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朝の連続ホラー小説 大正あおい日和  作者: 泉水遊馬
第6章「血の絆と紅の代償」
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第10話「紅の極限」

挿絵(By みてみん)



葵は宙に浮いたまま、静かに右手を前に差し出していた。

金色の瞳は完全に輝きを増し、瞳の奥で無数の赤黒い眼球が瞬きを繰り返す。

だが、今のそれは暴走ではない。

血脈のすべてを、覚醒の刃として研ぎ澄ました状態。

薄い、冷たい微笑みが唇に浮かぶ。

「……お母さん。お祖母さん。少し、下がって」

声は低く、抑揚がない。

いつもの「あらあら〜」は、どこにもない。

大ボスの触手が、一斉に葵へ殺到する。

百本を超える黒い鞭が、空間を切り裂きながら迫る。

葵は、動かない。

ただ、指先を軽く曲げるだけ。

その瞬間——

「圧縮封魔・五芒星崩壊」

空間が、歪んだ。

葵の周囲に、五芒星の光陣が瞬時に展開。

五つの頂点から、紅い光の鎖が無数に伸び、大ボスの触手を一本一本、根元から絡め取る。

触手が、びくりと硬直する。

次の瞬間——

鎖が一気に収縮。

「ぐぅ……ぅぅ……!」

大ボスの巨大眼球から、初めての苦悶の唸りが漏れた。

触手が、根元から引きちぎられ、黒い液体が噴き出す。

肉が裂ける音、骨が砕ける音が、部屋中に響き渡る。

だが、それで終わらない。

葵の左手が、ゆっくりと胸の前で交差する。

「浄界七曜陣・極」

七つの光点が、通常の七倍の輝きを放ち、巨大な円陣を形成。

円陣は部屋全体を覆い、大ボスの本体を完全に閉じ込める。

大ボスの表面に、無数の小さな瞳が恐怖に歪む。

「逃がさない」

葵の瞳が、さらに金色を濃くする。

両手を広げ、掌を合わせる。

「沸魂業湯・紅蓮極限」

紅蓮の炎が、掌から噴き出し——

一瞬で、液体化。

沸騰した血の湯が、津波のように大ボスを飲み込む。

じゅうじゅう……じゅわぁぁぁ……

溶ける音が、連続して響く。

仮面の顔が、次々と溶け落ち、赤黒い瞳が一つずつ潰れていく。

大ボスの巨大眼球が、激しく痙攣する。

本体が、内側から爆ぜようとする。

だが、葵は無表情で、さらに手を押し込む。

「これで……終わり」

最後の術。

「光針穿刺・極」

葵の指先から、無数の光の針が、無限に生まれる。

針は一本一本が、紅い線のように細く、しかし鋭く。

針の群れが、大ボスの眼球の中心——最も深い赤黒い瞳へ、一斉に突き刺さる。

「ぅ……ぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

大ボスの咆哮が、部屋を震わせる。

だが、それはすぐに途切れた。

眼球の表面が、ひび割れ。

無数の瞳が、一斉に光を失う。

黒い靄が、悲鳴を上げながら崩壊し、裂け目へと吸い込まれていく。

最後に残った一本の触手が、葵の足元へ伸びる。

だが、葵はただ、指を軽く振るだけ。

触手は、途中で粉々に砕け散った。

すべてが、静かになった。

裂け目が、ゆっくりと閉じる。

地下の脈動が——完全に、止まった。

葵の体が、ゆっくりと畳に降り立つ。

金色の瞳が、瞬時に元の柔らかい青に戻る。

紅い線が、急速に後退し、指先だけに残る。

葵は、ふらりとよろめき——

5秒もかからず、いつもの笑顔を浮かべた。

「……あらあら〜。みんな、ごめんなさいね……ふふっ、びっくりさせたわ」

弱々しい声。

だが、確かな笑み。

菫が、駆け寄り、葵を抱きしめる。

「葵……!」

菊乃も、静かに近づき、葵の頭を撫でる。

「よく……やったのう」

茂は、涙を流しながら、三人を抱きしめた。

「もう……もう、無理するなよ……」

葵は、茂の胸に顔を埋め、弱々しく笑う。

「えへへ……大丈夫よ。お父さん。お母さん。お祖母さん……みんなが、いるから」

部屋に、朝の光が満ちる。

地下は、もう静かだった。

だが——

遠く、東京の空の下で。

まだ、微かな地鳴りが、かすかに響いていた。




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