第3話 追放の代償と、芽吹く異変
朝、目を覚ますと、まず最初に苗木のことが頭に浮かんだ。
(……昨日の鑑定、間違いじゃないよな)
簡単な朝食を済ませると、俺は畑へ向かう。
霧のかかった畑の奥で、例の苗木は静かに佇んでいた。
「……ん?」
近づいた瞬間、違和感に気づく。
葉の色が、昨日よりも濃い。
わずかだが、確実に変化している。
「一晩で……?」
俺は膝をつき、土に触れた。
まだ温かい。
(……動いてる)
魔力の流れが、ゆっくりと苗木へ集まっている。
俺は小さく息を吸い、鑑定を発動した。
《成長率:超高》
《潜在価値:世界規模》
《環境条件:一部達成》
「一部……?」
つまり、すでに条件の一つは満たされたということだ。
(俺か? ……いや、まさか)
昨日、俺は特別なことはしていない。
水をやり、雑草を抜いただけだ。
それだけで変化が起きるなら――
(この木、相当やばいな)
その日の昼、村では小さな騒ぎが起きていた。
「見たか!? 畑の麦!」
「昨日より伸びてるぞ!」
俺は呼ばれて向かう。
確かに、作物の背丈が明らかに高い。
昨日まで元気がなかったはずなのに。
「……鑑定」
《成長補正:付与中》
《影響源:不明》
(不明って……)
こんなの初めてだ。
(まさか、苗木の影響か?)
もしそうなら、この村全体が“強化エリア”になりつつある。
「レイン、あんた何かしたのか?」
村長に聞かれる。
「……いえ。水やりくらいです」
嘘ではない。
だが、本当でもない。
「そうか……」
村長は首を傾げつつも、それ以上追及しなかった。
⸻
一方その頃。
王都近郊の街道を、勇者アルトたちは進んでいた。
「……おかしいな」
アルトは地図を睨みながら呟く。
「この辺り、もっと魔物が弱いはずだろ?」
「数が多すぎる」
ガルドが剣を拭きながら言う。
「前なら、レインが警告してきた場所だ」
その名前に、場の空気が一瞬重くなった。
「……あいつの話か」
リーナが不機嫌そうに言う。
「いなくても、問題ないでしょ」
だが、その声には不安が混じっている。
実際、ここ数日でトラブルは急増していた。
・安全なはずの街道での奇襲
・補給拠点の壊滅
・予想外の強敵の出現
「情報がズレてる」
アルトは歯を食いしばる。
「今まで、全部レインの鑑定頼りだったんだな……」
言ってから、後悔した。
「今さらだろ」
ガルドが吐き捨てる。
「追い出したのは俺たちだ」
その夜、彼らは野営地で魔物に襲われた。
数は少ない。
だが、異常に統率が取れている。
「囲まれるぞ!」
アルトが叫ぶ。
戦いは、辛勝だった。
全員が傷を負い、回復薬も尽きかけている。
「……こんなはずじゃ」
リーナが震える声で呟く。
「前は、こんなの楽勝だったのに」
アルトは、焚き火を見つめた。
(レイン……)
追放した鑑定士の顔が、脳裏をよぎる。
あいつは、いつも静かに言っていた。
「この先、危ないです」
「回り道した方がいいです」
「ここは、避けましょう」
全部、正しかった。
⸻
再び、辺境の村。
夕暮れの畑で、俺は苗木を見上げていた。
幹は、ほんの少し太くなっている。
「……早すぎるだろ」
鑑定結果が、また変わっていた。
《成長率:超高》
《潜在価値:世界樹級(未覚醒)》
《環境条件:進行中》
「……世界樹級?」
思わず笑ってしまう。
(俺、どこに来たんだよ……)
スローライフ計画は、
三日目にしてすでに破綻しかけていた。
だがまだ、この時の俺は知らなかった。
この小さな変化が、
世界全体を巻き込む始まりになることを。




