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第8話 迫る影

 翌朝、村はいつもと同じように目を覚ました。


 鶏の鳴き声が響き、畑では農民たちが鍬を振るい、子どもたちが広場を走り回る。表面だけを見れば、平和そのものだ。


 だが、俺の目には、その平和が薄い氷の上に成り立っているようにしか見えなかった。


 村の入口に立てられた見張り台には、通常の倍の人員を配置している。交代の時間も短縮し、夜間巡回の回数も増やした。


 過剰とも思えるほどの警戒態勢。


 だが、足りないよりはましだ。


「レイン様、これで本当に大丈夫でしょうか……」


 倉庫の前で出会った若い兵士が、不安そうに声をかけてくる。


「完璧はない。でも、何もしないよりはいい」


 俺はそう答えながら、周囲を観察した。


 人の配置、物資の位置、避難経路。


 頭の中では、常に最悪の状況を想定している。


 気づけば、完全に指揮官の思考になっていた。


(……慣れって怖いな)


 ついこの前まで、ただの鑑定士だったはずなのに。


 昼前、偵察に出していた若者が戻ってきた。


 息を切らし、顔色も悪い。


「レインさん……街道の森に、不審な集団がいます」


「人数は?」


「四、五十……いや、もっといるかもしれません」


 やはり、噂は本当だった。


 俺はすぐに村長と主要メンバーを集めた。


 防衛隊長、商業責任者、書記官。


 即席だが、今の村を支える中枢だ。


「盗賊団が近くにいる。数は多い。襲撃は時間の問題だ」


 重い沈黙が落ちる。


「逃げるべきでしょうか……」


 誰かが小さく呟いた。


 俺は首を横に振った。


「今から全員逃がすのは無理だ。荷物も、老人も、子どももいる」


 現実的な問題だった。


「なら……戦うしかないのか」


 防衛隊長が歯を食いしばる。


「勝てる算段はある」


 俺は地図を広げた。


 そして、鑑定で得た情報を元に、最短で勝てる形を組み立てていく。


「南側の森はぬかるみが多い。そこに誘導する」


「補給路は西。ここを断てば長期戦はできない」


「夜襲を警戒して、火魔法班を配置」


 指示を出すたび、皆の表情が引き締まっていく。


 不安は消えない。


 だが、覚悟は生まれていた。


 夕方、村全体に警戒態勢が敷かれた。


 鐘が鳴り、一般住民は避難所へ移動する。


 泣き声、怒号、足音。


 空気は一変していた。


 俺は見張り台の上から、遠くの森を見つめていた。


 風に揺れる木々の向こうに、確かに“何か”が潜んでいる。


(来るな……)


 そう願っても、無駄だ。


 夜。


 月は雲に隠れ、視界は悪い。


 そんな中、南側の警戒線から合図が上がった。


 松明が三度、振られる。


 接触の合図だ。


「……来たか」


 俺は深く息を吸い、静かに号令をかける。


「全員、配置につけ」


 太鼓が鳴り、防衛隊が動く。


 村は、完全に戦場の顔になった。


 その頃、森の奥では、黒ずくめの集団が静かに動き始めていた。


「準備はいいな」


「問題ねえ」


「女の商品も確保してある」


 檻の中で、エルフィナは身を縮めていた。


 遠くで響く太鼓の音に、胸がざわつく。


(……誰か……)


 小さく、祈るように呟く。


 その声が、まだ届くことはない。


 だが、運命の歯車は、確実に回り始めていた。

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