095 大激浪
プーシーユーがメインデルト王に呼び出された翌日。ついに大激浪のニュースが王都に流れた。
人々は一瞬また誤報かと頭に浮かんだが、疎開が始まるとまで言われると信じるしかない。パニックとまでは言わないが、人々は全員不安に駆られて騒ぎは大きくなっていた。
ただ、騎士団は身支度を急かすので、騒いでいる場合ではない。非戦闘員は必要最低限の荷物だけを持ち出して、次々と王都から旅立って行く。
そんな中、シモンとユーチェは連日城に足を運び、作戦会議。メインデルト王には見習い騎士で素直ないい子を数人借り受ける。
もちろんメインデルト王が「シモンに迷惑掛けたらわかっとるんじゃけぇの~?」と直接脅してくれたから、めちゃくちゃ従順だ。
この見習い騎士は、プーシーユーの補助要員。大激浪は10万以上もの魔獣が押し寄せるらしいので、いまある弾倉でも足りないのは明白。
なので、大激浪が到着する前に弾倉の補充を練習させる。もしもの場合は素人でも当てやすいショットガンを使わせるので、簡単なレクチャーもシモンとユーチェでやっている。
プックはというと、いまだに鍛冶場でガンガン金槌を振っている。夜中にまで突入することも多いので、王様がかなりいい消音アイテムを貸してくれた。
そのおかげでシモンたちの安眠は守られたが、プックは寝不足。ただ、闘志はメラメラと燃えているので、シモンも止められなかった。叩かれたら痛いし……
疎開開始から3日で非戦闘員は全て王都から退去。騎士団は大激浪に備えてかなり訓練されていたから、混乱も少なかったそうだ。
さらに3日が経つと、プックがやっと鍛冶場から出て来た。
「で、できたで……これが正真正銘、プーシー9号や~~~!!」
しかも、ゴツいスナイパーライフルを抱えて。
「え? これを作ってたのか??」
「せや。単発だと弾込め間に合わへんやろ。36発、2個の箱を作っておいたから、これでローテーションしたら弾切れにならん」
「うおっ。箱もデカイ。よくこんな短期間で作ったな。寝てないんじゃないか?」
「寝てへん! もう限界やから、使い方だけちゃっちゃと説明するで」
プックはスナイパーライフルの弾倉交換と鍛冶場に新型のスコープと双眼鏡もあると伝えただけで力尽きる。シモンはそんなプックをお姫様抱っこしてベッドに運んで行った。
それからスナイパーライフルの試射や弾倉の交換等も練習したら、こちらの弾倉補充も見習い騎士に教え込む。
そして2日後の朝早く……
「プック……プック。起きろ。プック!」
「んん……シモン、はん?」
「ああ。朝だ」
「朝……なんでシモンはんがあーしの部屋におるんや!!」
「待てって!!」
シモンがプックを起こしたら危機一髪。殴られ掛けたけど、シモンは飛び退いて事無きを得る。
「この変態!」
「いま、そういうのやってる時間がないんだ! 大激浪がそろそろ始まるって!!」
「……はい??」
プックが寝ている間に魔獣の津波は王都に着々と進行中。この事態にはプックはついて行けないみたいなので、シモンはユーチェに指示を出し、プックの身支度をさせたら馬車に飛び乗るプーシーユーであった。
「えっと~……あーし、なんでこんなところに立ってるんやろ?」
ここは王都南側の外壁の上。それもメインデルト王まで何やら忙しくしている場所に連行されたプックはまだついて行けない。
「だから大激浪が来るんだって。この10日間、ずっとその話してただろ」
「あーし、ずっと鍛冶場に籠ってたんやけど……」
「そのあと倒れるように眠ったんだよ。2日も寝てたぞ。簡単な作戦会議するから、話を聞け」
「てことは、あーしも戦うんか……いまから?」
「いい加減、しっかりしてくれ~」
プック、まだ頭が回っていない模様。シモンがガトリングガン等を設置してくれと頼んでも動きが鈍い。
とりあえずシモンの指示の下、ガトリングガン等が設置できたら、やっとプックも頭がしっかりして来た。
「あーしの役目は、森から出て来た小物を撃ちまくったらええんやな」
「その前に魔法使いがブッ放すから、そのあとだ。弓隊と一緒だからそれまで待てよ?」
「その時の指示で撃ったらええってワケやな?」
「そうだ。一拍タイミングを遅らせてもいいかもしれない。そこは実践で判断してくれ」
「わかっわ。そんで、シモンはんとユーチェは何しはるん?」
「俺たちは、もっと遠くにいるデカ物を狙う予定だ。余裕があったら、近くの中型を狙う」
「ザコはあーしらってことかいな」
作戦の序盤はこれで試し、中盤も説明しておく。
「魔獣が壁まで到着したら、4号で下を狙うんだぞ?」
「なるほど。登って来るのを落とすんやな」
「んで、箱が空になったら、彼らに渡してくれたら補充してくれる。8号はやり方わからないから、いまの内に説明してやってくれ」
「そりゃ助かるわ~。よしっ! お兄ちゃんたち、見とってや~?」
これで作戦は中盤までの説明は終了。プックは終わったと思って見習い騎士にガトリングガン用の補充を教えるのであった。
「来たぞ……」
それから小一時間後、シモンがスナイパーライフルのスコープで見ていたら、樹海の遠くのほうに砂煙が上がった。
「あーしには何も見えへんのやけど~?」
「プックさんが新しく作ってくれた双眼鏡なら見えますで」
まだ誰の目にも見えていないのだから、プックはユーチェから双眼鏡を受け取って覗いてみる。
「おお~。ホンマや。すんごい砂煙。こんな深い森、魔獣はどうやって進んでるんやろ?」
「たぶん先行している魔獣が体当たりで木を薙ぎ倒してるんじゃないか? しらんけど」
「ウチはみんなで押し倒してるんじゃないかと思うどす。しらんけど」
「それやと先頭は圧死するんちゃう? しらんけど」
わからないことは予想するしかない。プーシーユーは最後に「しらんけど」をつけて、答えを曖昧にする。
「来たぞ! 総員、戦闘準備~~~!!」
「「「「「うおおぉぉ!!」」」」」
プーシーユーがクスクス笑っていたら、ついにダークエルフの肉眼でもハッキリと砂煙が見えたのであった……




