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朝の連続ホラー小説 大正あおい日和  作者: 泉水遊馬
第5章「闇の脈動」
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第2話「菫からの第二の手紙」

昼下がりの青葉家。

父・茂は店先で客と和やかに話している。

葵は奥の座敷で、祖母・菊乃と向かい合っていた。

郵便受けに、いつものように母・菫からの封書が届いていた。

封蝋はいつもより濃い紅色で、

まるで血を固めたように見える。

葵はそっと封を切る。

中から、細い筆跡の手紙が一枚。

そして、もう一枚、小さな紙片が落ちた。

――葵へ。

お前の血が疼き始めたという知らせを、菊乃から受け取った。

まだ抑えられているうちに、伝えなければならないことがある。

渡辺家は、横浜の古い退魔の家系だった。

源頼光四天王、渡辺綱の末裔。

彼らはかつて「東京の闇」の一部を、深く地下に封じた。

だがその封印は、百年以上前にすでに綻び始めていた。

大正の空気が変わった頃、

ハイカラな風が吹き始めた頃から、

綻びは広がり始めたのだ。

お前の中の「紅」は、

渡辺家の血と、

我が家の血が交わった結果生まれたもの。

それは強大な力だが、同時に、

「闇」を呼び寄せる灯火でもある。

抑えきれなくなれば、

東京そのものが、飲み込まれる。

今すぐではない。

だが、近い。

決して、ひとりで抱え込まないこと。

菊乃にすべてを委ねなさい。

そして……もしもの時は、

私が帰るまで、待たないで。

――すみれ

手紙を読み終えた葵の指が、微かに震える。

紙の端を握る手に、

また紅い線が一瞬、浮かんだ。

「……お母さん」

葵は小さく呟く。

声はいつも通り柔らかく、

だがどこか、遠くへ届くようにかすれている。

菊乃が静かに手を伸ばし、

葵の手を包む。

「菫の言う通りだ。

お前の血は、ただ強いだけじゃない。

闇を引き寄せる」

「…………はい」

葵は目を伏せる。

普段の「あらあら〜」も「ふふっ」も、今は出ない。

菊乃は続ける。

「渡辺清隆……あの男が最後に残した言葉を、覚えているかい?

『紅の娘が目覚めれば、闇は目覚める。だが、紅の娘が抑えきれなければ、東京は終わる』」

葵の瞳が、わずかに揺れる。

「私は……抑えられるでしょうか」

菊乃は答えず、ただ葵の手を強く握った。

その時、座敷の障子越しに、

外から低い地鳴りが響いた。

瓦斯灯の揺らぎのように、

空気が一瞬、歪む。

葵は立ち上がり、窓を開ける。

浅草の路地はいつも通り賑やかだ。

子供が笑い、人が行き交う。

だが、遠くの空に、

薄い黒い靄のようなものが、

ゆっくりと広がっているのが見えた。

一瞬の幻か。

すぐに消える。

葵は深呼吸して、笑顔を戻す。

「ふふっ……おばあちゃん、お昼にしましょう。

今日は水ようかんを作ろうと思ってたんです♪」

菊乃は小さく頷く。

だが、その目は、

葵の背中ではなく、

窓の外の空を見据えていた。

脈動は、

少しずつ、

速くなっている。




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