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魔女は箒で掃き出す

作者: みかか
掲載日:2026/01/16

とある国の森に棲む魔法使いの女の短い話

 あら、あらあら。賢くないのがきちゃったわねぇ。

思わず口に出しそうになって、私は口中で言葉を噛み潰した。

森に百年住む魔法使いだもの。そういう腹芸は貴族ほどじゃないけどやれないわけじゃない。

 目の前にはこの国の第二王子が、口をへの字にして茶碗を睨み付けている。

中身は薬草のお茶。

私が先に飲んで見せ、おつきの護衛にも飲ませて、それでも手を付けない。

成人してるはずなのに、礼儀ってものを知らないらしい。

口直しのお茶は、あとで一人で飲もう。

「で、森の魔女よ。あの娘をどこにやった。あの娘は私の側妃になるべき存在なのだぞ」

 はいはい。ぼんやりと口直しのお茶に合わせるお菓子を考えていたら、不機嫌極まりない声がした。

曰く、彼が悪辣な伯爵令嬢から救い出すはずだったその妹を、令嬢が卑怯にも先手を打って森に連れ出し、私に売り飛ばした、と。

まったくもって事実に反するし、そんな単純な話でもない。

「彼女は私に売られたわけではありませんよ」

 むしろ「伯爵令嬢」は、自分の手持ちの貴金属の入った小箱を箱ごと差し出して、これと引き換えにこの子をかくまってほしいといってきた側。

それに、ものの道理を心得ていたから、彼女は私を「森の御婦人」と敬って呼んだ。

あれは良かったわね。賢者隠者のように堅苦しすぎず、仙女様なんてくすぐったすぎることもなく。

間違っても目の前の第二王子のように、魔女と蔑んだ呼び方をしなかった。

「だが彼女はここにいるはずだ! どこだ! どこにいる!」

「あーーー……うるさ。そこまでいうなら探してごらんなさいな」

 そこまでいうと、王子は―――真っ青になった護衛を放って―――嬉々として女の一人暮らしの小屋の物色を始めた。

第二王子の乳母、どこの家の出だっけ。基礎のしつけができてないわよ。


 そもそもだ。

女伯爵の入り婿が、妻が亡くなったのをこれ幸いと愛人を後添いとして伯爵家に連れ込んだ。

これが今の自称某伯爵とその夫人。

そして連れ子が……まぁ、妹娘と呼んでおこう。

実際は愛人時代、この「夫人」と関わっていたのは「自称某伯爵」以外にもいたのだから、逆立ちしたって伯爵家の血は流れておらず、よって令嬢の妹というには不適格ではあるのだが……。

 聡明な女伯爵は、さっさと生前に「跡取りは長女であり、夫は中継ぎや代理にもしない」と届け出をだしておいた。だから、「自称某伯爵とその夫人」なわけだ。

跡取り娘である令嬢も母に似て聡明で、伯爵として大事な仕事を早々に母から学び、結果父親に大事なことは触れさせなかったという。

まぁ、だからこそ暇を持て余して愛人を作らせてしまった、仕事で押しつぶしてやればよかったともいっていたっけねぇ。

 しかしながらこの妹娘、この環境下においては気の毒なほどに普通の倫理観の持ち主で、かつ母に反発して潔癖だった。

美しい母譲りの容貌や、いずれ母のようになるであろう姿態が自分のことであっても大嫌いで、それに惹かれる男は輪をかけて大嫌い。

自分の立場の本当のところを理解していたから、「そんな資格はない」と夜会に出ることもなかったし、伯爵家に来た当初など使用人部屋を使おうとするのを、令嬢が「そこは鍵がかからないから」と家族用の部屋に無理やり入れていた。

外側から鍵をかける? いいえ、内側からよ。

そんなことを、私はかくまった妹娘から聞き出していた。

それくらい賢い子でもあったのだ。


 ひとまわりして、屋内は屋根裏部屋から地下室まで探しつくし、見つけることができなかった王子は収納に手を付け始めた。

もう王子の護衛の顔色は、青を通り越して真っ白けっけ。

馬鹿な主人を持つと大変ねぇ。

「さぁ、もういいでしょ?」

 そこの引き出しに女の子が隠れられると思ってんのかしら……。

私は玄関に向かい、もう片方の手に箒を持った状態で三回ドアをノックした。

開いたそこには、森の光景ではなく王城の玉座の間。

王勺と王冠を身に着けた……つまり正装のこの国の王が顔を真っ赤にして玉座にいる。

正式な伯爵が王城へ報せを持って行ってくれたのだ。

第二王子の審問を行うために。

「森の賢者殿、愚息が御迷惑をおかけいたした。お詫びいたします」

「この国の王よ、お気になさらず。幼子にはよくあることですよ」

 私は箒の柄の先端で床を突く。

「【お客様のお帰りだよ】!」

 逆さ箒の魔法は王子と護衛を外へと掃き出した。

扉が閉まると、私は髪にさしていた櫛を外す。

空中に放った櫛が少女の姿に変わった。

「あ、ありがとうございました!」

 年のころは十二ほど。

茶色の髪に青い瞳の少女は、そんな年頃に似合わない蠱惑的な容姿をしていた。

この姿こそが、彼女の不幸の始まり。

一体あの王子、どこで彼女を見初めたのか。

それが彼女にとってどれほど虫唾の走る事かも考えずに。

そう、たったの十二歳の女の子なのに、側妃とか!

本当の伯爵……姉娘は「王家が絡めば伯爵程度の我が家では守り切れず、ましてやこの子の父母は当てにできない」とうちに連れてきたのだった。

さてこの子、どうしようかしらねぇ。

父母の方は姉娘がどうにかしてるにしても……。

私はこの「傾国の卵」にもなりかねない少女を外に出すために、安全な場所やら、存在感を消す魔法やらを色々と考えることにしたのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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