エピローグ「震災後の復興物語」
大正12年(1923年)9月から、数ヶ月が過ぎた。
焼け野原は、少しずつ姿を変え始めていた。
灰の山だった浅草の通りには、バラック小屋が並び、仮設の夜店が灯りをともす。
銀座通りは、ピンコロ石の舗装工事が進み、瓦礫の隙間から新しい煉瓦の建物が顔を覗かせる。
帝都復興院の計画のもと、道路は広く取られ、橋は鉄筋コンクリートで架け替えられ、火災に強い街づくりが始まっていた。
青葉葵は、家族と共に、焼け跡の小さなバラックに住んでいた。
着物は新しい銘仙に変わり、傷跡は薄く残るが、紅い線はほとんど消えていた。
金色の瞳は、もう現れない。
ただ、優しい青葉色の瞳で、毎朝、家族を迎える。
「あらあら〜、おはようございますわ。今日はいいお天気ね」
葵は、朝の湯を沸かし、羊羹を切り分ける。
茂は、和菓子屋の再建に奔走し、仮設の店先で小さな羊羹を売っていた。
「今日も、たくさん作ったよ」
菫は、近所の子供たちに読み聞かせをし、震災の記憶を優しく語り継ぐ。
「怖かったけど、みんなで乗り越えたのよ」
みーちゃんは、バラックの軒下で日向ぼっこをし、時折、穢れの残り香を探すが、もう何も嗅ぎつけない。
浅草の仲見世は、再建途中のバラック商店街が賑わい始めていた。
人々は、灰の中から立ち上がり、笑顔を取り戻しつつあった。
銀座では、復興小学校が建ち上がり、子供たちの声が響く。
泰明小学校のような、頑丈な鉄筋コンクリートの校舎が、未来への希望を象徴していた。
ある日、葵は家族を連れて、銀座通りを歩いた。
ピンコロ石の道は、まだ一部しか完成していなかったが、足元が固く、頼もしい。
新しいカフェーが開き、モガの女性たちがハイカラな服で通りを闊歩する。
「あらあら〜、賑やかになってきましたわね」
葵は、微笑む。
菫が、葵の手を握る。
「菊乃おばあちゃんも、きっと喜んでるわ」
茂が、静かに頷く。
「これから、もっと大きくなるよ。俺たちの店も」
みーちゃんが、足元でじゃれる。
焼け野原の片隅に、あの青い花は増えていた。
小さな花が、灰を突き破り、青い日和を広げていく。
葵は、空を見上げる。
青い空。
大正の終わりが近づき、昭和の時代が来る。
だが、家族の絆は、変わらない。
震災の傷は、完全に癒えない。
それでも、人々は立ち上がり、街を築き直す。
葵は、そっと呟く。
「えへへ……これからも、みんなで、青い日和を続けましょうね」
家族の笑顔が、灰の街に小さな光を灯す。
復興は、まだ始まったばかり。
だが、そこには、確かな希望があった。
『大正あおい日和』 完結。




