018 2人の求める物
「いった……てか、どこ飛んだん??」
プーシー2号の試射は、プックがどうしても撃つと聞かなかったのでやらせたら、持ち方が甘いせいで反動のダメージを負う事態に。
「的を大きく外して、右斜め下の地面に突き刺さった」
「嘘やろ~。シモンはんがゴチャゴチャ言うから外したやないでっか~」
「いや、俺が言わなかったら空に消えてたぞ? それだけ固定されてるのに、なんで横に外すのかもわからねえ……」
「いや、その……反動で??」
プックは射撃しやすいように道具を使ってまで狙ったのに、このていたらくでは反論もままならないみたいだ。
なので、ライフル銃をシモンに譲って話を逸らす。そこからはシモンの独壇場。弾の入れ替えを少し手間取っただけで、的のド真ん中を射抜き続ける。三脚を外して撃っても、全て命中だ。
「ほんま、凄い腕前でんな~」
「まぁこの距離だからな。それに、この持ち方はブレが少ないから撃ちやすいんだ」
「ほう……プーシー2号の形で、連射もいけたらかなり強い武器になりそうでんな」
「だな。でも、狭いところでは、1号のほうが扱いやすいな」
「適材適所ってことでっか」
感想を喋っていたら、シモンもウズウズ。ライフル銃を撃ちたくてなったので、少し出遅れたけど迷宮に向かうのであった。
シモンのいまの見た目は、動きやすい軽装備。腰には拳銃を左右に差し、目立たないように腰布で隠している。ライフル銃は収納バッグに入れて、肩には弓を担ぐ。街中はこれで移動して、新しい武器は隠しているのだ。
迷宮に入って人がバラけたら、腰布だけ外して早足で奥へ奥へ。周りに人がいないのを確認してから、拳銃を使ってモンスターを倒す。
そうして地下2階の狩り場に着いたシモンは、弓を仕舞ってライフル銃を取り出した。プックに習った通り、ライフルの先に三脚を取り付けたら準備完了。
狙い澄まして、クイーンアントの頭を撃ち抜いた。
「おお~。やっぱり撃ちやすい。もっと離れても余裕で当てられそうだ」
ライフル銃、気に入った模様。シモンは撃つ度にニヤニヤと感想を述べ、お昼を過ぎた頃からは、わざと三脚を使わずに手に持って撃ちまくる。
さらにはできるだけ遠くから撃ちたいのか、狙撃ポイントを移動したり、クイーンアントが遠くに移動した頃に狙撃。おそらく一番遠い位置は100メートル以上だ。
散々楽しんでいたら、あっという間に帰る時間を過ぎていたので慌てて帰宅。夕食も適当に買い込んだら、走って借家に向かった。
帰ったのは、太陽が落ちてから。しかし、家の中にはプックの姿がないし、鍛冶場からカンカンと金属を叩く音が聞こえている。
シモンは「ご近所さんに怒られる」と思いながら、めったに入らない鍛冶場のドアを開いた。
「プック~? ……プック!!」
「わっ!? シモンはん??」
何度も声を掛けたのに、全然振り返らないのでシモンが近付いて大声を出すと、やっとプックも気付いた。
「もうやめないと、ご近所さんから苦情が来るぞ」
「もうそんな時間でっか。集中してたから、気付きませんでしたわ~」
「メシ買って来たから、片付けしたら食えよ」
「ありがとうございます~」
とりあえずご近所さんの苦情は止められたので、シモンは自室にて装備の解除。手や顔を洗って食堂に入り、ランタンに火を入れて1人でムシャムシャと食べていたら、後半ぐらいにプックがやって来た。
「もしかしてやけど、シモンはんも帰るの遅くなりはったん?」
「ああ。2号が良すぎてな」
「それは作り手冥利に尽きますわ~」
「そっちも閃いた感じか?」
「せやねん。プーシー2号を作ってる時に閃いてたから、早く作りたくてな~」
お互い喋りたいことが多々あるが、先に食べてしまう。プックはかなり遅れていたから、シモンはシャワーで汗と汚れを落として戻って来たら各種報告だ。
「たぶんだけど、2号はかなりの距離まで攻撃が届く。予想だと、クイーンアントまでの距離の10倍だ」
「そないにでっか!?」
プックの驚きは、50メートルの10倍。シモンの10倍はその倍を言っていたのだが、今日の検証を少し端折ったから伝わっていないけど、プックの驚きが大きかったから伝わっていると勘違いしてしまった。
「てか、そないに離れたら的が見えないんちゃいます?」
「だよな~。でも、それだけ離れて撃てたら、怖い物ナシだけどな~」
「ホンマやな。どこから攻撃されてるかもわからんな……あ、そや。望遠鏡付けたらどないやろ?」
「それだ! 片目だけでいいから付けてくれ」
「オッケー。でも、いまやってることが片付いてからでもええか?」
シモンの狩り場は、いまのところそこまでの飛距離は必要がないので、後回しは受け入れる。
「んじゃ、次はあーしの報告やな。実は連射に目処が立ちましてん。たぶんやけど、プーシー2号にも当て嵌まりますで」
「へ~。それは楽しみだな~」
「とりあえず小型のほうで実験してみるけど、それでよろしいでっか?」
「ああ。こっちはいまのところ間に合ってるからな」
ひとまずどんな形になるかと聞いていたら、シモンは報告忘れを思い出した。
「そうそう。久し振りにスキルレベルが上がったんだった」
「あぁ~……止まってたとか言ってたヤツやな」
「それだ。ウィンチェスター弾を使ってモンスターを倒すことが条件だったみたいだ」
「パラベラム弾と少し条件が違ったんやな。新しい弾、出たんか?」
「いや……増えただけ」
「そんなもんでっか~……」
「ガッカリするなよ。ウィンチェスター弾は数が少ないんだぞ」
プックとしては、新しい弾丸があればインスピレーションが湧くのにと言いたいみたい。シモン的には、在庫の少ないウィンチェスター弾を増やせるからけっこう嬉しいので、プックがガッカリするのは認められないのであった。




