第7話 団子作りで大はしゃぎ
梅雨の合間の晴れた日曜日。
青葉堂の店先は、いつもより少し賑やかだった。
暖簾をくぐって入ってくる子供たちの声が、路地に響き渡る。
「あおいちゃーん! 今日は団子作りやるって聞いたよー!」
先頭を切って駆け込んできたのは、いつもの三人組——太郎、次郎、花子。
今日はさらに近所の子供たちが四人加わり、合計七人の小さな集団だ。
みんな埃っぽい着物に草履姿で、目を輝かせている。
葵はエプロンを腰に巻き直し、えくぼを深くして迎える。
「ふふっ、みんなおはよう。今日は特別に、みたらし団子を作りましょうね。でも、ちゃんと手を洗ってからよ」
子供たちは一斉に「はーい!」と返事し、庭の井戸へ走る。
水を汲んで手を洗い、濡れた手で顔を拭きながら戻ってくる姿は、まるで子犬の群れのようだ。
葵は店内の作業台を広げ、材料を並べる。
上新粉、砂糖、醤油、みりん、水。
小さな竹串もたくさん用意してある。
「まずはお団子生地を作るわよ。みんなで一緒にこねこねしましょう」
葵は大きなボウルに上新粉を入れ、水を少しずつ加えていく。
子供たちは作業台の周りに輪になって立ち、興味津々で覗き込む。
太郎が一番乗りで手を突っ込む。
「こうやって、ぎゅーって!」
次郎が真似してこね始めるが、すぐに粉が飛び散る。
「わー、粉だらけ!」
花子は小さく笑いながら、丁寧に丸めようとする。
「あおいちゃんみたいに、きれいに丸くしたい……」
葵は優しく手を添えて教える。
「こうよ。力を入れすぎないで、優しく転がすの。団子は優しく扱ってあげないと、固くなっちゃうわ」
子供たちは真剣な顔でこね、丸めていく。
不格好な団子が次々と出来上がり、笑い声が絶えない。
「太郎の団子、でっかい!」
「次郎のは、つぶれてるよ〜」
「花子の団子、一番きれい!」
葵は出来上がった団子を竹串に刺し、鍋でお湯を沸かす。
湯気が立ち上る中、子供たちは興奮して飛び跳ねる。
「次はみたらしタレだよ。甘辛いのがいいよね」
葵は小さな鍋に醤油、みりん、砂糖を入れ、火にかける。
子供たちに順番に木べらを持たせて、かき混ぜさせる。
「熱いから気をつけてね。ふつふつしてきたら、火を弱めて……」
太郎がかき混ぜすぎてタレが飛び散り、みんなで大笑い。
「お父さんみたいに、帳簿にタレがついちゃった!」
茂が座敷から顔を出し、苦笑する。
「おいおい、俺の帳簿を汚すなよ〜」
子供たちはさらに盛り上がり、葵はタレを火から下ろして冷ます。
団子を茹で上げ、水で冷やし、タレをたっぷりかけて完成。
「はい、みんなの団子、出来上がり〜!」
七本の串に刺さったみたらし団子が、子供たちの前に並ぶ。
みんな一斉に頰張る。
「うまいー!」
「あおいちゃんのタレ、最高!」
花子が頰を膨らませて言う。
「あおいちゃんみたいに、優しい味がする」
葵は子供たちの頭を順番に撫でる。
「ふふっ、みんな上手だったわよ。また一緒に作りましょうね」
子供たちは満足げに団子を食べ終え、串を返しながら礼を言う。
「ありがとう、あおいちゃん! また来るね!」
「次は桜餅作り!」
みんなが路地を駆けていくのを、葵は店先で見送る。
陽光が子供たちの背中を照らし、笑い声が遠ざかっていく。
店に戻ると、祖母・菊乃が静かに座っていた。
「あおい、子供たちと楽しそうだったね」
「ええ、みんな元気で可愛いわ。おばあちゃんも一緒に食べたかった?」
菊乃は小さく笑う。
「私はもういいよ。でも……あの子たちの笑顔を守るためなら、お前は強いよね」
葵の笑顔が、一瞬だけ固くなる。
「……はい。おばあちゃん」
菊乃はそれ以上言わず、羊羹を切り始める。
夕方近く、みーちゃんが庭からやってきて、葵の足元にスリスリ。
残った団子を一つ、みーちゃんに分けてあげる。
「にゃんちゃんも、甘いもの好き?」
みーちゃんは興味なさげに匂いを嗅ぐだけ。
葵はふっと空を見上げる。
青い空に、薄い雲が流れている。
だが、路地の奥で、瓦斯灯の影がまだ日中なのに少し濃く感じる。
「…………」
瞳に、冷たい光が宿る。
しかし葵はすぐに笑顔に戻り、店内へ。
「さて、明日の仕込みを始めなくちゃ」
青葉堂の小さな灯りが、今日も優しく揺れていた。




