第9話「青い約束の終わり」
大正12年9月3日、正午。
焼け野原は、静寂に包まれていた。
灰の雪が、再び降り始める。
巨大な核の残骸は、崩れ落ちた肉の山となり、ゆっくり溶け始めている。
だが、最後の脈動。
中心に、小さな赤黒い核が残る。
それが、地獄門の最後の欠片。
完全消滅させるには、最後の供物が必要だった。
青葉葵は、立ち上がる。
体は限界。
紅い線は、切断寸前。
金色の瞳は、薄く輝く。
無表情。
薄い、冷たい微笑み。
「……これで、終わり」
菫は、地面に座り込み、血を吐きながらも、葵を見つめる。
「葵……私も」
葵は、首を振る。
「母さんは……ここで待ってて」
菫の目が、涙で揺れる。
茂が、魔法瓶を握りしめ、近づく。
「葵……!」
葵は、振り返る。
一瞬、柔らかな視線。
「……お父さん、母さん、みーちゃん」
言葉は、少ない。
彼女は、核の中心へ歩み寄る。
核が、反応する。
最後の触手が、伸びる。
葵は、避けない。
触手が、体を貫く。
ズブズブ……複数本が、胸を、腹を、背中を。
血が、噴き出す。
彼女は、動かない。
ただ、両手を核に押し当てる。
九字護身法・極。
光が、彼女の体から溢れ出す。
紅い糸が、完全に輝き、核を縛る。
核が、激しく痙攣。
悲鳴が、最後の咆哮。
葵の体が、光に包まれる。
代償の極限。
三世代の血が、すべてを注ぎ込む。
菊乃の分、菫の分、葵自身の分。
光が、爆発。
核が、完全に砕け散る。
灰になる。
最後の悲鳴が、空に吸い込まれ、消える。
焼け野原に、静寂。
葵の体が、ゆっくり倒れる。
金色の瞳が、閉じかける。
次の瞬間。
戦闘の冷たさが、完全に消える。
弱々しい声。
「……終わった……わね」
微笑み。
菫が、這って近づく。
茂が、駆け寄り、葵を抱き上げる。
みーちゃんが、葵の頰に鼻を寄せる。
灰の空に、青い空が広がる。
焼け跡の瓦礫の隙間に、小さな青い花が、一輪咲く。
葵は、ゆっくり目を開く。
金色の瞳が、日常の柔らかさに戻る。
「……あらあら〜」
弱い、いつもの声。
「みんな……おかえりなさいませ」
家族が、寄り添う。
羊羹の包みが、茂の手の中で、温かく残る。
焼け野原に、青い日和が訪れる。




