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みじかい小説

『みじかい小説』050 / おそろいのベスト ~1000文字にも満たないみじかいみじかい物語~

掲載日:2025/12/06


12月も上旬を過ぎようとしていた。

「今年の夏はいつもより暑かったから、冬はそんなに寒くならないと思ったのに。そんなことなかったねぇ」

栄治がそう語りかけると、妻の和子はしばらく間を置いて、こくりと一度だけうなずいた。


栄治は窓の外に目をやる。

建物から3mほどの場所にあるブロック塀まで、小さな庭が広がっている。

朝から降っていたみぞれ交じりの雪が積もり、地面はうっすら雪化粧をしていた。

一本だけ生えている背の高い何かの木も、今はしっとりと湿っていた。


「外は寒そうだねぇ」

栄治はみじかく、そう口にした。

和子はやはり、しばらく間を置いて、こくりとうなずく。


暖房のかけてある室内では、栄治は長袖に茶色のベスト一枚といういで立ちである。

和子も、栄治と同じベストを着せてもらっている。

「今日も、おそろいだねぇ」

栄治は目を細めて和子を見やる。

和子はまたしばらく間を置いて、今度は表情を少しだけ変化させた。

それは口をほんの下に動かすというぎこちない動作ではあったが、栄治には、和子が笑ったのだと一目で分かった。



和子が脳梗塞で運ばれたのも、ちょうどこんな天気の日だった。

今年のクリスマスは何を作ろうかしらと、関心のない素振りを見せる俺を前に、和子はリビングでそんなことを話していた。

普通に会話が続くと思われたのだが、気がつくと、和子が椅子から転げ落ちて床に倒れていた。

俺はすぐに救急車を呼んだ。

やってきた救急隊員につき従って外に出てみると、空から冷たいみぞれが降り注いでいた。


「和子、今年のクリスマスは何が欲しい」

栄治はそう言うと、じっと和子の顔を見つめた。

和子はわずかながら、口を動かす。

「はは、それじゃあ、分からないな。仕方がない、何かいいものを買ってきてあげるよ」

栄治はそう言うと、和子の肩を、ゆっくり、ぽんぽんと優しくたたいた。

頬に垂れてきそうな涙をぐっと我慢して、笑顔をつくってはみたが、それでも零れ落ちる涙が、茶色いベストに染みを作ってゆく。


連れ添って30年。

年を取ってからの結婚だったが、和子、俺はいい夫だったろうか。

今、いい夫であるだろうか。

答えが、ききたい。


栄治のベストに、ぽたぽたと涙の染みが広がってゆく。

外は雪。

小さな部屋の中に、二つのベストが並んでいる。


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