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朝の連続ホラー小説 大正あおい日和  作者: 泉水遊馬
第6章「血の絆と紅の代償」
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第9話「闇の胎動」


昼下がりの青葉家は、異様な静けさに包まれていた。

陽光が障子を透かし、畳に柔らかな光の帯を落としている。

葵はまだ深い眠りの中、紅い線が体を這いながらも、呼吸は穏やかだった。

茂は葵のそばで、そっと手を握り続けている。

菫と菊乃は、囲炉裏の前に座り、互いの指先の紅い線を見つめていた。

突然——

地鳴りが、爆発的に響いた。

今までとは比べものにならない、深い、低い、骨まで響く振動。

家全体が、ぐらぐらと揺れ、障子が破れ、茶碗が倒れて割れた。

茂が葵を抱きかかえる。

「何だ……!?」

地下から、黒い靄が噴き上がってきた。

畳を突き破り、部屋の中央に巨大な裂け目が開く。

裂け目から、ゆっくりと姿を現したのは——

脈動の核の本体。

これまで葵が倒したのは、ただの「眼球の集合体」だった。

今現れたのは、それより遥かに巨大で、禍々しい。

直径三メートルを超える、赤黒い巨大な眼球。

表面に、無数の小さな瞳が蠢き、重なり合い、瞬きを繰り返す。

眼球の周囲を、無数の黒い触手が取り巻き、触手の先端には、それぞれ小さな仮面のような顔が付いている。

触手は数十本、いや、百本を超え、部屋の壁、天井、床を這い回り、黒い液体を滴らせながら溶かしていく。

空気が、重く淀む。

菊乃が、立ち上がった。

「これが……本体じゃ」

菫も、即座に護符を構える。

「葵を……守るわ」

大ボス——「東京の闇」の胎児は、無言で触手を振り上げた。

一瞬で、十数本の触手が菫と菊乃へ襲いかかる。

菊乃が九字を切り、光の壁を展開。

「浄界七曜陣!」

七つの光点が円を描き、触手を押し返す。

だが、触手は光に触れた瞬間、溶けながらも再生し、数を増やしていく。

菫が沸魂業湯を放つ。

紅蓮の湯が触手を包み、じゅうじゅうと溶かす音が響く。

しかし、溶けた触手はすぐに新しい芽を出し、仮面の顔が嘲笑うように歪む。

「効かん……再生が早すぎる」

菊乃の額に、汗が浮かぶ。

大ボスの巨大眼球が、ゆっくりと瞬きをする。

その瞬間——

無数の小さな瞳が、一斉に金色に輝いた。

菫と菊乃の体が、びくりと震える。

紅い線が、激しく脈打ち、血脈が逆流するような痛みが走る。

「くっ……!」

菫が膝をつく。

菊乃も、片膝を折る。

触手が、二人の体を絡め取ろうと迫る。

茂が叫ぶ。

「菫! 母さん!」

だが、触手の一本が茂へも伸びる。

茂は葵を抱きしめ、動けない。

大ボスの眼球が、低く唸る。

まるで、笑っているように。

菫が、歯を食いしばる。

「まだ……終われない……!」

最後の力を振り絞り、紅蓮浄化を最大出力で放とうとする。

だが、手が震え、光が弱まる。

菊乃の九字も、途中で途切れる。

触手が、菫の首に巻きつき、菊乃の腕を締め上げる。

黒い液体が、二人の肌を焼く。

悲鳴が、漏れる。

「う……あぁ……!」

追いつめられた瞬間——

葵の指が、ぴくりと動いた。

金色の瞳が、ゆっくりと開く。

体が、熱くなる。

紅い線が、全身を駆け巡り、爆発的に輝き出す。

葵の体が、ゆっくりと浮き上がる。

髪が逆立ち、銘仙の裾が血に染まる。

金色の瞳の奥に、無数の赤黒い眼球が、重なり合う。

だが、今度は——違う。

それは、暴走ではない。

覚醒した、冷たい決意。

葵の唇が、薄く、冷たく微笑む。

「……お母さん。お祖母さん」

低く、抑揚のない声。

「私が……封じます」

葵が、宙に浮いたまま、右手を前に差し出す。

指先から、紅い光が奔流のように噴き出した。

部屋全体が、金色と紅の光に包まれる。

触手が、一瞬で硬直する。

葵の瞳が、完全に金色に輝く。

「紅の……限界を超えて」

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