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インテグレートワールド  作者: アールグレイ
幕間 融合世界の日常
21/48

崩壊後ガールズ進路相談

 夕焼けが差し込む教室で、うきが机に突っ伏していた。

 背中のあたりから、教科書とタブレットがはみ出している。


「……進路調査票、まだ出してないの?」

 まひるがペンをくるくる回しながら呆れた声を出す。

「出したい気持ちはあるよ?」

「うん、じゃあ出して」

「だってさ〜、“異常現象科学”系ってどこも偏差値の雰囲気が魔力で歪んでるんだもん!」

「雰囲気で進路決めるな」


 うきはタブレットを開き、画面をスワイプした。

「見て、“帝国経済大学・祈祷金融学科”! 通称“マネー祈学”だって!“市場は祈り、株価は祈祷波”ってキャッチコピーかっこいい……」

「胡散臭さで偏差値下がってるじゃん」

「え〜でも教授陣が“金融庁と神社庁のハイブリッドOB”って書いてあるよ!?」

「なんだその闇の経歴……」


「あとさ、“中部学院大学・魔導心理コミュニケーション学科”!“魔カウ(魔力カウンセリング)”って略称かわいくない? 制服もパステルカラーだし!」

「それ心理学に“オーラ診断”足しただけの詐欺学科でしょ」

「えっ!? でもパンフに“就職率100%(自己申告)”って!」

「“自己申告”を信用すんな」


「じゃあ、“北日本総合大学・魔導情報システム学科”は?“AIにお経を唱えさせたら魔力が流れた(気がする)”って教授がいるんだよ!」

「“(気がする)”で論文書くな」

「いや、あたしそういう“気がする”に共鳴できるタイプなの! パワー!」

「つまりバカなんだね」

「まひるひどっ!」


 机に突っ伏したうきが、頬をぷくっと膨らませる。

「まひるはどこ行くの?」

「“異界倫理学”」

「え、マジ? ガチすぎない?」

「だって、誰かが“勇者輸出”とか“魔導搾取”とかの倫理考えなきゃ」

「真面目だねぇ……。あたしは“AIに祈らせて感動したい”派だもん」

「宗教かよ」

「うん、ちょっと入信した」

「こわ」


 まひるはため息をつき、うきの頭を軽く小突いた。

「いい? うき。“魔導”とか“異常現象”って言葉に釣られてるだけで、中身はだいたい“Fラン理系の末裔”だからね?」

「うるさいな〜。でも、“異常現象”ってついてるだけでテンション上がるんだもん!」

「オタクの悪い癖出てる」

「褒め言葉ありがと」


 二人の笑い声が、赤い夕陽の中で揺れた。

 窓の外では、ドローンが一列になって飛んでいく。

 その下で、補修用の魔導炉が低く唸っていた。

 ――この国では、滅びの音すら“BGM”みたいに流れている。


「……でもさ」

 うきが顔を上げる。

「どうせなら、一緒の大学行きたいね」

「え?」

「別々のキャンパスとかやだ。お昼も一緒に食べたいし、同じ講義で隣座りたいし、隣同士の部屋で風邪引いたら助け合いたいし」

「……それ進学っていうか同棲じゃない?」

「え、同棲ダメ?」

「いやダメじゃないけど……」

 まひるの頬が少し赤くなる。

 うきは満面の笑みを浮かべた。

「決まりだね! 二人で“異常現象系女子大生”!」

「その響きで新興宗教始まりそう……」

「パンフ作る?」

「やめろ」


 二人の笑いがまた重なった。

 世界のどこかで魔王軍が進軍しているかもしれない。

 けれど今この教室には、 “平和ごっこ”を続けられる才能だけが、ちゃんと生きていた。

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