025 ピクニックの終わり
シモンの登場で、13人の盗賊はあっという間に制圧。ひとまずシモンは盗賊の持ち物を漁り、ロープを発見したら全員の手首を縛る。
首にも縄を掛け、1人でも動けば締まるようにしてから移動させたら、端っこは木に結び付けた。
「怪我は~……回復薬掛けとくか」
盗賊の四肢からけっこう血が出てるので、シモンは盗賊の持っていた回復薬を掛けて回り止血する。盗賊は鉄が骨に食い込んでるから取ってから治してくれと懇願したが、やり方がわからないって理由でシモンは断っていた。
そうしてシモンが一息ついたところで、プックが疑問を口にする。
「なんでこないな面倒な倒し方したん? シモンはんなら頭に一発やったやろ??」
「そっちのほうが楽だったんだけどな~……2人とも死体を見たくないと思って」
「そういうことやったんや……助けてくれてあんがとな」
「いいって。遅くなった俺も悪いし。それよりこれからどうすっかな~……メシだけ食って帰るか??」
ピクニックはまだ途中。プックたちはもう帰る気持ちでいたが、安心したらお腹が鳴ったので、途中だった料理に戻る。
シモンもホーンラビットを取りに戻り、綺麗に捌いたらあとのことはイレーナに任せると、ダッシュで街道まで出た。
運良くすぐに、迷宮街に向かう商人の荷馬車が通ったので、事情を説明したらふたつ返事で騎士団を呼んでくれるとのこと。
シモンはお金でも取られるかと思っていたが、盗賊は全ての商人の敵だから、断る理由はなかったみたいだ。
それが終わり、急いでベースキャンプに戻ったらプックが怒鳴っていたので事情を聞いたところ、「逃がしてくれ」とか「メシを食わせろ」とうるさかったらしい。
「別に生かしておく必要ないんだぞ? 彼女たちの目の届かないところでなら、何人でも殺せるし……俺、盗賊なら何十人も殺してるから罪悪感湧かないんだ。死にたいヤツは声を出してくれ」
「「「「「……」」」」」
シモンが冷たい声で脅すだけで、盗賊は口を閉じるしかない。13人をあっという間に制圧できる腕前なのだから、事実だと受け取ったのだろう。
盗賊が黙った頃にイレーナが料理ができたと呼びに来たので、ここからは楽しいピクニック。怖かっただろうとシモンは面白い話を頑張ってしていたが、プックは聞きたいことがあるらしい。
「蒼き群雄の話はもうええねん。さっきのアレって本当でっか?」
「アレって??」
「盗賊を何十人も殺してるってヤツでんがな」
「あぁ~……」
シモンはイレーナをチラッと見てから、答えを告げる。
「たぶん一桁台だと思う。蒼き群雄にいた時は、極力殺さないって方針だったし。麻痺する矢を使ったりな。ただ、盗賊団壊滅って依頼を受けた時は、さすがにな。人質を助けるためには一撃で殺すしかなかったんだ」
「そりゃ冒険者ならそんな仕事も回って来ますわな……罪悪感がないってのは?」
「それはまったくない。酷い現場も見てるし。なんなら、遠くから射貫いていたから、殺したって実感も低いな」
「そんなもんでっか? 人殺しなんて、もっと苦しむもんやと思ってましたわ」
「いや、一回目は苦しんだぞ? でも、アイツらいくらでも湧いて出て来るじゃん??」
「プッ。シモンはんにとっては、モンスターと変わらんっちゅうことでっか。あはははは」
ちょっと暗い話でも、最後にプックが笑ったから笑い話に。イレーナも特に怖がりもせず、蒼き群雄時代のシモンの話を楽しく聞くのであった……
ピクニックランチは新鮮なお肉と料理と、シモンの冒険譚で楽しく進む。しかし後半になった頃に馬の蹄の音が複数聞こえて来た。プックたちは不安そうな顔をしたが、シモンから「騎士団が来た」と聞いて緊張を解く。
ただし、シモンは警戒を解かない。銃を確認して立った体勢で騎士団の到着を待つ。すると、如何にも騎士って姿のドワーフが見えたので、シモンも警戒は一段下げた。
「お前が盗賊を捕らえたちゅうシモンか?」
「そうだ。こんなに早く来てくれるとは思っていなかったよ」
「13人やったら、そこそこの規模やさかいな。アジトも持ってるやろうから、貯め込んでるかもわかれへん。それも生きた人間を……」
「そりゃ急いだほうがいい。あいつら、奴隷売買に関わっているみたいなことを言ってたって。こっちだ」
「助かる」
騎士団のリーダーは厳つい顔のわりにはいい人そうなので、シモンは話はそこそこで盗賊団を繋いでいる場所に案内する。
ただし、そこはあり得ない風景。全員生きたままお縄になっていたから、リーダーも呆気に取られた。
「1人も殺してへんのか?」
「ああ。アイツが頭とか呼ばれてたぞ」
「どうやったらこんなんができるんや……」
「俺、あまり知られてないけど、そこそこの冒険者なんだよ」
シモンが冒険者カードを見せたら、リーダーも納得。Bランクと書かれていたから嘘はないと信用できるみたいだ。
「13人を生け捕りとなると、かなりの報奨金が出るで」
「あ、そっか。こいつら奴隷鉱山送りになるのか……でもな~」
「なんか問題があるんか?」
「変な戦い方をしてしまって……この鉄の礫が、両肘と両膝に埋まってるから、仕事ができないかも?」
シモンは取って置いた弾丸の先端を見せて、ついでに小声で助言する。
「たぶん、切って広げたら取り除けると思う。拷問ついでにどうだ?」
「フッ……洗い浚い喋って働けるようになるとは、二度うまいな。その方向で行こか」
「盗賊は二度酷い目にあうけど……ざまぁねぇな」
「まったくや。わははは」
リーダーも盗賊には慈悲を掛ける気はないみたい。あとのことは騎士団に任せて、シモンはプックたちの下へ戻るのであった。
プックたちの下へ戻ったシモンは、これからどうするかと聞いたら、ピクニックは続行。騎士団が近くにいるし、これから続々やって来るから、この場所はどこよりも安全な場所になったからだ。
そうしてシモンも寝転んでゆっくりしていたら、イレーナが隣に座って微笑んだ。
「本当に凄い冒険者だったんだね。あんなにたくさんの盗賊をバッタバッタと倒すなんて」
「それは~……プックのおかげだな。この武器がなかったら、もっと時間が掛かっていたと思う」
「フフフ。もっと自慢したらいいのに」
イレーナは実力だと褒めまくるから、シモンも少しは鼻が高くなる。
「そういえば蒼き群雄の話、聞いたことのない話ばっかりだったね。涙ぐまないのも珍しい……付き合っていた時も、そんな話を聞きたかったな~」
「アレ? 言ってなかったか??」
「だいたい、いい人だって褒めてばかりだったよ。他にも喋ってないことあるんじゃな~い? たとえば、好きな人がいたとか」
「い、いないし! みんなアールトに惚れ込んでいたから、俺の入る余地なかったし……」
「あはは。いたんだ~。妬けるな~」
「だからいないって~」
ピクニックの後半はのどかな時間が流れていたが、イレーナの勘繰りからプックも話に入って来たから、終始言い訳を続けるシモンであった……




