第5話 王女と名乗らない少女
朝の畑で、見知らぬ少女に出会った。
「……誰ですか?」
思わず、そう口にしていた。
銀色に近い金髪を後ろで束ね、質素な旅装に身を包んでいる。
だが、どう見ても“普通の旅人”には見えない。
「ご、ごめんなさい!」
少女は慌てて振り返った。
「勝手に畑に入ってしまって……その、植物が好きで……」
(怪しい)
言い訳が下手すぎる。
「この村に、何の用ですか?」
「休養です!」
即答だった。
ますます怪しい。
「……鑑定しても?」
「だ、だめです!!」
早すぎる拒否。
確信した。
(身分高いな)
俺は表情に出さず、軽く鑑定をかける。
《身分:王族》
《魔力適性:S》
《統率値:極高》
《将来性:女王級》
(……女王級?)
冗談だろ。
俺は深呼吸して、何も知らない顔をした。
「元気そうですね」
「えっ? は、はい!」
明らかにホッとしている。
⸻
昼、村長の家で食事をしていると、その少女も同席していた。
「偶然なんですが、ご一緒しても?」
偶然なわけがない。
「どうぞ」
「ありがとうございます!」
礼儀は完璧。
(教育受けすぎだろ……)
「お名前は?」
「……セ、セラです」
遅い。
絶対考えた。
「セラさんは、どこから?」
「えっと……王都、の……近くです!」
ほぼ答えている。
俺はもう突っ込むのを諦めた。
⸻
食後、俺はセラと村を歩いた。
「この村、すごく変わりましたね」
「そうですか?」
「はい。来る前の報告と全然違います」
(報告……)
やっぱり調査目的か。
「全部、あなたのおかげですよね?」
「違います」
即答。
「俺は何もしてません」
「でも……」
セラは苗木を見る。
「この木……おかしいです」
鋭い。
「……ただの木です」
「嘘ですね」
即返し。
俺は観念した。
「……王族でしょ」
セラは固まった。
「ど、どうして……」
「雰囲気です」
半分嘘だ。
「……私は、第三王女セシリアです」
やっぱり。
(面倒の塊が来た……)
⸻
夕方、畑の前で二人並ぶ。
「王国は、あなたを重要視しています」
セシリアは真剣な顔で言う。
「この村の変化は、異常です」
「……放っておいてください」
「できません」
即答だった。
「あなたは、国の未来を左右する存在です」
俺は空を見る。
赤く染まる雲が流れていく。
「俺は、静かに暮らしたいだけです」
「それが、許されない力です」
厳しい言葉だった。
でも、否定できない。
苗木を鑑定する。
《成長段階:第二層》
《影響範囲:拡大中》
《安定度:低》
(……まだ不安定か)
「ねえ、レインさん」
セシリアが言う。
「王城に、来てくれませんか?」
「……嫌です」
即答。
「即答!?」
「面倒なので」
本音だ。
セシリアはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。
「……やっぱり、噂通りですね」
「噂?」
「“扱えない天才”」
余計なお世話だ。
⸻
夜、小屋に戻って俺は考える。
王国。
王女。
招待。
全部、面倒だ。
だが同時に、分かっている。
もう、この村は隠せない。
(スローライフ……遠いな)
苗木は、月明かりの下で静かに光っていた。
まるで、これからの騒動を予告するように。




