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フルメタルなんちゃら

 翌朝。

 鐘の鳴るよりずっと前に、叩き起こされた。


 男子寮の廊下にはまだ夜の闇が濃く、その静寂を、軍靴の音が怒号みたいに蹴り裂いていく。


 ドアが乱暴に開き、懐中電灯の光が顔を射抜いた。


「起きろ、このクソガキどもがぁぁぁ!!」


 轟音。

 耳が痺れ、心臓が一気に喉元まで跳ね上がる。


 現れたのは昨日まで見たことのない男だった。

 黒い軍服。

 顔の半分を覆う焼けただれた傷跡。

 首筋を走る火傷は、まるで溶けた鉄を浴びたように赤黒い。


 名前は――武田。

 地球側の実戦教官。

 通称、“鬼軍曹”。


「5秒で外に整列! 遅れたら死ぬと思え!!」


 全員が跳ね起き、靴を履く手が震える。


 ユウの部屋を出ると、男子たちが半分寝ぼけたまま廊下に飛び出してきた。

 鷹真は髪が跳ね、直人は寝癖のまま眼鏡を探している。


「靴どこ……あ、左右逆……」

「直人落ち着けっ、走れ!!」


 男子たちの阿鼻叫喚の裏で――

 女子寮の方からも、別の教官の怒声が遠く響いてくる。


「女子寮も5秒で起きろ! 魔物に寝顔は可愛くねぇぞ!!」


 美月の叫び声じみた「ひゃぁぁぁ!」が、寮の外まで届いてきた。

 莉音はパジャマのまま走ってきて、途中でこけたらしい悲鳴がこだまする。


 女子寮の前を通りかかると、しずくがすでに整列済みで立っていた。


 無表情。

 髪も服も乱れひとつなく、まるで“こうなる時間を知っていた”かのような静けさだった。


 そして広場。

 霧が凍り、息が白く痛い。

 三十名の訓練生が、震えながら二列に並ぶ。


 武田がゆっくりと列の前を歩く。

 軍靴が地面を抉り、静寂をひとつずつ切り裂いていく。


「お前らぁここは遊園地じゃねえ! 訓練所じゃねえ! 戦場だ!! 魔王軍は可愛い魔法少女じゃねえ! お前らの内臓ぶち撒けて喰い散らかす“化け物”だ!」


 声が腹の底に響く。

 誰かが膝をガクガク震わせた。


 武田の視線が、一人一人を鋭く射抜く。


「お前! その髪のガキ!! ツインテールは戦場で掴まれる“取っ手”だ!」


 女子列で、美月が顔を真っ赤にして、ツインテールをぎゅっと握りしめた。


「お前! 眼鏡のクソナード! そのレンズ、魔物の爪で割られたらどうすんだ!? 目が死んで終わりだ!!」


 男子列で、直人が眼鏡を押し上げながら唇を噛む。


「お前! 無表情の灰色の雌猫! 感情が死んでんのか!? 死体なら棺桶に入れてやる!」


 しずくは微動だにしない。

 ただ静かに「はい」とだけ答えた。

 その反応の薄さが、逆に武田の目を一瞬だけ細めさせた。


 そして、ユウの前に立ち止まる。


「お前か……測定不能の“化け物”は」


 吐き捨てられた声は、他の誰よりも低かった。


「魔力ゼロ? ふざけんな!!ゼロは無じゃねぇ。“測れねぇ得体の知れねぇ何か”だ! 仲間を裏切るか、暴走するか――どっちにしろ戦場で死ぬのはお前だ! だから俺が叩き直してやる!!」


 唾が飛ぶ。

 ユウは拳を握りしめた。

 胸の奥で、あの“別の命”がくぐもった声で蠢いた気がした。


 武田が一歩下がり、腹の底から吼えた。


「これから半年間、俺がお前らに“人間”を辞めさせてやる!!寝る間も食う間も惜しんで這いつくばれ! 死ぬ気でやれ! 死ぬ気がねえなら――今すぐ死ね!!」


 霧が揺れた。


 誰もが、初めて“戦争”の匂いを嗅いだ。


 ――地獄の、始まりだった。

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