第13話. 選択の幻想
「再教育は、選択肢ではありません」
拒否したはずのメッセージに返ってきたのは、凍りつくような死の宣告でした。
監視者A-12、チェ・ミンホからの直接の接触。
逃げ場のない地下鉄、見知らぬ男の視線、そして自分を撮った写真が届く恐怖。
ユンジェが足を踏み入れた「ラウンジ」の扉の向こうに待つのは、救いか、それともさらなる絶望か。
緊迫の第13話、始まります。
「再教育への不参加メッセージを送信しますか?」
[送信]
その瞬間、世界が止まったかのように静まり返った。
手の中のスマートフォンは、死体のように冷たく冷え切っていく。
(一秒。二秒。三秒……)
静寂を切り裂く、鋭い振動。
表示されたのは、発信者番号非通知。
ユンジェの指先が、目に見えて震えた。
通話ボタンを押した瞬間、全身の細胞が凍りつくのを感じた。
「……もしもし」
沈黙。
そして、剃刀のように冷たく、心臓を直接凍りつかせるような声が響いた。
「A-12です」
ユンジェの鼓動が、一時停止した。
「不可能です。キャンセルの受理は」
その瞬間、チョン・ウジンの言葉が脳裏をよぎった。
受話器の向こう側にいる存在。
『A-12……チェ・ミンホ』
「再教育は選択ではありません」
A-12が淡々と告げた。
「時間の調整は受け付けますが、過程そのものを避けることはできません」
「……もし、俺が行かなかったら?」
「それは――」
声が、さらに一段と低くなった。
「組織のプロトコルに従って、粛々と処理されるだけです」
A-12は、続けて言った。
「あなたがどのような選択をするか。
そして、その後にどのような『沈黙』を選ぶかによって、
あなたの運命が決まります」
ユンジェの呼吸が、荒く乱れた。
「ちなみに」
A-12が付け加えた。
「現在、システム内部に『再教育への不参加者』という記録は存在しません」
短い、不気味な沈黙。
「全員が、自発的な参加でした」
最後の一文が、耳の奥深くまで毒のように突き刺さった。
「選択は組織がするものです」
「まだ身の程をわきまえていないようですね。辞表を書いた時の、あの傲慢さがまだ残っているようだ」
ツッ――。通話が切れた。
ユンジェはスマートフォンを握りしめたまま、しばらく動くことができなかった。
【地下鉄二号線 – 午前9時12分】
江南行きの列車。
窓に映る自分の顔の背後に、一人の男が見えた。
スーツ姿。
新聞を広げているが、そのページは一度もめくられない。
五分。
十分。
ユンジェが意を決して顔を向けた瞬間、その男は静かに立ち上がり、停車した駅へと降りていった。
まるで、最初からそこに誰もいなかったかのように。
(誰だ……なぜ俺を監視している?)
電光掲示板:江南まで、あと三駅。
ユンジェの背中には、じっとりと冷たい汗が流れた。
【江南 ヒョンジュクビル地下二階 – 午前9時59分】
地下へ降りる階段。
一歩進むごとに、闇が物理的な重さを持って深くなっていく。
冷たく、規則的な青白い照明。
病院でも、オフィスでもない。
現実の論理から切り離された、異質な空間。
そして――。
行き止まりの廊下の突き当たりに、三つの扉が現れた。
[相談室] [ラウンジ] [検査室]
ユンジェは左の扉に向かって一歩踏み出し、そこで足を止めた。
その時、ポケットの中のスマートフォンが点灯した。
『正面の扉へ』
送信元:非公開
ユンジェは、ゆっくりと後ろを振り返った。
廊下は、無人だった。
しかし――。
誰かが見ている。確実に。
カメラのレンズ越しか、あるいは肉眼か。
今この瞬間も、ユンジェのすべての挙動が記録されていた。
彼は震える手で、正面にある「ラウンジ」のドアノブを掴んだ。
その時、スマートフォンが再び鳴った。
写真が、一枚。
たった今、自分が立っていた場所。
正確にその角度から、自分の背中を撮った写真だった。
血が凍りつくような悪寒が、全身を駆け抜けた。
(誰が。どこから。どうやって?)
(扉の中には何がある?)
(そして、その扉の向こうで待っているのは……?)
ユンジェは息を止め、ゆっくりとドアノブを回した。
カチャリ。
闇の中で、一人の男のシルエットが、ゆっくりとユンジェの方を向いた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「自発的」という名の強制。そして逃げ場のない監視。
ユンジェを待ち受けていたのは、あまりにも冷徹な組織の現実でした。
扉の向こう側で、闇の中に佇むシルエット。
果たして彼は、ユンジェにとっての敵か、それとも……?
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