第15話. 三枚目の扉
「削除したはずだ。消し去ったと信じていた」
しかし、目の前の画面には、逃れられない真実が冷酷に刻まれていました。
再教育の核心部。
監視者A-12は、ユンジェの検事時代の「記録」を突きつけ、彼の存在そのものを揺さぶります。
父の命か、それとも自らの信念か。
「受諾」か「拒否」か。
クリックの音が響くその瞬間、新たな地獄の幕が上がります。
扉がゆっくりと開くと、冷たい空気が中から流れ出してきた。
ユンジェは再び、深く息を吸い込んだ。
蛍光色に近い白の照明が、四角い空間を満たしている。
窓も装飾もない部屋。
中央には、古いデスクが一つと、ノートパソコンが一台。
画面は既に起動しており、カーソルが点滅しながら彼を待っているようだった。
彼が近づくと、パソコンが勝手に文書を開いた。
その瞬間、ユンジェは息を呑まずにはいられなかった。
その文書の中には、昨夜、自分が消したはずの文章がそのまま残っていたのだ。
(消したはずだ。削除したと信じていた)
しかし画面には「削除の痕跡」などではなく、まるで誰かが書き直した『真実』のように、鮮明に刻まれていた。
[2019-03-24 00:07] 再教育不参加メッセージ送信 - 復元
ユンジェは指先の微かな震えを感じながら、画面から視線を外した。
その時――。
スピーカーから声が響いた。
「お会いできて光栄です、A-73」
冷たく、規則的で、聞き覚えのある声。
A-12だった。
ユンジェはノートパソコンの方へ向き直った。
「……あんたが、A-12か?」
「はい」
彼の声が、部屋全体を満たした。
「再教育の第一段階を、私が直接担当します」
声に感情はほとんどなかったが、言葉の端々に奇妙な圧力が感じられた。
A-12が告げる。
「今見ている文章は、すべてあなたが綴った記録です。ですが、あなたの記録は……常に修正が可能です」
彼の言葉が終わるや否や、画面の文章の下に新たな一行が自動的に入力された。
[記録の所有者は、作成者ではない]
ユンジェは拳を固く握りしめた。
「なぜこんな真似をする? 俺가... いや、俺が何をしたというんだ!」
再び、画面が切り替わった。
今度はユンジェが検事時代に作成した公判記録、供述書、証拠目録。
彼が関わったすべてのファイルが、猛烈な速さで流れていく。
A-12が氷のように冷たく、そして明瞭に言った。
「あなたは既に長い間、記録を作成してきました。人の真実を記し、判断を下し、誰かの人生に線を引く仕事」
その瞬間、ユンジェの身体が硬直した。
「ですが、あなたの記録は不完全です。消されることも、歪められることも、隠されることもあります」
画面が最後に止まったのは――
チョン・ユンソク事件の記録だった。
そして、もう一つ。
イ・ソジュン。
ユンジェは息が詰まった。
「……なぜ、この記録がここにある?」
A-12は淡々と話を続けた。
「あなたの過去は、組織의... 組織の未来と繋がっています。したがって、最初の課題は――」
パソコンの画面下部に、二つの選択肢が浮かび上がった。
[受諾]
[拒否]
「再教育の第一段階です、A-73。あなたの記録を……書き直しなさい」
ユンジェは画面を睨みつけた。
「書き直せだと? ……何を」
「真実を選択してください。あるいは、新たな真実を書きなさい」
意味を完全に理解する前に、画面が再び変化した。
ユンジェの父の、手術費支援承認書。
その下には、見慣れない一文。
[A-73の協力時のみ、支援が継続されます]
心臓が崩れ落ちるような衝撃だった。
「……脅迫か?」
A-12は答えなかった。
代わりに、非常に低い声で問いかけた。
「あなたは誰かの命のために、記録を書き換えたことがありますか?」
ユンジェの脳裏に、ある顔がよぎった。
(検事時代、証拠目録を作成していたあの夜……)
彼は奥歯を噛み締めた。
その質問は、選択肢よりも先に突きつけられた尋問のように感じられた。
その時――。
廊下から足音が聞こえてきた。
規則的で、ゆっくりとした足取り。
(一人。いや……二人か)
A-12の声が部屋を満たす。
「選択してください、A-73」
画面の [受諾] ボタンが、微かに点滅した。
「自分の記録を書き直すのか、組織の記録の中で消えるのか」
足音が再び近づく。
今度は扉の前で、正確に止まった。
ユンジェは激しく息을... 息を吐き出した。
扉が開くのが先か、選択肢が消えるのが先か。
その境界線に立たされている感覚。
そして彼は、震える手をゆっくりと画面の上へ伸ばした。
扉が開く音。カーソルが点滅する音。
その狭間のどこかで――。
「クリック」
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「記録の所有者は作成者ではない」
個人の真実すら組織の所有物となる冷酷な現実。
そして、父の命を人質に取られたユンジェが下した「クリック」の選択とは?
廊下の向こうから近づく足音の主は一体誰なのか。
再教育という名の「過去の清算」が始まります。
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