017 プーシー2号
勇者パーティの情報が五層に届いた翌日は、迷宮街の住人は仲良くお寝坊。浮かれて飲み過ぎたらしい。ドワーフはまだ飲んでる。
シモンも飲み過ぎたので、今日もお休み。二日酔いで頭が痛いらしく、プックの鍛冶仕事も響くとか言って昼からどこかに出掛けて行った。
帰ったのは夕刻。ちょっと豪華な夕食とお酒を買い込んで来ていたから、やはり勇者パーティ召喚はシモンも嬉しいのだろう。
「なあ? 石鹸の匂いがプンプンするけど、どこ行ってましたん??」
「公衆浴場だ。たまには足を伸ばしてリラックスしたくてな~」
「ふ~ん……てっきり娼館行って来たんやと思ったわ」
「そ、そんなワケないだろ! 誰がそんな破廉恥な所に行くか!?」
いや、体がスッキリしたことと、男性特有の罪悪感があったみたいだね。
「あのな。あーし、お兄さんの彼女ちゃうで? なに必死にごまかしてますん。そんなバレバレのごまかし方するから、元カノさんにフラれたんちゃいまっか?」
「え? ……そうなのか??」
「いまでも仲良しなんやから、本人に聞いたらよろしいでっしゃろ」
「聞け……ない。そんなこと聞いたら、娼館行ったのバレるだろ~」
「もうバレバレや言うとるやろ」
そりゃ元カノだろうと女性にそんなことは聞き辛い。シモンはプックに探らせようとも考えたけど、直球で聞きそうだと考え直して忘れるという選択を取るのであった。
その翌日は、シモンは拳銃を一丁だけ持ってお仕事。それでもここ最近の稼ぎをキープして、ホクホク顔で帰宅した。
「ホイッ。修理終わったで~」
「サンキュー」
夕食の席では拳銃が戻って来たから、シモンは礼を言ってよく見てみる。
「そういえば、新しいヤツは進んでるのか?」
「ギクッ!?」
「お前もわかりやすいヤツだな」
どうやら新作開発は上手く行っていなかったから、プックもいつ聞かれるかと構えていたとのこと。ただし、このオーバーリアクションは演技だってさ。
「んで……何が問題なんだ?」
「連射使用がな~……あと、弾丸をどうやって多く組み込めるかもアイデア待ちやねん」
「それって、まったく進んでないってことだよな?」
「そうとも言います……てへ」
プックのてへぺろには少しイラッとしたが、素直に報告していることは評価するシモン。
「だったらウィンチェスター弾のほうから先に作ってくれ。他のことをやってたら、案外アイデア出て来るかもよ?」
「ああ~……そうでんな。煮詰まってる状態でいるよりは、違うこと考えたほうがよさそうや。さすがお兄さ~ん。年の功でんな」
「年の功って……ドワーフって数百年生きるんだろ? そういえばお前っていくつなの?」
「嫌やな~。女に年齢のこと聞くのは御法度でっせ」
「や、やっぱり……今まで失礼なこと言って申し訳ありませんでした」
「その顔と敬語やめい!!」
シモンの顔には「ババア」とハッキリ書いてあるので、プックは怒り心頭。その怒りに任せて実年齢を告げた。
「25歳だと、俺より年上なんだが? 俺、今年24」
「そうなん? もっと年上やと思ってた。ま、1歳差なんて誤差やろ。今まで通りで行こうや」
「年齢に誤差なんてあるのか??」
カルチャーショック。ドワーフは長寿だから、一桁は誤差と感じているんだとか。それでも年上女性にお兄さんと呼ばれるのは引っ掛かるので、「シモンはん」という呼び方に落ち着くのであった。
「ほんで……なんか要望ありまっか?」
年齢の件で脱線していたが、いまはウィンチェスター弾を使える銃の話し合い中だ。
「そうだな……威力と距離も伸びてるんなら、遠くを狙いやすい形がいいかな?」
「遠く……やな。連射はいらんの?」
「欲しいけど、難しいんだろ? だったら一発ずつでも構わない。遠くから狙うんなら弾を込める余裕があるし。あ、弾込めは楽にできたら申し分ないかな?」
「うん……せやな。その点を踏まえて考えてみるわ~」
ウィンチェスター弾用の銃、製作決定。残りの食事を掻き込んだら、自分の部屋に引っ込む2人であった。
それから1週間……
「ジャジャーン! プーシー2号のお目見えや!!」
プックから朝から発表があると聞いていたのでシモンが庭に出ると、台の上に掛かってあった布が大々的に取り払われた。
シモンは「そんなに見せたかったんなら昨日の夜に発表したらよかったのに……」と、いきなりのことだったので呆れてる。
「なんか反応してえな~。なあなあ~?」
「あ、ああ……長いな」
「見たまんま!?」
「えっと……めっちゃ長いでんな」
「ドワーフ弁マネすんな!?」
そのテンションについて行けないシモン。何を言ってもツッコまれるだけなので、説明を求めた。
「長い理由は、狙いやすくするためや。右手は引き金、左手は腹辺りを持ってな。そうそう。後部を肩に押し当てんねん。どうや?」
プックの新作は、とある世界ではライフル銃と呼ばれている物。持ち方を聞いて構えたシモンはしっくりした顔だ。
「おお! なんか固定されてる感じがする!」
「せやろ? 今までフラフラしてたのがマシになったはずや。あと、反動は肩で受けることになるから、その点だけは気を付けてな」
「なるほど……撃ってみる。弾は入ってるのか?」
「入ってるで~」
とりあえず試射。シモンたちは庭の端に作った射撃場に移動して、的に目掛けて撃ってみる。
「おお~。前のと反動が全然違う。ちょっと痛かった」
「やっぱりか。その形にしてよかったわ~」
「で……このあと、どうしたらいいんだ?」
「そこにレバーあるやろ? あ、1回目は見せるわ」
プックはライフル銃を受け取ると、レバーを引っ張る。それでガチャンと薬莢が横に飛び出したので、シモンは「カッケー」と目を輝かせてるよ。
弾の込め方も見せたプックは自分で二射目を撃とうとしたので、シモンはあわあわ。絶対に他の所に当てて被害が出ると思ってるからだ。
「失礼やな~。そのために固定台も作ってんで」
「固定台??」
プックは近くにあった台を持って来て、ライフル銃の先に鉄製の三脚のような物をボルトを指で回して取り付けた。
「ほら? こうやったらより安定するやろ?」
「うん。狙いやすそう……」
その姿にシモンは感心しながら、プックが撃つのを見守るのであっ……
「もっと下だ。その角度だと壁より上に飛ぶぞ……左行き過ぎだって……ああ。また上向いた」
「もう! うっさいねん!!」
いや、口出ししまくってプックを怒らせるのであったとさ。




