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007 試作機


 武器製作が決まった翌日は、シモンとプックは一緒に宿を出て各種手続き。鍛冶場付きの家を何件か見てから決め、素材の買い出しにも付き合い、宿屋に帰ったのは夜。

 2人は酒場のテーブル席に陣取り、まずはエールを頼んで乾杯。料理が揃ったところで、シモンは店員のイレーナを呼び止めた。


「え? 出て行くの??」

「ああ。家を借りたんだ。つっても……」

「え? その子と一緒に暮らすの!? どういうこと!? お父さ~~~ん!!」

「なんでオヤジさん呼ぶんだよ!?」


 イレーナ、元カレのシモンが出て行くと聞いて混乱。プックのことも元カレを奪った泥棒猫に見えたのか、最強のカードを切ったからシモンも怖すぎる。

 このよくわからない展開で、シモンはマスターに一発殴られてKO。シモンが喋ろうとしていたことの続きをプックが説明することで、なんとかこの場は落ち着いた。


「チッ……殴り足りねぇな……」


 この機会に、娘に手を出したシモンをボコボコにしようとしたマスター以外……


「なんだ。武器作ってもらったら帰って来るんだ」

「つつつ……それを言おうとしたのに、イレーナが騒ぐせいで殴られただろ~」


 長くても1ヶ月程度の外出なのに、イレーナが早とちりしたせいでシモンはアゴがガクガク。イレーナはてへぺろしたあとは、急に真面目な顔になった。


「やっと止まっていた時間が動き出したみたいね」

「なんのことだ?」

「さあね。そろそろ仕事に戻るわ。シモンも頑張りなさいよ」

「いや、なんのことなんだよ」


 こうしてイレーナはいい女感を出して、この日はそのまま別れるシモンであった。



 それから数日後、シモンたちは迷宮街の外れにある借家に転居した。この家は出稼ぎに来たドワーフ用で、少し広めの庭はあるが建物じたいはあまり大きくない。

 それでも2人ぐらいは余裕で寝泊まりできるので、シモンたちは部屋割りを決めて荷物を置いたら食堂にて集合した。


「なんかカンカンカンカン聞こえるな……」

「近くの家で、ドワーフが武器でも作ってるんやろ。そのうち慣れるって」

「はぁ~……メシは作れるのか?」

「金属やったら……」

「もういい。なんか買って来る」

「エールは多めでよろしく~」

「はぁ~……」


 プックは武器以外作れないと知ったので、シモンは本日の晩ごはんと保存食の買い出し。あとはエールを樽で買って、リヤカーで持ち帰るのであった。



 借家に引っ越してから1週間。シモンは毎日仕事に出て、今日は体を休めようと自室にこもっていたけど、鉄を叩く音がそこかしこから聞こえるからいまいち休まらない。

 もういっそ、休日は娼館で過ごしたほうが休まるんじゃないかと考えていたら、ドアをノックする音が聞こえた。そのすぐあとにプックが入って来たので、ちょっとした苦情だ。


「まだ返事もしてないんだけど……」

「そんなことより、試作機ができたで!」

「親しき仲間にも礼儀ありって言葉、知ってる?」

「ほら? はよう見てや~」


 シモンの苦情は一切通じず。プックはシモンの手を取って、無理矢理庭に連れ出した。そこでプックは、手の平より少し大きな三角形に近い形の鉄の塊をシモンに手渡した。


「どうや? 握り心地は??」

「グリップは、ボーガンみたいな感じか……」

「そうや。そこに穴があるやろ? その穴に指を入れて、人差し指でベロみたいなの……引き金って名付けたんやけど、それを引くんや。いちおう的は用意しておいたで~」

「これをあそこにか……狙いにくいな……」

「あっ! 筒だと狙いを定めにくいんやな。その点は改良が必要やな……」

「まぁ撃つだけ撃ってみる」


 ひとまずシモンは三角形に近い鉄の塊を両手で構え、筒の上部を的に合わせて引き金を引いてみた。


「おお~。一発で当たったやん!」

「当たったけど、ギリギリだぞ」


 パンッと鳴ったあとに木製の的の下部に穴が開いたけど、シモンは納得がいかない。しかし次の瞬間には驚いた顔に変わった。


「どないしたん? なんか気に食わへんことあったんか??」

「いや、スキルレベルが上がったから……」

「ん? 上がらん言ってたヤツか??」

「そうだ……なんでだ??」


 急展開。今までスキルレベルが上がらなかった弾丸補充スキルがレベル2になったのだから、シモンもついて行けない。


「たぶんやけど……適性武器を使うことが条件になっていたとか? 今までは正規の使い方してなかったやろ??」

「そういうことか~……なんだよこのジョブ~。せめてもう少し説明してくれよ~」


 新事実発覚で、またしてもシモンはガックシ。世界初のジョブで、これまた世界初の武器を作らないことにはスキルレベルが上がらないのだから、少し女神様を恨んでしまうシモンであったとさ。



「ところで、そのレベルが上がったスキルって、何か変わったことあるん?」


 シモンの恨み節がうっとうしく感じたプックは、やれやれって顔で質問する。するとシモンもいま思い出したらしく、慌ててステータスボードを開いた。


 ステータスボードとは、ジョブを持つ人が念じれば目の前に現れる半透明の板。本人か鑑定師と呼ばれるジョブの人しか見ることはできない。

 力や速さ等も詳しく書いてあるけど、冒険者は若干盛る人が多いらしく、鑑定師を避けがちなんだとか……

 ちなみにジョブレベルやスキルレベルが上がると頭の中でチャリンと聞こえるから、慣れない人はどこかで小銭が落ちたと勘違いしてキョロキョロするらしい。


「あ、弾丸が貰える数が増えてる。1日に倍の20個になった」

「ほう……てことは、1日に使える回数増えたんや。よかったやん」

「まぁ……ジョブを授かってから使ったのは、千個もないと思うけど……」

「10歳からと言うと……4、5万ぐらい??」

「うん。使わないし……」

「どこにそんなに仕舞ってんねん!?」


 謎ジョブ狙撃手。弾丸補充スキルに加算され続けた弾丸は本人の意志で取り出せるけど、使う頻度が少なかったので溜まりに溜まっていたのであった……


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