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第11話 居場所

 朝の光が、村をやさしく包んでいた。


 昨夜の戦いが嘘だったかのように、空は澄み渡り、鳥のさえずりが響いている。


 だが、地面にはまだ踏み荒らされた跡が残り、壊れた柵や焦げた木材が、現実を物語っていた。


 村人たちは早朝から動き始め、復旧作業に追われている。


 俺も本来なら、指揮に回るべきだった。


 だが――。


「……ここで、大丈夫か?」


 俺は、簡易診療所として使っている民家の一室を覗き込んだ。


 寝台の上には、エルフィナが横になっている。


 白いシーツに包まれ、静かに眠っていた。


 顔色はまだ悪いが、昨夜よりは明らかに良くなっている。


「熱も下がってきてますし、しばらく安静にすれば問題ありません」


 治療担当の女性がそう言った。


「ありがとう。引き続き頼む」


「はい」


 部屋を出て、俺は深く息を吐いた。


(……思った以上に、消耗してたな)


 栄養失調と疲労の蓄積。


 あの状態で生きていたこと自体が奇跡だ。


 昼過ぎ。


 復旧作業の合間を縫って、再び様子を見に行くと――。


 エルフィナは、目を覚ましていた。


 ベッドに座り、きょろきょろと部屋を見回している。


 まるで、知らない場所に放り込まれた子どものようだった。


「……起きてたか」


 俺が声をかけると、びくっと肩が跳ねる。


 だが、すぐに俺だと分かると、ほっとしたように表情を緩めた。


「……レインさん……」


「体調は?」


「……少し、楽です……」


 声はまだ弱々しい。


 俺は椅子を引き寄せ、ベッドの横に座った。


「無理はするな。しばらくは休養優先だ」


「……はい」


 一瞬、沈黙が流れる。


 エルフィナは、シーツをぎゅっと握りしめながら、視線を落としていた。


 何か言いたそうだ。


 だが、言葉にできない。


 そんな雰囲気だった。


「……なあ」


 俺から切り出す。


「ここは、安全だ」


 エルフィナは、ゆっくり顔を上げた。


「盗賊はいない。無理やり連れて行く奴もいない。君を傷つける人間もいない」


「……本当、ですか……?」


 かすれた声。


「ああ。俺が保証する」


 即答だった。


 嘘は混ぜていない。


 村の守りは、もう簡単には破られない。


 その言葉を聞いて、エルフィナは目を伏せた。


 しばらくして、ぽつりと呟く。


「……私……ずっと……居場所が、なくて……」


 胸が、わずかに痛んだ。


「森の里は……昔、壊されて……」


「……」


「それから……売られて……逃げて……捕まって……」


 淡々と語られる過去。


 だが、その一つ一つが重い。


 俺は黙って聞いた。


 途中で遮る資格なんてない。


「……だから……ここにいていいって言われても……信じていいのか……分からなくて……」


 震える声。


 俺は、少しだけ考えてから言った。


「信じろ、とは言わない」


 エルフィナが、意外そうに俺を見る。


「すぐには無理だ。時間がかかって当然だ」


 そして、続けた。


「でも、ここにいていい。出ていきたくなるまで」


 彼女の瞳が、大きく揺れた。


「……そんな……勝手な……」


「いいんだ。俺が決めた」


 半ば強引に言い切る。


 エルフィナは、しばらく黙っていた。


 やがて、小さく笑った。


「……変な人ですね……」


「よく言われる」


 即答すると、彼女はくすっと笑う。


 その笑顔は、まだ弱々しいが――。


 確かに、生きている人間のものだった。


 夕方。


 俺は食堂から、栄養たっぷりのスープを持ってきた。


「まずはこれからだ」


「……ありがとうございます」


 ゆっくりとスプーンを口に運ぶエルフィナを見ながら、思う。


(この村で……ちゃんと生き直せるようにしよう)


 それが、助けた者の責任だ。


 そして同時に――。


 俺自身にとっても、大切な意味を持ち始めていた。

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