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第7話 変わり始めた村

 セシリアが王都へ戻ってから、村の空気は、少しずつ変わり始めていた。


 見た目は、これまでと何も変わらない。


 木造の家々、細い通り、畑と牧草地。

 朝になれば鶏が鳴き、夕方になれば炊事の煙が立ちのぼる。


 だが、確実に“中身”が違ってきている。


 原因は、はっきりしていた。


 ――王国公認の準自治領。


 この肩書きがついた瞬間から、村はただの辺境集落ではなくなったのだ。



 朝、広場に出ると、見慣れない顔が増えていることに気づく。


「おはようございます、領主様」


 そう声をかけてきたのは、少し前に王都から派遣されてきた若い書記官だった。


「……その呼び方、やめてくれ」


「規定なので」


 笑顔で返され、俺は言い返すのを諦めた。


(誰だよ、こんなの決めたの……)


 広場の端では、大工たちが新しい倉庫を建てている。


 王国支援の資材を保管するためのものだ。


 さらにその奥では、防衛用の簡易柵まで作られていた。


 完全に要塞化の第一歩である。


 村長の家では、定例の打ち合わせが行われていた。


「これが今月の収支です」


 元商人のカイルが帳簿を広げる。


 俺が鑑定で見抜いた、有能すぎる男だ。


「交易収入は前月比で二倍。穀物の買い取り価格も上昇しています」


「……順調すぎないか?」


 正直、怖い。


 普通、こんなにうまくいくものじゃない。


 だがカイルは自信満々だった。


「レイン様の判断が正確すぎるんです」


 それは褒め言葉なのか、プレッシャーなのか。


 微妙だった。


 昼過ぎ、俺は村の外れを巡回していた。


 最近は、防衛面も俺の仕事になっている。


 柵の状態、見張り台の位置、死角――。


 鑑定を使えば、弱点はすぐ分かる。


《防衛効率:72%》

《改善余地:大》


(まだ甘いな……)


 俺は石を拾い、地面に簡単な図を書きながら、改善案をまとめていく。


 自分でも驚くほど、こういうことに慣れてきていた。


 夕方、見張り台に立つ若い兵士が、俺に声をかけてきた。


「最近、怪しい動きがあるんです」


「怪しい?」


「街道の方で、人の出入りが増えてまして……商人にしては様子がおかしい連中です」


 嫌な予感がする。


「特徴は?」


「武器を隠してます。慣れてる感じで」


 ほぼ確定だ。


 盗賊か、傭兵崩れ。


 どちらにせよ、面倒な連中。


「情報は共有しろ。見張りも増やす」


「了解です!」


 その夜、俺は一人で資料を整理していた。


 王国から届く報告書、周辺地域の地図、交易記録。


 いつの間にか、机の上は完全に“領主の仕事場”になっている。


(……何やってんだろ、俺)


 ただ静かに暮らしたかっただけなのに。


 そこへ、村長が静かに入ってきた。


「レイン」


「どうした?」


「……最近、不穏な噂がある」


 村長は低い声で言った。


「この辺りに、大きな盗賊団が流れてきているらしい」


 やっぱりか。


「人数は?」


「五十以上とも」


 小さな村なら、ひとたまりもない規模だ。


 俺は静かに目を閉じた。


(避けられないな……)


 その頃。


 村から数十キロ離れた森の奥。


 薄暗い野営地で、荒くれ者たちが焚き火を囲んでいた。


「次の獲物は、あの発展中の村だ」


「王国の支援が入ってるらしいぜ」


「金になるな」


 その奥の檻の中で、一人のエルフの少女が、膝を抱えて座っていた。


 淡い金髪は汚れ、翠の瞳には怯えと諦めが宿っている。


 ――エルフィナ。


 彼女はまだ、この先の運命を知らなかった。


 そして、彼女を救う男の存在も。

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