七不思議は青春の証
放課後の校舎は、夕焼けと警報灯の赤が混ざったような色をしていた。
ユウはいつものように昇降口前で、美月の部活が終わるのを待っていた。
風が、芝の匂いとオゾン臭を運んでくる。遠くで、訓練用の魔導コイルが低く唸っていた。
最近はそれも“環境音”の一部になりつつある。
背後から、声がした。
「ねーねー神名くん、暇そうだねー」
振り返ると、見慣れた顔が二つ。
同じクラスの、うきとまひる。いつもセットで行動してる名物コンビだ。
うきは、わざと緩めたネクタイと、まくったシャツの袖口から細い手首を覗かせている。
対照的に、まひるは夏服のセーラーをきっちり着込んでいるせいで、清楚なのに、どこか目のやり場に困る。
彼女は、うきの腕に自分の腕を絡ませて、ぴたりと寄り添っている。
「……いや、別に暇ってわけじゃ」
「嘘だ、めっちゃ暇そうだったよね?」
「うん、あの“待ちぼうけオーラ”は芸術点高い」
まひるが、うきの肩にこてん、と頭を預けながらユウを見た。
「は?」
まひるが笑いながら、手にしたノートをひらひらさせた。
「ねぇ、今度の“七不思議探し”、一緒に行こ?」
「七不思議?」
「そ。旧地下壕の探索。うちの学校、もともと避難施設を改装してるからさ、地下にまだ謎の通路があるらしいの」
「……なんで俺」
「女二人じゃ怖いし、暇そうなのアンタしかいないし!」
「即答すんな」
うきがにやりと笑う。
「だってさー、神名くん、真面目そうだし逃げなさそうじゃん?」
「それ、褒めてないだろ」
「褒めてるって。たぶん」
あきれながらも、ユウは内心ざらついた。
地下壕。学校が“避難対応構造”に改装される前、その一部は軍の実験施設だったと噂されている。
教師たちは決して話題にしないが、夜に光が漏れるとか、ドローンが行方不明になるとか、そんな話がSNSにちらほら。
ユウは一瞬、やめとけと喉まで出かかったが――
気づけば「……まあ、暇だしな」と口が勝手に動いていた。
自分でも理由がわからなかった。
たぶん、少しだけ“普通の青春”を取り戻したかったのかもしれない。
うきとまひるは顔を見合わせて、同時に「「やった!」」と小さな声でハイタッチした。
「やった! じゃあ明日の放課後ね!」
「早っ」
「“青春は即断即決”ってやつだよ!」
そのまま二人は笑いながら歩いていく。
肩を寄せ合って、何かを囁き合いながら。
ユウは数歩遅れて、なんとなくその背中を追った。
夕陽の中で二人の影が重なって伸びる。
いちゃいちゃしてるように見えるのに、不思議と空気は静かだった。
――そして翌日。
三人は放課後の裏門に集合した。
校舎の地下に通じる非常扉の前で、うきが腕を組む。
「じゃあ、第一の目標。“旧地下壕”!」
「よし行こー……って、開いてないじゃん」
分厚い金属シャッターが、完全に閉じられていた。
警備タグが光り、電子音が鳴る。
『立入制限区域。認証外アクセス禁止』
「え、マジで塞がれてるの?」
「そりゃそうだろ」
肩を落とす二人の後ろで、ユウは苦笑する。
「ほら、だから言ったろ」
「言ってない」
「言う前に止められた」
結局、“第一の七不思議”は発見できずに終わった。
でも、不思議とユウの胸の奥は少しだけ軽かった。
(俺は、ただのダシに使われただけ、か)
だが、それもまた悪くない青春だと思った。




