崩壊後ガールズ進路相談
夕焼けが差し込む教室で、うきが机に突っ伏していた。
背中のあたりから、教科書とタブレットがはみ出している。
「……進路調査票、まだ出してないの?」
まひるがペンをくるくる回しながら呆れた声を出す。
「出したい気持ちはあるよ?」
「うん、じゃあ出して」
「だってさ〜、“異常現象科学”系ってどこも偏差値の雰囲気が魔力で歪んでるんだもん!」
「雰囲気で進路決めるな」
うきはタブレットを開き、画面をスワイプした。
「見て、“帝国経済大学・祈祷金融学科”! 通称“マネー祈学”だって!“市場は祈り、株価は祈祷波”ってキャッチコピーかっこいい……」
「胡散臭さで偏差値下がってるじゃん」
「え〜でも教授陣が“金融庁と神社庁のハイブリッドOB”って書いてあるよ!?」
「なんだその闇の経歴……」
「あとさ、“中部学院大学・魔導心理コミュニケーション学科”!“魔カウ(魔力カウンセリング)”って略称かわいくない? 制服もパステルカラーだし!」
「それ心理学に“オーラ診断”足しただけの詐欺学科でしょ」
「えっ!? でもパンフに“就職率100%(自己申告)”って!」
「“自己申告”を信用すんな」
「じゃあ、“北日本総合大学・魔導情報システム学科”は?“AIにお経を唱えさせたら魔力が流れた(気がする)”って教授がいるんだよ!」
「“(気がする)”で論文書くな」
「いや、あたしそういう“気がする”に共鳴できるタイプなの! パワー!」
「つまりバカなんだね」
「まひるひどっ!」
机に突っ伏したうきが、頬をぷくっと膨らませる。
「まひるはどこ行くの?」
「“異界倫理学”」
「え、マジ? ガチすぎない?」
「だって、誰かが“勇者輸出”とか“魔導搾取”とかの倫理考えなきゃ」
「真面目だねぇ……。あたしは“AIに祈らせて感動したい”派だもん」
「宗教かよ」
「うん、ちょっと入信した」
「こわ」
まひるはため息をつき、うきの頭を軽く小突いた。
「いい? うき。“魔導”とか“異常現象”って言葉に釣られてるだけで、中身はだいたい“Fラン理系の末裔”だからね?」
「うるさいな〜。でも、“異常現象”ってついてるだけでテンション上がるんだもん!」
「オタクの悪い癖出てる」
「褒め言葉ありがと」
二人の笑い声が、赤い夕陽の中で揺れた。
窓の外では、ドローンが一列になって飛んでいく。
その下で、補修用の魔導炉が低く唸っていた。
――この国では、滅びの音すら“BGM”みたいに流れている。
「……でもさ」
うきが顔を上げる。
「どうせなら、一緒の大学行きたいね」
「え?」
「別々のキャンパスとかやだ。お昼も一緒に食べたいし、同じ講義で隣座りたいし、隣同士の部屋で風邪引いたら助け合いたいし」
「……それ進学っていうか同棲じゃない?」
「え、同棲ダメ?」
「いやダメじゃないけど……」
まひるの頬が少し赤くなる。
うきは満面の笑みを浮かべた。
「決まりだね! 二人で“異常現象系女子大生”!」
「その響きで新興宗教始まりそう……」
「パンフ作る?」
「やめろ」
二人の笑いがまた重なった。
世界のどこかで魔王軍が進軍しているかもしれない。
けれど今この教室には、 “平和ごっこ”を続けられる才能だけが、ちゃんと生きていた。




