042 迷宮ボスとの戦闘
「でけ~。こえ~。チビリそ~」
気合いを入れてボス部屋に入ったプックであったが、牛の頭を持つ5メートルオーバーの人型モンスター、ミノタウロスキングを見てもう戦意が喪失しそう。
冒険者ギルドの査定では、ミノタウロスキングはB級モンスターの上位に当て嵌まるから、ずぶの素人では恐怖に震えても仕方がないのだ。
「逃げるなよ? プックがいないと作戦が崩壊すんだからな」
「さっきは逃げてええって言ってたや~ん」
「さっきはさっきだ。てか、来るぞ。冗談はここまでだ。構えろ」
「わかってまんがな!」
どうやら緊張を解そうとちょっと喋っていただけ。ミノタウロスキングが一歩前に出たら、シモンとプックは同時に真剣な顔になって銃を構えた。
ミノタウロスキングとの距離は、およそ30メートル。まだ遠いので、まずはシモンのアサルトライフルが火を吹いた。
「避けやがった……」
だが、一手目から予期せぬ事態。頭を狙った弾丸は、ミノタウロスキングがちょっとだけ顔をずらしただけで標的を外したのだ。
「来てまんで? 大丈夫ですのん??」
「なんとかする! 胴体はどうだ!」
「当たった? 当たったでんな!」
「ああ!」
二手目は目標変更。普段狙わない胴体のド真ん中を狙えば、ミノタウロスキングも避けきれずに体の右辺りに着弾して血が流れた。
「これならどうだ!」
「おお~。器用でんな~」
三手目は2連射。体を狙ってミノタウロスキングの動いた方向にヘッドショットを重ねる。どちらも見事に命中し、特にヘッドショットは効いたのか、ミノタウロスキングは頭を後ろに引いて一歩下がった。
「これでしばらく削る。出番はすぐ来るぞ!」
「おう!」
いい作戦だと思ったが、ミノタウロスキングは頭が回るらしく、2回目以降には対応を変える。胴体にはダメージが低いと察して、1発目は避けずに2発目を避けたのだ。
シモンはその可能性も考えていたのか、次のターンは3連射。胴体、胴体、避けた所をヘッドショットで撃ち抜く。
そのやり取りを繰り返すと、早くも弾切れが近い。
「残り2発。1、撃て!」
「うっしゃ~~~!!」
なので、プックとチェンジ。プックは出番が来たと、ミノタウロスキングにサブマシンガンを向けて撃ちまくる。しかしダメージが低いのか、ミノタウロスキングは避けもしない。そのまま前進している。
「アカン! 効いてへんかも?」
「ミノタウロスの速度は?」
「気持ち落ちたってところや!」
「ならいい!」
シモンは目を離して弾倉を交換しているので、プックの目を頼るしかない。
「もう切れるだろ?」
「わかりまへん!」
「あと5発もない。交代準備だ!」
「よう数えられますな!」
予定通り弾倉交換はできたので、プックの弾切れに合わせてシモンのヘッドショット。また胴体と頭を散らして撃ち、ミノタウロスキングの前進を阻害する。
「もういけますで!」
「あと7発。合図を待て」
「ラジャーや~」
シモンの合図があれば、銃弾は途切れない。ミノタウロスキングは一方的に蜂の巣にされ続けるのであった。
「かなり近付かれましたで! まだ死なへんのかいな!?」
シモン&プックのローテーションはこれで4回目。プックの順番の時には、ミノタウロスキングに5メートル辺りまで近付かれてしまった。
「次は連射を使う! 交換はギリギリになると思うけど、焦らずにな? もしもの時は俺が囮に出るから!!」
「急がず丁寧にやな……」
「もう交代だ! 2、1、ゼロ!!」
「はいな!」
「うおおぉぉ!!」
切り札投入。アサルトライフルを連射モードに切り替え、さらにシモンは前に出ながらミノタウロスキングの頭を狙い続ける。
さすがにここまで近いとミノタウロスキングは避けられないのか、全てヒット。その都度たたらを踏んで後退った。
弾数が残り5発になったところでシモンは撃ち方やめ。単発モードに切り替え、前を向いたまま後ろに走り、ミノタウロスキングを撃ちまくる。
「あのモーションは! クソッ!!」
残弾が残り1発のタイミングで、ミノタウロスキングは口を大きく開けた。そこに最後の1発をぶち込んだシモンは、ミノタウロスキングに背中を見せて走り出した。
「プック! 逃げるぞ!!」
「待って! ああ!?」
血相変えたシモンはダッシュで戻ると、プックを肩に担ぐ。その衝撃で、プックはもう嵌まりそうだった弾倉を落としてしまったが、シモンは気に掛けてる余裕もないので横に向かって走り抜けた。
『グルアアァァ~~~!!』
その直後、ミノタウロスキングの口から燃え盛る炎が吐き出される。
「あっつ~! 来てる! 炎来てるで!!」
「うおおぉぉおおぉぉ!!」
危機一髪。2人が立っていた場所は炎に呑み込まれたが逃げ果せた。しかしミノタウロスキングは薙ぎ払うように首を振ったものだから、炎は2人の背中に迫る。
「「セーフ!!」」
なんとか横倒しになっている大きな柱の裏に滑り込めたので、2人は同時に歓喜の声を上げた。かなり熱気はあるが、遮蔽物のおかげで燃えることはないからだ。
「重かったやろ? よう走れたな」
「ヘルメットと胸当ては重かった。それより早く箱込めろ。ブレス吐き終わるぞ」
「お気遣いありがとうございます!!」
まだ戦闘中。しかもお互い銃には残弾がゼロ。無駄口を叩いていてもシモンとプックは弾倉をセットして、ブレスが止まるのを待つ。
「弱まった……」
「やな……」
「俺から顔を出す。ここから撃ちまくるぞ」
「おお!」
シモンはタイミングを合わせて立ち上がり、ちょうど炎を吐き終わって固まっていたミノタウロスキングの頭に2発ヘッドショットを決めた。
「まだ来るぞ!」
「いつでも来いや~~~!!」
これからもう一度プックの出番が来たあとに、シモンのヘッドショットがラストアタックとなり、ミノタウロスキングは2人に触れることさえできずに倒れたのであった……




