適性
翌朝。
訓練所は、まるで学園の校庭のように賑わっていた。
とはいえ、内容は遠足どころではない。
今日から、訓練生たちはそれぞれの適性に応じたコースへ分かれる。
ユウ、鷹真、莉音の三人は、戦闘班の演習場へ。
ここはコンクリートの壁と鉄製の訓練柱がずらりと並ぶ、まるで格闘場のような場所だった。
担当教官は筋肉の塊・グレイ=ハーヴェイ。
今日も上半身の説得力がすごい。
「――今日教えるのは肉体強化魔法――フォルティス・コルプス。筋肉に魔力を流して、瞬発力・反射・耐久を底上げする。……が、間違えると筋断裂と骨折だ。覚悟しろ!」
「怖っ!」
莉音が悲鳴を上げる。
グレイは笑わない。むしろ嬉しそうだ。
「構えたまま、足の裏から魔力を通せ。地面の反発を感じろ。筋肉の“線”をイメージしろ」
ユウは深呼吸し、指示通り魔力を巡らせる。
身体の内側を小さな光が走るような感覚。
次の瞬間、足がわずかに軽くなる。
「……おお、動ける」
「それが“第一段階”。筋肉と魔力がリンクし始めた証拠だ」
一方、鷹真はというと――
「え、これ……効いてるかどうか分かんないですね」
「お前、元の筋力が高すぎるんだ」
グレイが呆れたように笑う。
「鍛えてる奴は魔力の“上乗せ感”が分かりづらい。だが――」
鷹真が拳を握った瞬間、空気がドン、と鳴った。
拳圧だけで砂埃が舞う。
「……今の、ちょっと楽しいですね」
「筋肉バカが魔法覚えるとこうなるんだよ」
「褒めてます?」
「皮肉だ」
そして――莉音。
「わたしもできる気がする!」
彼女は両腕をぶんぶん振って、気合を入れる。
「フォルティス・コルプス――解放!」
ドンッ!
その瞬間、コンクリート壁が粉砕された。
破片が飛び散り、風圧で美月の遠い悲鳴が聞こえた気がした。
「ちょ、ちょっと待て! 制御! 制御だ!」
グレイが全力で制止する。
莉音は汗まみれで焦りながら叫ぶ。
「わ、わかんない! 腕がムレムレするっ!」
「それ“魔力過剰加熱”だ! 一回止めろ!」
結果、ペットボトルが“開けられない”程度の握力になった。
蓋が粉砕。水が噴き出す。
「……いや、それもう兵器でしょ」
ユウが呆れた声を出すと、鷹真が苦笑した。
「莉音さん、マジで“筋力特化型魔法少女”ですね」
「なんか語感は可愛いけど事実が可愛くない!」
ユウの結果は――平凡。
数値は平均。筋力上昇もごく標準。
グレイは「基礎としては優秀だ」と言ってくれたが、昨日の“異常”を知るユウにとっては、どこか物足りなかった。
(……普通って、こんなに静かなもんなのか)
昼食後。
食堂で全員が再会した。
戦闘班は汗と泥にまみれ、医療班は白衣姿、研究班はインクと紙の匂いをまとっている。
「どうだった?」
ユウが尋ねると、美月が深いため息をついた。
「……あのね、医療班ってもっと“癒しの天使”みたいな感じかと思ってたの。でも実際は――めっちゃ泥臭い!」
「泥臭い?」
「包帯巻いて、止血して、感染防止して、洗浄して……ほぼ救急救命!」
隣の美咲が苦笑する。
「先生いわく、“回復魔法だけに頼ると死ぬ”らしいです」
直人が頷く。
「理にかなってますね。治癒魔法は万能ではない。むしろ現代医学の理解があるほど効率が上がる。だから今、講義で人体構造や免疫理論を叩き込まれてます」
「うわ、理系地獄だ……」
「そうです。試験もあります」
「地獄だ!」
直人はさらに話を続けた。
「僕ら研究班は、“魔力の流体構造”を解析中です。要は、人間の体内を流れる魔力がどう変換されるかを、数式で表そうとしてるんですよ」
「へぇ……なんか理系と文系の融合みたいだな」
「まあ、“想像力の物理学”って感じですかね」
莉音がスプーンを持ちながらぼやく。
「こっちは筋肉の物理学やってきたよ……」
「私はガチ医学だよ……」
美月がぐったり。
「お兄ちゃんは?」
「……中庸の哲学、かな」
「なんかカッコよさそうに言ったけど要するに“普通”だよね」
「うるさい」
笑いが響く。
火も水も、医療も研究も――全部、生き延びるための技術。
ユウはその笑いの中で、ふと気づいた。
(みんな、“魔法使い”になっていくんだな)
その思いは、どこか懐かしくて、少しだけ切なかった。




