し戻されるだけだが、「追加検証の前には判断材料として不適切だ」と記録すれば、このシステムは一時停止状態になるということを。
彼は真実を告げる勇気はなかったが、偽りがまかり通るのを防ぐための時間を稼ぎたかったのだ。
ソジュンはその文章を保存した後、しばらく画面を見つめてから、ゆっくりとノートパソコンを閉じた。
それが最後だった。
【現在、午後四時十二分】
ソヨンは研究資料保管庫の前に立っていた。
兄の名で残っている、最後のアクセス記録。その後の履歴は空白だった。
消された痕跡も、修正された形跡もない。
最初から存在しなかったかのように、それはただ消え去っていた。
彼女は、その時ようやく気づいた。
兄の記録が消えたのではなく、別の文章に置き換えられ、世に出ていたのだということを。
そして、その穴を別の言葉たちが埋めていたのだということも。
ソヨンはゆっくりと呼吸を整え、もう一つのフォルダを開いた。
別のプロジェクト。別の実験。別の人。
だが、要約欄の最初の一文は、奇妙なほど常に似たような表現が繰り返されていた。
危険を口にはしなかった。可能性に言及することもなかった。
ただ、「判断に使用できる」という肯定の文章。
そしてその下に、常に同じ名があった。
『ハン・ユンジェ』
ソヨンは数編の論文を広げ、赤いペンで下線を引いた。
文末に滲み出る特有の乾いた口調と、句読点の前の微細な癖。
それは、「ハン・ユンジェ」という書き手が残した「言語的指紋」だった。
ソヨンはメモ帳に静かに書き記した。
[兄は止めようとし、この人は通り抜けさせた。]
その時、兄がなぜ最後まであの文章を消さなかったのか、分かった気がした。
【同時刻、ユンジェの部屋】
ユンジェは古いファイルを再び開いていた。
A-12が送ってきた資料だ。「参照だけしろ」という言葉と共に。
ユンジェは習慣のように、まず要約部分に目を通した。
そして、手が止まった。
見覚えのある文章。
「外部の判断材料として使用可能」
その下に、ごく小さく残された一つのコメント。
『追加検証が必要』
ユンジェの指先が止まった。
この文章を、以前、見たことがあった。
いや、「削除」したことがあった。
あの時は、意味など考えなかった。
流れに合わない不必要な一文だと思った。判断を鈍らせる邪魔な一文だと。
ユンジェは再び、その名を思い浮かべた。
イ・ソジュン。
研究員。報告書の検討者。そして――。
「判断を下すまいとしていた男」
ユンジェはノートパソコンを閉じた。
脳裏に、A-12の言葉がゆっくりと蘇る。
「ハン・ユンジェさんは、基準を作ったことはありません。ただ、基準として使える文章を整理してきただけです」
その単語一つひとつ、すべての文章が、鳥肌が立つほど不快に感じられた。
【夜、ソヨンの自宅】
ソヨンは兄の最後のメモ帳を再び広げた。
短い一文が、ページの隅に残っていた。
『俺が付け加えた一文が、誰かを救うこともあるかもしれない』
彼女はそのページを閉じることができなかった。
今では、その言葉が希望ではなく、重い責任のように感じられたからだ。
兄は決断を下さなかった。
だが、決断が下されないように、そこで踏みとどまっていた。
ソヨンはスマートフォンを手にした。
ユンジェの名の上で、指がしばし止まった。
そして、ゆっくりとボタンを押した。
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「兄は止めようとし、この人は通り抜けさせた」
ソヨンが見つけた残酷な対比。
ユンジェが「効率的ではない」として削除したあの一文こそが、兄・ソジュンが命懸けで残したブレーキだったのかもしれません。
ついにソヨンからの着信。
二人の対話は、論文工場の闇をどう暴いていくのでしょうか。
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