094 パーティ会議
勇者パーティがいないのならば、大激浪は杞憂で終わってほしいシモン。そのまま祈るように寝て、翌日はスナイパーライフルの試作機を収納バッグに入れて屋敷を出た。
「え? 出れないの??」
しかし、王都を出ようとしたら門番に止められたので、シモンは首を傾げる事態に。どうやら今日は、冒険者ギルドと騎士団が樹海の調査を行うから、それ以外は立ち入り禁止になっているそうだ。
ただ、逆側は出入りは自由になっているらしいので、そちらに向かうシモンとユーチェ。門番から聞いた誰も来ないような岩場までお喋りしながらやって来た。
「ここでなんか狩れるんどすか?」
「いや。元々今日は試作機で遠距離射撃をしてみようと思っていたんだ。ここなら充分な広さだろ?」
「てことは、ウチの出番どすね!」
これより2人は程良い高さの岩山に登り、遠くの岩を狙って射撃を続けるのであった。
シモンたちはお弁当を食べたら、帰る準備。王都に戻るといちおう冒険者ギルドを覗いてみたけど、まだなんの発表もなかったので屋敷に戻った。
メイドの出迎えがないことは夕食の準備をしているのかと思い、気にせずリビングに入ったら、ソファーでくつろいでいたプックが振り返った。
「なんや。早かったな~」
「大激浪のせいで、商売あがったりだ」
プックに斯く斯く云々と仕事ができなかったと説明したら、試作機の報告だ。
「結論から言うと、ヤバイ」
「ヤバイ? 暴発でもしたんか?」
「いや、5号の3倍ぐらいの飛距離が出たと思う。よく見えなかったから、正確ではないけど」
「ホンマかいな?」
「ホンマホンマ」
「ウソついてるんか??」
シモンのドワーフ弁ではプックの耳にはウソにしか聞こえない。しかし、今までシモンは遠距離射撃をする時は銃口を少し上げていたと説明したら、なんとか信じてもらえた。
でも、そんな撃ち方で当てていたのかと、プックだけじゃなくユーチェも引かせた。
「てか、そんなに飛ぶんやったら、ますます連射機能いらんな。最長3キロなんて、誰が見付けられるねん」
「確かにな~……補充だけ楽にしてくれたら、それだけで充分かも? 接近戦で使えば、たぶん頭爆発すると思うし……」
「それだけでええなら簡単になるんやけど……頭爆発ってなんでんのん?」
「人の頭ぐらいの岩がな、爆発して、煙が立ち上ってん」
「正確に報告する時は、ドワーフ弁やめい!」
またしてもツッコまれたが、今回は信用に足る情報。プックもそれぐらいの威力はあると想定していたんだとか。
でも、下手なドワーフ弁を使ったからってシモンを小突いてました。
「ほんで。大激浪はどうなったん?」
続いての話題は、大激浪。プックに小突かれて痛そうにしているシモンが応える。
「まだ結果待ちだ」
「ふ~ん……ほんで。シモンはんはどうするつもりなん?」
「俺1人だったら責任取ろうと思うんだけどな~……2人に任せるよ」
勇者パーティを七層から追い出したのは結果的にはシモンだが、パーティで行動しているのだから1人では決められないので、プックとユーチェに決定権を譲る。
「ウチは残ってもええどす。フレズベルクを倒したシモンさんなら、なんとかできますよ」
エルフはシモンに救ってもらった身なのだから、同じエルフのユーチェは賛成に手を上げた。
「2対1やと、反対しても無意味や~ん」
プックは特に救ってもらっていないから反対だってさ。
「いや、1人でも反対ならやめるぞ。今回こそ、死ぬ確立が高いんだからな」
「冗談や。ホンマ、シモンはんは冗談通じへんな~」
いや、冗談らしい。
「あーしらにはプーシーシリーズがあるやろ? 外壁から撃ちまくったら爽快やろな~」
「確かに。俺たちには持って来いの戦場だな」
「ホンマどす。強い弾もあるから、3キロ先から一方的に撃ち放題どすな~」
その冗談には笑えなかったが、銃で戦う姿を思い浮かべたら勝利が見えたので笑顔になる一同。
「よしっ! プーシーユー、大激浪に挑むぞ!!」
「「お~!」」
斯くして、シモンの号令でプーシーユーは決意を固めるのであっ……
「これで大激浪は間違いでしたやったらどうする?」
「「その冗談も笑えんわ~」」
最後にプックがボケるので、笑顔が消えたシモンとユーチェであったとさ。
樹海に入れないのでは、狩り組の仕事はできず。なのでシモンとユーチェは、大激浪に備えて銃をピッカピカに磨き上げる。
プックは外に出なくとも仕事はあるので、急ピッチで何かを製造。そんなことをしていたら2日が過ぎた頃にメインデルト王に呼び出された。
いちおうプーシーユー全員が招待されたけど、プックは忙しいので居残り。ユーチェもいらないと言ってみたけど、シモンが行くならついて行く。
そうしてメインデルト王の待つ応接室に入ると、さっそく要件を話し始める。
「メイドから大激浪について聞いとるよな?」
「はあ……」
やはりメイドは見張りだったと確証が取れたシモンは空返事だ。
「数日調べた結果、大激浪が起こる確立がブチ高いそうだ。いや、確実に来ると儂ゃ読んどる。じゃけぇシモン……」
メインデルト王の言葉に、シモンはどちらが来るのかと考えながらその時を待つ。
「これから疎開が始まる。その者たちと一緒に王都を出ろ。ほいで、八層に行って勇者パーティの牽制をしちゃってくれ」
こんなことを言われると、シモンも困った顔。一緒に戦ってくれと言われたほうが返事がしやすかったのだろう。
「そのことなんですけど、3人で話し合って、もうすでに心は決めています。俺たちも戦います」
「戦うだと?」
「はい。俺たちなら、冒険者100人以上の働きをします。任せてください!」
メインデルト王も意外な言葉が来たので少し呆けてしまったが、シモンとユーチェは覚悟を決めた顔をしていたから頬が緩んだ。
「フッ。さすがはエルフの英雄。その心意気、感謝する」
斯くしてシモンとメインデルト王は握手をし、プーシーユーはダークエルフの戦力として加わることとなったのであった。




