始まりを告げる終わりの鐘
リメイクしました!
序盤は特に変わっているのでよろしくお願いします!
赤い空の下、都市はまだ燃えていた。
けれど炎はもう熱を持たず、ただ空気の形を保つために揺れていた。
道路は溶け、塔は傾き、人々の声は遠い水音みたいに薄まっていく。
その真ん中を、ひとりの少女が歩いていた。
白いワンピースの裾が灰の中でも汚れない。
裸足の足元には影がなく、かわりに小さな光の点――星座のような軌跡が、ひとつ、またひとつと浮かんでいく。
「……きれい」
誰に言うでもなく、少女は呟いた。
燃える街を見て、絵を見上げるような声だった。
上空を飛ぶ戦闘艇の残骸が、ゆっくりと落ちていく。
黒煙の中で、崩壊した魔導炉が虹のように光を吐いた。
少女はそれを見上げ、こてん、と無垢に小首をかしげる。
「ねえ、世界って、いくつあるんだろうね」
声は静かで、風よりも軽い。
「たぶん、数えても終わらないくらい。だから、ひとつ壊しても……意味なんてないんだ」
風が吹く。
それが少女の細い鎖骨に、薄い肩に降り積もる。でも、少女だけは溶けない。
それを浴びた建物は静かに形を失い、壁も屋根も曖昧な線になって消えた。
人の記憶の輪郭すら、同じように淡くなっていく。
少女は歩きながら、両手で光の粒をすくい上げる。
「でもね、ほら、まだ残るんだよ。ぜんぶ消えても、またどこかで“似たような”世界が生まれる。――それって、少し安心するよね」
その言葉のあと、彼女はくすくすと笑い、手をぱちん、と打った。
「それでもいいの。だって、壊すのは楽しいんだもの。数が減っても数は尽きないなら、たくさん壊して、たくさん“見られる”ほうがいいでしょ?」
その笑いには諦観が含まれていた。無限の海の浅瀬を知る者の静かな悟り。
だが同時に、好奇心と意志がそっと翳りを押し返す。
壊す行為は遊びであり、小さな祈りであり、観測を得るための手段だった。
崩れた教会の鐘が、最後の一度だけ鳴った。
音が空気を切る瞬間、都市は輪郭を失った。
少女はその音を追うように、空を仰ぐ。
「またひとつ。されどひとつ。無限の前では、塵芥――」
それでも、彼女はつぶやきを続ける。
「でも、もっと見てほしいの。ねえ、神さま。ちゃんと見てるんでしょう?」
声が消える。
少女の姿も、夜の影に溶けた。
あの夜、誰も知らない空で、ひとりの少女が歩いていた。
白いワンピース、裸足、影のない足もと。
星のような光の軌跡だけが、空気の中に残った。
翌朝、宗谷岬の観測網は沈黙した。
世界は、まだ眠っていた。
だが、彼女の足跡が残した「星の道」は、確かにこの世界に触れていた。
それは静かな裂け目として、北の空を走り抜けた。
――残ったのは、ひとすじの星の道。
誰もいない空に、夜が戻ってくる。
それを見ている“誰か”が、まだいるとも知らずに。




