第18話. 帰属
「責任を負う必要はありません。ただ、結果はあなたの名で整理されます」
かつて自分が綴った些細な形容詞一つが、数年の時を経て、誰かの人生を沈める巨大な波となって戻ってきました。
ハン・ユンジェという実名で突きつけられる、逃れられない因果の罠。
書き換える権한すら奪われたまま、自分の名で「真実」が確定していく恐怖。
第18話、過去と現在が残酷に交差します。
目を覚ました時、最初に感じたのは渇きだった。
アラームはまだ鳴っていなかったが、脳裏では昨夜キーボードを叩いた「カタッ」という音が幻聴のように繰り返されていた。
窓の外は昨日と同じように曇っていたが、その霞はもはや自分を保護する霧ではなく、自分を閉じ込める壁のように感じられた。
ユンジェは習慣のように家を出た。どこへ行くべきかも考えなかった。
家の中にいれば、選択が現実になってしまいそうだったからだ。
街はいつもと変わらず、人々はそれぞれの速さで歩いていた。
ユンジェは意識的に、何も考えまいとした。
その時、スマートフォンが短く振動した。
着信音はなかった。
画面を見下ろすと、メッセージが一つ届いていた。
[再作成対象 – 第2次]
送信完了。
続いて、ファイルが一つ添付された。
ユンジェはすぐには開かなかった。
開かなくても、既に何かが始まっていることを知っていたからだ。
しばらくして、人混みを離れた後でようやく彼はファイルを開いた。
事件要約。被害者情報。事件発生日時。
一行目を読んだ瞬間、ユンジェの視線が止まった。
見知らぬ名前。事件番号も、彼が記憶しているどの記録とも一致しなかった。
彼は画面をゆっくりとスクロールした。
そして、日付のところで指が止まった。
(あの日は……)
ユンジェが検事時代、別の事件の公判記録を整理していた、まさにその週だった。
重なるはずのない時間が、不気味なほど近くに張り付いていた。
ユンジェは画面を見つめたまま、ゆっくりと首を振った。
「……違う」
これは自分が担当した事件ではなかった。
その時、スマートフォンのスピーカーから、極めて低い音量で聞き慣れた声が流れてきた。
「A-73」
ユンジェは息を吸い込んだ。
A-12だった。
「直接担当された事件ではありません」
声は平静で、どの音節にも強調はなかった。
「ですが、この事件がここまで至る過程には、ハン・ユンジェ氏の記録が含まれています」
その名が、明瞭に聞こえた。
A-73ではない。
「ハン・ユンジェ氏」
コードではなく、実名。そして、敬称。
ユンジェは声に力を込めた。
「俺が作成した記録ではありません」
「直接書いていないというだけです」
A-12は即座に答えた。
「ハン・ユンジェ氏が書いてきた文章は、記録を止めさせ、あるいは継続させる役割を果たしてきました」
ユンジェはしばし言葉を失った。
(俺が五年前に投げ出した些細な形容詞一つが、今日、誰かの人生を沈没させる巨大な波となって戻ってきた。このシステムの中で記録は消えるのではなく、雪だるまのように膨れ上がりながら、俺に向かって転がってきていたんだ)
「なら、俺は……」
息을... ではなく、息を整えた後、低い声で尋ねた。
「……どこまで責任を負えばいいんですか」
しばしの静寂。
そしてA-12が言った。
「責任を負う必要はありません」
それでも、その言葉は慰めには聞こえなかった。
「ただ、結果はハン・ユンジェ氏の名で整理されます」
スマートフォンの画面が勝手に切り替わった。
ファイルの下部に、新しい一文が追加されていた。
※本再作成は、ハン・ユンジェ氏が直接作成した記録ではありません。
※本再作成は, ハン・ユンジェ氏の承認権限の下で処理されており, その結果はハン・ユンジェ氏に帰属します。
ユンジェの呼吸が、目に見えて遅くなった。
今回は、確認ボタンも、キャンセルボタンもなかった。
既に「完了」した状態だった。
「選択肢は……ないようですね」
ユンジェが言った。
A-12は否定しなかった。
「選択は既に終わっています」
「ハン・ユンジェ氏がその文章を書き始めた時からですよ」
音声はそのまま途切れた。
(俺の文章が原因となって発生したすべての結果が、今や俺の名の下に収束しようとしていた。これは単純な代筆ではなく、過去と現在が絡み合った累積的な因果関係の罠だった)
人々は相変わらず、それぞれの方向へと通り過ぎていた。
誰も知る由もなかった。
今この瞬間にも、彼の名で何かが世に放たれる準備を終えたという事実を。
ユンジェはゆっくりと息を吸い込んだ。
もはや問題は、組織が何をするかではなかった。
自分がどれほどの扉を、既に開けてしまっていたかだった。
その時、スマートフォンが再び振動した。
今度はファイルではなかった。短い一文が一つ。
[再作成対象 – 第2次]
※検討は選択事項ではありません。
※拒否権限:なし。
ユンジェは画面を閉じることができなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「ハン・ユンジェ」という実名で呼ばれた瞬間、逃げ場のない現実が彼を襲います。
自分の名前で、自分の知らない事実が「確定」していく恐怖。
組織が仕掛けたイン果の罠は、想像以上に深くユンジェを飲み込もうとしています。
次回、物語は新たな局面へ。
もう一人の「加害者」との対峙が始まります。
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