098 長丁場
大激浪が始まって5時間。この頃には緑で溢れていた樹海は大量の魔獣の移動のせいで、幅が1キロを超える一本道が作られていた。
「見やすくていいな」
「そんなん言うの、シモンはんだけやで」
「森がかわいそうどす~」
普通なら恐ろしい光景だが、狙撃手としては射線が開けて有り難いと思うシモン。プックは冷たくツッコミを入れ、森の民のユーチェは暗い顔だ。
しかしこれで撃ちやすくなったのは事実なので、シモンとユーチェで中型と大型魔獣を狙い撃ち。転倒させて後続の魔獣に轢かせて追加攻撃を加える。
その光景はプックの作ったスコープならよく見えるが、外壁の上からでは普通の双眼鏡でも見えない距離。だが、隊列の乱れははギリギリ見えるのか、メインデルト王は下の戦闘そっちのけでグッと拳を握り込んで見ている。
王都手前での戦闘は、超順調。大型の魔獣も現れることは現れるのだが、中型魔獣に輪を掛けて虫の息。ちょっと押す程度で土煙を上げて倒れるので、ダークエルフは大盛り上がりだ。
不安があるとすればふたつ。ひとつは、屍の山。積み重なると魔獣が見えなくなるケースもある。まぁいまの魔獣は興奮状態なのか、激突して道を均してくれるから助かっている。
もうひとつは、太陽。日没が近付いているから暗闇で戦わなくてはならなくなるので、戦闘は厳しくなるはずだ。
戦い始めて9時間。ついにシモンの視界が真っ暗となった。
「夜か~……まだ地平線には太陽が残っているな」
「もう見えまへんな~。マジックアイテム使うどす?」
「まだ少し明るいし、いまの内に腹に何か入れておこう」
「あーしも食べるで!」
シモンとユーチェが休憩する流れになったら、プックも参加。ただでさえずっと1人でガトリングガンを撃っていたから、仲間外れが嫌らしい。
とりあえず見習い騎士に頼んで温かい食事を用意してもらったら、まったりと夕食。3人は体を解してから戦闘配置に就くのであった。
太陽が完全に沈むと照明マジックアイテムで王都前を照らし、戦闘員はその光頼りで戦い続けていたら、大激浪はついに日を跨ぐ。
プーシーユーは休み休み戦っていたし、そもそも動きが少ないから疲れも少ない。ここからは眠気との戦いとかシモンが鼓舞していた。
ダークエルフたちは、弓を引くにしろ剣を振るにしろ肉体労働だから疲れが見える。魔法部隊も魔力と共に体力も減るのか、最初の頃から人数も少なくなっている。
『よしっ! 交代じゃ! 皆、気ぃ付けて持ち場に就いてくれ!!』
そこにメインデルト王の指示が送られる。どうやらプーシーユーのおかげで余裕ができたから、数時間おきに交代しながら戦っていたみたいだ。
これでダークエルフは元気復活。煌々と光り輝くマジックアイテムを背に受け、一丸となって戦い続ける。
「この眼鏡、凄いな」
「ね? ハッキリ見えますな~」
「褒美でくれないかな?」
シモンとユーチェはメインデルト王から借りたマジックアイテムのおかげで、暗闇でも狙撃に支障なし。軽口を叩きながら中型魔獣と大型魔獣を狙撃してる。慣れたモノだ。
「おふたりさん。私語が多いんとちゃいまっか~?」
そのせいでプックは疎外感があるらしい。
「まぁな~……喋ってないとユーチェが寝そうだろ?」
「眠気対策かいな。そりゃ必要やな」
「ふたりとも、ひど~い。これでも3徹ぐらいしたことあるんどすえ」
「3日も何してたんだ?」
「家から1歩も出ずに恋愛小説読んでました。さすがにパパとママに働けって怒られたな~」
「「引きこもってるやん」」
プックも参加してユーチェ批判をしていたら、ふざけたカウンター。なので、辛辣にツッコむシモンとプック。それでもちゃんと戦ってるよ。
深夜になっても大激浪は止まる気配はない。ただし、闇夜は魔獣にも影響があるのか、昼間と比べると動きが鈍くなっている。
そのおかげでダークエルフも休み休み戦えるので、朝まで持ちそうだ。
シモンたちもペチャクチャ喋りながら戦っていたら、東側の地平線が明るくなって来た。
「おお~……なんとかなったな」
「やっとゴールや~」
「もう寝そうどす~」
朝だ。太陽はまだ見えないが時間の問題だから、シモン、プック、ユーチェの緊張が緩む。
ダークエルフも気付いたのか、まだ大激浪は終わっていないのに勝鬨まで上がっていた。
さすがに勝鬨は早すぎたのでメインデルト王が止めたようだけど、ダークエルフは笑顔で魔獣と戦い出した。
それを見ていたプックがシモンたちに「アレ、怖ない?」と報告して「怖いね~」と引いていた。
そんなことをしていたら、太陽は徐々に顔を見せ、ゆっくりと全体を現した。
「なあ? アレ、デカない??」
そんな中、なんとなくスコープで遠くを見たシモンはユーチェに質問。さっきまでプックと喋っていたからドワーフ弁が出たっぽい。
「大きいどすな。ざっくり、今までの大型魔獣の4倍??」
「だよな~。やっぱりデカイか~」
「おふたりさん。そんなにデカイなら、もっと驚きいや~」
大型魔獣が立った状態で10メートルとしたら、シモンたちが話をしている毛むくじゃらのでっぷりした人型魔獣は40メートル。プックは呆れながらユーチェから双眼鏡を受け取って見てみる。
「でっか! なんやアレ!? 普通、これぐらい驚くやろ!!」
「「遠いもん……」」
「王様に報告や~~~!!」
シモンたちは距離のせいで恐怖心は湧かない。プックが常識的な反応をしたので、見習い騎士は焦って走り出した。
そうしてメインデルト王を連れて戻って来たら、ユーチェの双眼鏡で超大型魔獣を探す。
「エノールム……厄災の魔獣じゃ……」
「厄災の魔獣……六層でも戦ったのですが、それぐらいの強さだと思っていいのですか?」
「いや、七層の迷宮ボスと匹敵すると言われている。六層以上と思ったほうがいいだろう」
「てことは、最低でもS級の強さか……」
シモンは考える素振りをするが、メインデルト王の話はまだ途中だ。
「そうだが、それにしてはデカイ……大激浪では2回に1回現れるんじゃげなが、過去一大きいかもしれん……」
「下手したらSS級……ちなみにエノールムの討伐達成率は?」
「2割ほど……一度、勇者パーティも全滅になっている」
「マジか……」
最低でもS級の魔獣。そんな巨大な敵を前にして、シモンとユーチェは驚愕の表情を浮かべるのであった。
「それやそれ。最初からその顔しいや」
プックはやっと普通の反応が見れたと勝ち誇った顔をするのであった。




