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006 プックの野望


 ジョブの秘密を喋ったあとは、プックと意気投合していたシモンであったが、もう喋ることがなくなったと気付いて立ち上がろうとした。


「ちょい待ち」

「ん?」

「それ、調べたろか?」


 しかしプックに呼び止められて、浮かした腰を下ろす。


「調べるって、何をだ?」

「謎の金属や。てか、調べてもらったことないんか?」

「故郷ではわからなかったから、この町のナンバー1鍛冶師に頼んだら、怒鳴られたからそれっきりだ」

「ああ~。あのオッサン、剣しか作らんからや。頼んだドワーフが悪かったな」

「そういうことか~。仲間が盾の修理頼んで怒鳴られてたのも、そういうことだったんだ」


 プックも就活でそのドワーフの下を訪ねたから頑固さは知っていたので軽く愚痴っていたが、そんな話をしたいんじゃなかったと気付いて話を戻す。


「それでや。他にも先っちょが飛ぶ方法があるかもしれへんで。上手いこと行ったら、面白い武器になるかもな~」

「これが武器になるのか……まぁ気になっていたから、調べてもらえるのはありがたいが……」

「宿代と食費でどうや??」

「やっぱそう来るよな~」


 シモン的にはタダなら喜んで調べてもらったのだけど、有料と聞いて悩む。


「ま、長年の謎が解ける可能性もあるから頼んでみるか」

「よっしゃ! あーしに任せなはれ!!」


 交渉成立。ひとまずシモンは弾丸を10個預け、プックと一緒に帰路に就くのであった。



 それから2日後、シモンが仕事から帰って来たところでプックに捕まり、早く帰りたいと訴えているのに人気のない路地裏に連れ込まれた。


「もう暗くなるし、明日でよくないか?」

「あきまへん! めっちゃ凄い武器になりそうな予感がするねん!!」

「はあ……こんなんがね~……」


 理由はプックのテンションがアゲアゲだから。お昼頃に謎が解けたから、言いたくて言いたくて仕方がなかったみたいだ。


「で、何がわかったんだ?」

「とりあえず分解してみてな~……」


 弾丸の構造はわりと単純。先端の丸く色が変わっている所を無理矢理引っこ抜いたら黒い粉が(こぼ)れ、後部には何か仕掛けがあったらしい。


「これは輪切りにした物なんやけど、これ、後ろから叩いたら火花が散ったんや」

「はあ……」

「わかってへん顔やな~って、そりゃそうか。ミソはこの黒い粉や。この黒い粉、火をつけたらあっという間に大きな炎になって消えてん」

「はあ……」

「まだわからんか? 要はこの筒の中で爆発して、先っちょが飛ぶような構造になってるんや」

「はあ……」

「こりゃあかんな……実演見せたほうが早そうや」


 シモンがずっと首を傾げているので、プックは口で説明することを諦めて各種準備をする。持参した鉄製の台に万力を設置して、その間に弾丸を挟んで固定する。

 そして弾丸のお尻部分に中央が尖った板を当てたら、金槌を横に引く。


「よう見とってや? ここを強く叩いたら先っちょが飛ぶからな」

「ああ……」


 プックが素早く板を叩くと、パンっと弾ける音と同時に先端が飛び、音とほぼ同時に木製の箱に突き刺さった。


「おお~。ホントだ。先っちょが飛んだ」

「感想それだけかいな。大発見ちゃうんか」


 いまだにシモンのテンションが上がらないので、プックは呆れ顔だ。


「んで……それがわかったところで、何が変わるんだ?」

「つまりや、弾丸をセットして尻を叩く機械があれば、武器に使えるってことや。ひょっとしたらやけど、その機械が狙撃手ってジョブの適性武器なんじゃないかと、あーしは睨んでるんや」

「狙撃手の……適性武器……」

「剣士なら剣、アサシンならナイフとか、強さの補正とかスキルの恩恵があるの知らんか?」

「知ってる……そういうことか……」


 シモンはやっと違った顔を見せてくれた。


「腑に落ちたような顔しとるな~。なんか思い当たる節あるんやろ?」

「ああ。レベルの高い弓使いは、使用した矢が手元に戻って来たり、自分で作り出せるスキルがあるんだと。俺は自分で回収するか仲間に手伝ってもらっていたんだけど……それがおかしいって言われて居心地が悪くて……」

「プププ。他のパーティで長続きしなかったんは、それが原因かいな~。ククク」

「おお~い。笑うなよな~。ずっと弓が適性武器だと思ってたんだよ~~~」


 シモン、ガックシ。そもそも狙撃手って名前からして遠距離攻撃のジョブだし、この世界には遠距離の武器なんて弓か投擲(とうてき)武器しかなかったのだから、気付きようがない。

 この日シモンは、自分がとんでもないハンデを背負っていたと知って、嘆きに嘆くのであった。



「ま、そう嘆きなさんな」


 シモンがクビになったパーティの悪口になっていたところに、プックが割り込んだ。


「武器がないなら作ったらええだけや。あーしに任せてくれたら悪いようにせえへんで~?」

「そりゃそうだけどよ~……お高いんでしょ~?」


 見たことも聞いたこともない、まったくの新しい武器の開発から始まるのだから、シモンは開発費用にビビッて通販番組のアシスタントみたいになってる。


「そりゃそうや。でも、この階層で手に入るいっちゃん高い剣よりは、かなり安くなるはずやで。素材はせいぜい鋼鉄までで収まりそうやしな。ざっくりした概算やけど……」

「え? そんなにお安いの??」


 素材の値段だけ聞いたら、シモンが考えていたより本当に安いので、実演販売を見た主婦みたいになってるな。


「あとはあーしの給料と場所代が掛かります」

「なんでそこだけ敬語なんだ?」

「あーしだっていい酒飲みたいや~ん?」

「高い酒が飲みたいのか……」


 でも、プックのことがオッサンに見えたから普通に戻った。


「場所代ってのは?」

「鍛冶場を間借りすると代金が発生するねん。これはピンキリやけど、安いところはすでに見付けとる。ただ、お兄さん的には、他の人に見られたくないんちゃうかと思ってな~……鍛冶場付きの家を借りたほうが無難やな。これは不便な場所にあるし、ちょっと高いねん」

「俺の武器を作るだけなのに、次々と問題が出て来る……」


 適性武器製作にあたって大金が動くからには、軽い気持ちで調べてくれと言ったことを後悔するシモン。ただ、適性武器は欲しくなってはいるみたいだ。


「その借家って、人も住めるのか?」

「せやで。昼間はうるさいけど夜は鍛冶禁止になってるはずやから、安眠は守られるで」

「もう考えるの疲れた。いい武器作ってくれ」

「やった! 任せなはれ!!」


 結局のところ、シモンはギブアップ。せめて宿代が浮くと聞けて、プックに武器製作を依頼するのであった……


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