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002 契約解除


「な……なんで俺がクビなんだ……」


 迷宮ボスをこのメンバーで倒したのに、シモンだけが解雇を言い渡されたのだから、混乱していて大きな声での反論もままならない。

 そこに蒼き群雄のリーダー、アールトは冷静に理由を告げる。


「元々シモンさんは、臨時メンバーだったよね? 契約書にも、その旨は書かれている。少し長くなったけど、今日で契約解除ということになりました」


 そう。このパーティは、シモンは二層からの途中参加。シモン以外は一層からの幼馴染みで、シモンの弓の技術と冒険者としての経験に惚れ込んでスカウトしたのだ。


「契約書? ま、待ってくれ。確かに最初に書いたけど、それはもう2年も前の話だろ? 俺は、お前たちの仲間になれたと思っていたのに……嘘だろ……」


 こんな裏切りは信じられないシモン。共に苦難を乗り越え、同じ釜のメシを食って来たのだから、そんな契約書なんかよりも信頼されていると思っていたのだ。


「契約は契約だよ。ただ、2年も判断を先延ばしにしたのは、僕たちにも非がある。だから、退職金は期間に見合った額を用意した。お受け取りください」


 アールトがズイッと出した革袋はお金でパンパン。大きさから察するに、2、3年は豪遊できる額。一般人なら10年は余裕で暮らせる額だから、退職金としては破格の額だ。

 しかし、そんな大金を用意されていたのならば、シモンの顔が引き()る。この話は本気なのだと……


「ふざけるなよ……俺が何かしたのかよ! 歳は離れてるけど、ずっと仲間だと思ってたんだぞ! 仲間だと思っていたのは俺だけかよ! なあ!? なんとか言えよ!!」


 なので、ついに声を大にして取り乱した。するとアールトはなんとも言えない顔になり、その顔に気付いたカティンカが前に出る。


「何かした? あたし、ずっと言いたいことがあったんだけどさ~……」

「な、なんだ??」

「野営の時、いつも真っ先に見張りに手を上げるじゃん? あたしたちが体を拭いてるの、いつも覗いてたんでしょ??」

「え……いや、その……」

「何その反応!? やっぱり覗いていたのね~~~!!」


 そりゃ、こんな変質者ならクビになっても仕方ないよ。


「待て待て。葛藤はあっただけで覗いたことないって!!」

「信じられませ~ん。どうせあたしの体見てたんでしょ」

「見るか! ちんちくりんなんて、なんで見なくちゃいけないんだよ!!」

「はあ!? 誰がちんちくりんなのよ!!」

「ちょっ……2人とも落ち着いて」


 シモンとカティンカの口論は喧嘩に発展してしまったので、セシルが間に入った。


「シモンさん……いつも私の胸を見てたよね?」

「いや、その……男の性というか……」

「やっぱり。ウフフ……」


 そりゃ巨乳を前にしたら、男だったら目が行くってもの。それでセシルが嬉しそうにしたから、今度はダフネがセシルを体で隠した。


「休みの時、娼館に行ってた。アールトも誘われたって……不潔」

「「そうなの!?」」


 ダフネの発言にセシルとカティンカが反応したが、秘密がバレてしまったシモンはそのことに気付かないで逆ギレする。


「な、何が悪いんだよ? 俺の金で空いた時間に何をしようと……てか、お前たちも悪いんだぞ? いっつもアールトとイチャイチャしやがって……んなの、男なら耐えられるワケないだろ!!」


 何やら核心を突いてしまったのか、アールト以外の女性陣は目を伏せた。


「まぁ……そういうところだよ。僕たちのパーティには、不純異性交遊をする人はいらないんだ」

「はあ? お前が言うか? ……わかった! ハーレムパーティがいいから俺が邪魔なんだろ? それならそう言えよ!!」

「ちがっ……」


 シモンは決め付けてテーブルを叩いて立ち上がるが、それでもこのパーティに残りたいのか(すが)り付く。


「な? 俺はアールトのこと邪魔しないって。我慢できなかったら娼館で発散するし……てか、俺がいなくなると困るのお前たちだろ? シモンボンバーが使えなくなるんだぞ? 今回のことは聞かなかったことにするから……な??」


 その訴えは、誰にも通じない。


「だから、そんな名前じゃないって言ってるでしょ。センスがダサイのよ」

「じゃあカティンカが決めてくれ。今度からそう呼ぶ」

「今度なんてない。もう新メンバー決まってるし……セシル。連れて来て」

「……は??」


 ここで新メンバー発表。もうすでに決まっていたとは寝耳に水で、シモンも固まった。


「やっぱりハーレムパーティ目指してるじゃねぇか!!」


 でも、ケモミミで尻尾のある小柄な女性が入って来たので、シモンは元気復活だ。


「アールト……見損なったぞ……幼馴染だけじゃなく、ケモミミまでハーレムに入れるなんて……」


 さらに睨み殺さんばかりにシモンが睨むと、アールトも覚悟を決めた。


「そうだよ。シモンさんが邪魔なんだ。このお金を持って出て行ってくれ」


 ハッキリとクビを告げられたシモンがパーティメンバーの顔を見回すと、全員同じ目をしていた。


「ふっざけやがって……んな最低なリーダーに従えるか! 出てってやるよ!!」


 その目に負けたシモンは、怒りに任せて部屋から出て行くのであった。



「本当にこんな別れ方でよかったのですか?」


 部屋に静寂が訪れていたが、新メンバーのゾーイがその静寂を打ち破った。その質問にアールトが応えようとした矢先、ドアがゆっくりと開いたので、全員そちらに目を持って行く。


「別に戻ろうと思ってないからな! 忘れ物があっただけだ!!」


 シモンだ。お金の入った革袋を忘れたから戻って来たのだ。あわよくば、止めてもらえたらラッキーと思いつつ。


「これだけもらって行くからな! もう止めても戻ってやらないからな!!」

「いや、全部持って行ってくれていいだけど?」

「そんな(ほどこ)し受け取れるか! 追って来ても無駄だからな!!」


 こうしてシモンはお金を一握りだけ握って、未練タラタラで部屋から出て行くのであった。


「プッ……」

「「「フフフフ……」」」

「「「「「あははははは」」」」」


 それを見たアールトたちは、誰かが吹き出したあとは笑いながら涙を拭うのであった……


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