015 シモンの金銭感覚
プックに追加資金を求められた次の日、シモンは手持ちがないからと一緒に家を出た。最初にやって来たのは、冒険者ギルドだ。
冒険者ギルドには銀行のような部門もあるが、その日暮らしの冒険者が多いので、使っている人はあまり多くない。なのでシモンはコソコソと部屋に入って、受付嬢にもヒソヒソと欲しい金額を告げる。
「へ~。こんな部屋もあったんや」
「入って来るなよ」
「ええやないでっか。いくら貯め込んでるんでっか~?」
「言うか。外で待ってろ」
「Bランクパーティの退職金って、やっぱり多かったんでっか?」
プックは関西弁だから、お金に意地汚い関西人に間違われそうだけど、れっきとしたドワーフ。プックが意地汚いだけ……なのかもしれない。
「蒼き群雄は少なかった……」
「はい? いきなりクビにされたんでっしゃろ? それならケツの毛まで毟り取ってやらな、納得いかんでっしゃろ~」
「たぶん全財産出されたけど断ったんだ。アイツらいいヤツだし……」
「もったいない……あーしなら、有り難くちょうだいしてるで」
「いや、アイツら、装備の整備も新調も後回しにして全財産出してたんだぞ? そんなの受け取れるかよ」
「お兄さんもいい人すぎやしまへんか??」
プックにはどっちもどっちに見えて仕方がないらしい。
「俺はそんなヤツじゃない。クビになる前の1ヶ月、休みって聞いてたから散財してしまってたから、怒って出て行ったあとにそのことを思い出して金貨一握り取りに戻ったし……」
「締まらん……それは締まらんわ~」
「仕方ないだろ。仲間がいない上に文無しなんて、暮らして行けねぇだろ」
「はいはい。お姉さんこっち見てまんで~?」
ちょっといい話だと思っていたプック。最後がシモンだけカッコ悪かったので、いい話が台無し。面白い話としてこの話を誰かにしてやろうと思うのであったとさ。
受付嬢から大金を受け取ったシモンは、素早く収納バッグに入れて辺りをキョロキョロ。プックしかいないので「何やってまんのん?」と呆れられている。
銀行の個室を出たあとは、コソコソ。早足で外に出たからプックを置き去りだ。プックが走って追いかけると、シモンはさらに速くなったので大声で呼び止めていた。プックが泥棒だと思っていたらしい……
プックは怒っていたけど、その足で必要素材のお買い物。ここはシモンのわからない領域なので、プックに任せるしかない。お財布になって後ろを歩く。
収納バッグを買っていたので、全てその中に。さっそく出番が来たと、この時だけはシモンも誇らしい顔をしていた。お金払う時は渋い顔だったよ。
買い物が終わったら、その辺の屋台でランチ。ここもシモンが持っていたので、プックはなんとも言えない顔だ。
「気前がええんか悪いんか、どっちかにしてくれへん?」
どうやらシモンの金銭感覚がよくわからないらしい。
「俺もこんなに一気に使ったことがないから、どうしたらいいかわからないんだ……1ヶ月も経ってないのに貯金がドンドン減って行く恐怖、お前にわかるか?」
「わかりまへん。お兄さんはいま、初体験ばかりしてるんやな~。破産だけはやめてな? あーしのせいにされたくありまへんし」
「まだ大丈夫……ちなみにだけど、借家の契約1ヶ月にしたけど、作りたい物は全部作れそう??」
現在の製作した物は、回転式拳銃が二丁。作ろうとしている物は、拳銃の改良版が二丁と、連射ができる新作。さらにはウィンチェスター弾が使える新作もあるから、時間はどう考えても足りない。
「間違いなく無理やな」
「あと1週間しかないもんな~……延長しに行くか」
「元気出しなはれ。投資した分、その何倍も帰って来るんやから。な?」
借家は延長決定。プックに励まされるなか、トボトボ歩くシモンであった。
それから3日、シモンは投資した分を取り戻そうと自粛はやめて、二丁拳銃を使って仕事に精を出していた。
いつもより多くクイーンアントを狩り、行きも帰りも出会ったモンスターはヘッドショット。いつもは面倒だからと走って逃げていた分も加算されているから、普段の3倍も稼ぎに稼いでいた。
4日目も張り切ってクイーンアントを狩り、帰りもモンスターを倒している時に事件が起こる。
そこはこう見えてベテランのシモン。焦らず対応して、無事迷宮から脱出する。そうして冒険者ギルドに顔を出し、夕食はちょっと奮発してお酒も多く買ってから借家に帰った。
「す、すまん……壊した……」
事件とは、一丁の拳銃が壊れたことだ。
「壊した? ……いや、これ、お兄さん大丈夫やったん? プーシー1号の後部が破裂しとるやん!?」
それは暴発。モンスターと戦っている時に、古いほうの拳銃が暴発したから、シモンはもう一丁を左手で操ってなんとか事無きを得たのだ。
「ちょっと怪我して驚いた……」
「あかんやん!? 大丈夫やったんか? 右手か?」
「回復薬あったから、もう大丈夫」
「そんなテンション低くすんなや。お兄さんのせいちゃうで? あーしのせいかもしれへんねんから。それに新しい物なんやから、事故もあるって~」
「事故??」
どうやらシモン、拳銃が壊れたのは自分のせいだと思っていたみたい。事故と聞いて、プックの機嫌を取ろうと夕食を豪華にしたことをちょっと後悔したシモンであった。




