031 呼び止める者
「おい、お前たち。ちょっと止まれ」
シモンとプックが帰り道を歩いていたら、5人組の黒髪の男に呼び止められた。シモンたちはチラッと見て無視しようとしたが、この町では見たこともない豪華で派手な装備を付けていたから見惚れてしまい、足も止まってしまった。
「なんか用か?」
ここまで近付かれては逃げられそうにないので、シモンは警戒しながら相手をする。
「それだそれ。腰に付けてるヤツだ。どこで手に入れたんだ?」
シモンの腰には回転式拳銃が一丁だけ左側に刺さったまま。半自動式拳銃は気に入っているから、いつも迷宮を出る時には落とさないように収納バッグに入れていたから右側のホルスターは空だ。
誰に見られても何も言われなかったから、ここ最近は腰布で隠さず出歩いていたのが悪かった。金色の軽鎧に白いマントの男は、その見られない物が気になって近付いて来たみたいだ。
「これは~……モンスターが落とした。てか、これが何かわかるのか?」
「当たり前だ。剣と魔法の世界にも、拳銃なんてあるんだな~」
「拳銃? これのことか??」
「はあ? 知らないで使っていたのか? プッ……よく見たら、プーシー1号って書いてる。なんだその名前! ぎゃはははは」
「「「「ぎゃはははは」」」」
5人組は大爆笑するのでプックが何か言おうとしたけど、シモンが怖い顔で「黙ってろ!」と口パクで伝えたから後ろに隠れた。
「何がそんなにおかしいのかわからないけど、こんなのも持ってるんだ」
「ぶっ! ライフル銃がプーシー2号って! 人を殺す兵器に付ける名前か~? この世界のヤツらは銃も知らないのかよ! ぎゃはははは」
ここでシモンは確信に変わった。
「もしかして、お前たち……いえ、あなたたちは勇者パーティでは……」
そう。この下品な笑い方をしている若い5人組は、異世界召喚された勇者パーティ。
金色の軽鎧の男が勇者、イマムラ・ユウキ。銀色の全身鎧の男が聖騎士、ワタナベ・リクト。赤で統一された服装の男が拳聖、ナガタ・トモノブ。
黒のローブ姿の男が賢者、コジマ・トモヤ。白いローブで金の装飾を多く付けている男が聖者、フジタ・キヨト。
勇者だけでも強いのに、ジョブ最高位の集団なのだ。
「おお~。お前、俺たちが勇者パーティだとよくわかったな。ま、オーラが違うか……てか、お前レベル高いな。84なんて初めて見た。仲間にしてやろうか? ……いや、なんだこいつ? 弓使いでスキルがみっつしかない!? その上、魔法スキルもないのになんでMPなんてあるんだ? ステータスも速さと器用さだけは俺たち以下って……ザコのクセに頑張って生きてるな~。ぎゃはははは」
勇者パーティは再び爆笑。シモンはどうしていいかわからないので、少し後退ったらユウキに気付かれた。
「ああ~。シモン、最高。笑わせてもらったから、何もしねぇって」
「名前まで……な、なんで……」
「ハッ……お前たちと違って、召喚者様は全員鑑定持ちだ。んで、何もしねぇって言ったけど……銃と弾をくれるよな? 俺たちは世界の希望だぞ~??」
勇者パーティは全員ニヤニヤしているが、目は笑っていないから、シモンは答えを間違えれば死ぬと悟った。
「は、はい。差しあげます。ただ、弾はあとちょっとしかないので、それほど使えないと思うのですが……」
「まぁあるだけ出せよ」
シモンは収納バッグを引っくり返して、勇者パーティに見えないように手の平から弾丸を合計30発出して落とした。
そしてそれを拾い集めると、一緒に落とした布の上に乗せてユウキに渡す。
「2種類の弾か……銃は? まだあるだろ?」
シモンの腰には空のホルスターがふたつあるのだから、ユウキに疑われてしまった。
「プーシー1号がもう1個あったのですが、つい最近モンスターの攻撃を受けて壊れてしまいまして……」
「プッ……プーシー死んだか~。プププ」
しかし、名前がツボに入っているから、ギリ助かった。
「リボルバーとライフルね。ライフルは単発か~……この世界では頑張ったほうか」
勇者パーティはワイワイと銃を持って調べていたが、ユウキだけシモンに向き直った。
「さっきモンスターが落としたと言ってただろ? どこにいるんだ??」
「あ、はい。四層で……」
シモンはペラペラと嘘を重ねて、迷宮の地図も手渡す。
「サイストって町から、南に行った迷宮です。最下層に隠し階段があって、さらに隠し階段を下ると、めちゃくちゃ素早い弾丸マウスってのが群れでいるんです。その中に、色が違う弾丸マウスがたまにいるんで、そいつを倒したらプーシー1号とかを落としたんです。めったに出ませんでしたけど……」
「なるほど……メタ〇ラみたいなもんか……群れは範囲魔法で倒したら楽だな」
「ですね。あ、炎系は避けたほうが……仲間が使って酷い目にあいましたんで」
「プッ……目に浮かぶ。んなミスするかよ」
ユウキは再び鼻で笑うと、仲間と相談してからシモンを見た。
「さっさと次の階層に行こうと思っていたけど、上に戻るわ。いい物くれてありがとよ。んじゃな~……テレポート!」
それだけ言い残した勇者パーティは跡形もなく消えたので、シモンとプックは呆気に取られてその場に立ち尽くすのであった……
「はぁ~……なんとか生き延びた……」
しばし立ち尽くしていたシモンであったが、30秒ほどしたらドサッと腰を落とした。同じようにプックもその場に座ったので、シモンは申し訳なさそうに謝る。
「1号と2号を渡して悪かったな」
「いや……たぶん渡さなかったら、あーしら殺されてたと思うし……」
「だよな~……はぁ~」
勇者パーティの邪悪さは肌身に感じていたから、プックの理解は早い。
「でも、あんなヤツらに渡ったのは、心苦しいでんな。人間を狩るとか言ってたやろ?」
「ホントに……ま、あの調子なら遊びで使ってすぐに使い果たすんじゃないか?」
「それや! よう嘘で騙し通したな~。もしもシモンはんが弾を作れると知ったら、死ぬまで飼われるで」
「それはプックも一緒だ。死ぬまで銃ってのを作らされて、人間に使われていたぞ」
「「こわっ……」」
2人の武器製作は、あくまでもモンスター用。もっというと、この世界のため。それが邪悪な勇者パーティの手に渡っていた姿を想像して、同時に寒気に襲われるシモンとプックであった。




