039 プックも限界
迷宮地下3階の安全地帯。夜中にシモンが起きていたから、プックも少し喋っていたけどすぐにテントに逃げてった。シモンが厄介なストーカーになった不倫相手に見えるから、愚痴に共感できるか自信がなかったらしい。
翌朝はスッキリ起きたプック。あくびまじりにテントを出たら、すでにシモンが起きてお湯を沸かしていた。
「おはようさん。まさか寝てないとか言わんよな?」
「ちゃんと寝た。ま、迷宮内は危険だから、いつも眠りが浅くなるんだけどな」
「アレ? 安全地帯はモンスターが現れないんちゃうの??」
迷宮の安全地帯と呼ばれる場所は、女神の力が働いているだとかモンスターが嫌がる音が鳴っているだとか諸説あるが、安全な場所として冒険者に認識されている。ちなみに拳大のスライムは無害だから誰も気に掛けていないらしい。
「モンスターは、な」
「あっ! 人間でっか……」
「ああ。2、3組いるから、念のため罠を張っておいたけど、出番が来なくてよかったよ」
「はぁ~……そんな人間どうしでやり合わんでもええのにな~」
プックに迷宮の常識が付け加えられたら、朝食に移行。朝から冒険者メシを食べていると、プックはまだ聞きたいことがあるみたい。
「そういえば、シモンはんってここまで1人でどうやって来たん? その当時って、弓で戦ってたんやろ? 蒼き群雄に寄生してたら戦闘は大丈夫やろうけど、そんなに近付いたらすぐにバレてしまうんちゃうの??」
「まぁ、戦闘になったらヤバかっただろうな。ちょっと待ってな」
シモンは説明するのが面倒なのか、質問の答えをプックに渡した。
「マント?? こりゃまた高そうな魔石が付いとんな……あ、姿を隠す効果があるんちゃうか?」
「正解。近すぎると、ベテラン冒険者なら違和感で見付かってしまうから、少し距離を取ってな。帰りは、コソコソとモンスターを避けて逃げ帰ったんだ」
「ほへ~。すっごい隠蔽力やな。もしかして、これも王様の餞別??」
「そうだ。これでアレしたら、次の階層にアレできるから、アレしろよって……」
「プッ。王様はシモンはんを隠蔽することに力入れ過ぎやわ~」
「俺のこと、透明人間にしたいのかな~?」
故郷の国王は徹底的。生きているのにここまでいないことにされては、プックもちょっとしか笑えなかった。シモンは「まだ笑えるんだ……」と思っているけど……
片付けをして銃も確認したら、2人は元気よく出発。今日のプックは元気が有り余っているから、雑談が目立つ。
「昨日と違って、全然疲れまへんわ~。慣れかいな?」
「レベルだろ。一気に上がっても体力は減ったままだから、休むまで自覚が持てないんだ」
「なるほどな~。じゃあ、そろそろあーしも戦闘に参加してもいいってことやな」
「誰がそんなこと言ったんだよ」
「えぇ~。暇やね~ん。プーシー4号も出番がなくて泣いてるんやで~?」
「どこから涙が出るんだよ」
今日のシモンも通路から出た瞬間に、半自動式拳銃を早撃ちしてモンスターの頭を撃ち抜いているから、戦闘した気分すら湧かないプック。
本当に無駄話が多いので、シモンも安全を確認してから立ち止まった。
「もうちょっとしたら、大物が出て来るからそれまで待て」
「撃っていいんでっか!?」
「ああ。ボス戦の練習がてらにな」
「やった! プーシー4号が火を吹くで~!」
「それまで静かにしてろよ?」
プックがうるさいからの譲歩。それからのプックは口数は減ったものの、いちいちサブマシンガンを構えて撃つ練習してるから、動きがうるさいとツッコミたいシモンであった。
昼食に安全地帯に寄った2人は、干し肉と堅いパンをガシガシ食べながら作戦会議だ。
「こういう作戦で行こうと思う。俺がボスを撃つだろ? 弾が尽きる前に合図を出すから、プックが撃ちまくる。その間に俺は箱を入れ替えて、プックの弾が尽きたら交代な」
「んで、シモンはんが撃っている間に、あーしが箱を入れ替えるんでんな」
「そうそう。ぶっつけ本番だと、ミスった時に焦ったりするからな。ミスった場合もシミュレーションしておこう」
「こういうの待ってて~ん」
プック、やっと冒険者扱いされたので嬉しそう。シモンの話もニヤニヤして聞いていたので「真面目に聞け」と怒られたりしても、嬉しそうにするのであった。
武器の確認を念入りにしたら、プックは鼻息荒く出発。シモンが何度も注意していると、大型のモンスターを発見したけど、3体もいたのでシモンはとりあえずプックに見せてみる。
「アレ、いけそうか?」
「どれどれ~? デカッ。イカツッ。こわっ……」
モンスターの正体は、オーガ。それも3メートルを超える巨体で筋骨隆々の人型モンスターが金棒やら斧を振り回しているので、プックも恐怖が勝るみたいだ。
「ちょっと試したいことがあるから、今回はお休みな。その間にオーガの顔に慣れておこう」
「ま、まぁ、今回は譲ったるわ~」
緊張してる状態では、プックが外しまくる未来しか見えない。なのでシモンは、1人で3体のオーガに立ち向かうのであった。
シモンは通路から体を出したら、銃弾を1発だけ発射。そして身を隠して様子を見る。
「3号でもまだ倒せるみたいだな」
弾丸は後ろを向いていたオーガの頭に命中。半自動式拳銃で倒せると確信したシモンは、プックに一声掛けて通路から飛び出した。
仲間のオーガがいきなり倒れたので覗き込んでいる2体の内の1体に、ヘッドショットで撃沈。残り1体は、シモンに気付くのを待ってから、半自動式拳銃を乱れ打ち。
腕や足を狙い、胴体にも集中砲火したが、オーガはまだ倒れずに前進していたから、最後の弾は頭に当てて息の根を止めた。
「頭から下は、効いてはいるけどもっと数が必要だったな……見たか?」
シモンは弾倉を替えながら振り返ると、プックは何故か残念そうな顔をしていた。
「見たけどな~……」
「何か問題あったか?」
「またプーシー3号だけ……プーシー5号にも出番やってや~」
あんなに大きなモンスターでもシモンは半自動式拳銃だけで倒してしまったから、怖いよりもアサルトライフルがかわいそうになってしまうプックであった。




