051 謎の女
「ねえ? ずっと何してはりますのん?」
岩山の頂上でホーンホーク狩りを終えたシモンが腹這いで長距離射撃の訓練をしていたら、後ろからショートカットの若いエルフ女性に声を掛けられたからビクッとして振り返った。
「ああ~……えっと……特には何も……遠くを見ていたみたいな?」
「嘘やな。ウチ、その道具でホーンホークを落としてるのも見てますんやで? ホンマのこと教えてや~」
「そんなに前から??」
エルフ女性は両手を合わせてそんなことを言うので、シモンも冷静になった。それと同時にエルフ女性の全身を素早く見たけど、太ももまで出したナマ足に長く目が止まっていた気がしないでもない。
「君……何者だ? いつからつけていた??」
そう。こんなに人気のない場所に女性が1人で来るワケがない。弓を持っているが、ホーンホークを狩るには心許がないのも理由で、シモンは村からつけていたと断定している。
「あ、怪しい者やないどす。エルフ王国で近衛兵をしてい、る……これ、言っちゃあかんヤツやった~~~」
ますます怪しむシモン。エルフ女性が恥ずかしそうに顔を両手で隠しているけど、エルフ王国の近衛兵ってワードが怪し過ぎるのだ。
「えっと……俺は聞かなかったことにするから、今日のところはお互い忘れるってことにしないかな?」
失言を逆手に取って、シモンはなかったことにしたい。
「それはあきまへん! 女王様のた、め……」
「うん。なかったことにしよ? な?? 俺、関わり合いたくないんだ」
「そこまで知られては、もう帰せまへん! お命ちょうだい致します……」
「待て! 君がペラペラ喋ったんだろ~~~!!」
さらに重要ワードが飛び出たのでシモンは説得したけど、エルフ女性は弓に矢を番えてシモンの命を狙うのであったとさ。
「話す! 何をしていたか話すから、矢は外そう。な?」
涙目のエルフ女性が弓を構えているから、シモンも譲歩。というか、一部始終を見られていたから、この際言ってもいいやと開き直ってる。
「女王様のことは……」
「聞いてない。記憶にない。だから、な?」
「言いふらしたら……殺しますで?」
「わかったから。絶対に言わないと約束する。もちろん君が口を滑らせたことも口外しない。まだ死にたくないんだ。信じてくれ!」
シモンの必死の説得で、ようやくエルフ女性も弓から矢を外した。
「それで、何が聞きたいんだ?」
「その道具で何をしていたかも聞きたいんやけど……やっぱり仕事を優先しなくちゃアカンわな」
「頼むから余計なこと言わないでくれ~」
「あっ!?」
シモンが祈りながら訴えると、エルフ女性は咳払いしてから質問する。
「ホーンホークを2羽落としたやろ? 見た感じもっと落とせるのに、なんで遊んでるん?」
「それはこれ以上持てないからだ」
「持つ人がいれば、もっと落とせるん?」
「やろうと思えばな。でも、真上に来ないとできないから、結局はそんなに狩れないぞ」
シモンは答えたのに、エルフ女性が悩む素振りをするから少し怖くなる。
「例えばどすけど、もっと狩ろうとしたら、どうすればいいと思うどす?」
「そうだな……四方八方に人を配置するとか? 俺なら遠くのホーンホークも落とせる。要はそれを拾えるようにしたら、1日に10羽……もっと狩れるんじゃないかな? どれぐらい棲息数がいるかわからないから、希望的観測だけどな」
「そうどすか……」
また時間が空くので、シモンは逃げようかとも考える。
「その道具はなんどす?」
「これは俺の武器だけど、あまり詳しく言いたくない」
「じゃあ、さっきは何をしてたんどす?」
「遠くの的に当てる練習だ」
「どれやの??」
シモンは1キロ以上離れた場所を指差したけど、エルフ女性の目には見えなかったので、双眼鏡を使って見ていた。
「あの木どすか?」
「ああ。しっかり狙っているのに、全然当たらないんだ」
「あんなに遠くまで飛ぶんや……風は計算してるんどすか?」
「もちろんだ。ここ、横風が酷いから、ちゃんと計算してるんだけどな~……どうしても当たらない」
「見た感じ、横風だけじゃないどすよ? もっと複雑なんどす。こことあっちでは、風の動きは全然違うどすからね~」
「そうなのか? ちょっと教えてくれないか??」
エルフ女性も口を滑らせたことを悪く思っているのか、シモンと一緒に岩肌に腹をつけて的を見る。
「標的から、やや右を狙っておいておくれやす」
「2センチぐらいでいいか?」
「5センチ外して……合図を出すから、すかさずそこに放ってな」
「こんなにもか……カウントダウンしてくれるとありがたい」
「わかったどす」
シモンはこんなにズラしては当たらないと思いつつ、エルフ女性の合図を待つ。そうして引き金に指を掛けたまま集中していたら、カウントダウンが始まった。
「当たったやん!」
「うお~。すげ~。一発……」
「凄いのはお兄さんの腕とその道具どすわ~」
今まで掠りもしなかった的に一発命中したのだから、シモンもエルフ女性もお互いを褒め合って喜ぶのであった。
それからも2人で練習していたら、エルフ女性は急に立ち上がった。
「こんなことしてる場合ちゃうかった!?」
「ああ~……忙しいのにゴメンな」
このエルフ女性は確実に見張り。シモンも早く帰ってほしくなってる。
「ウチが担ぐから、もう1羽落とせまへん?」
「え? ホーンホーク??」
「そうどす。みんなお肉に飢えてますんねん。できるだけ持ち帰りたいやん? お願い!」
「いいけど……」
シモンは「こいつ、仕事はいいのかな~?」と思いながら横になって、ホーンホークが寄って来るのを待つ。その10分後には、1羽を落としてエルフ女性はキャピキャピ喜んでいた。
「じゃあ、帰ろっか……」
「はい!」
こうして2人は、ホーンホークを1羽ずつ担いで村に帰るのであった……
「あの、あなたは……」
「あっ! これ、運んでやって! ほな~」
門番に声を掛けられたエルフ女性は、ダッシュで逃げて行くのであったとさ。




