014 ウィンチェスター弾の威力
朝から迷宮にやって来たシモンは、昨日はかなり稼げたから今日はほどほどに。魔石はいつもの量の1,5倍に留めて狩りは切り上げる。冒険者ギルドでちょっと勘繰られたから、その対策でもあるらしい。
売却も済めば買い食いと買い出し。プックの分の夕食と酒も適当に買い、「やっぱり収納バッグ買ったほうが楽だな」と思いながら帰って行った。
そうしていつもより早く帰ったら、荷物をキッチンに置いて鍛冶場を覗いたけど、そこにはプックはおらず。
庭に出たらプックが実験中だったので、後ろから近付いて驚かせないように声を掛ける。
「お疲れさん。なんか進展あったか?」
「あ、おかえりなさい。まぁザックリとやけどな」
午前中はもう一丁の拳銃作りをしていたプックは、休憩中にウィンチェスター弾を触っていたら、こっちを早く調べたくなったんだとか。
なので分解して構造を確認したら、庭での発砲実験に変えたらしい。
「開けたら黒い粉が倍ぐらい出て来たから、威力か距離、またはどっちも強力になってると思うわ」
「へ~。大きいだけあって、強くなってるんだ」
「あと、この形も意味があるみたいやで。分厚い的が貫通してもうた。ちょうど鉄板で試してみるところやったから見たってや。いくで~?」
「おお~」
ウィンチェスター弾とは、とある世界でフルメタルジャケット弾とも呼ばれる弾丸。見た目は長く尖っていることもあり、貫通力の高い弾丸だ。
プックが固定したウィンチェスター弾の後部を叩くと、一般的な鎧に使われる鉄の厚みを貫通しのだからシモンも拍手。プックは比較対象がほしいのか、シモンに拳銃を持って来させて鉄板に向けて撃たせる。
「うおっ!? あっぶね……」
すると跳弾がシモンの足元に来たから飛び跳ねた。
「アハハ。そないなこともあるねんな。あーしもしらんかってんから、堪忍な~」
「俺も気を付けよ……これがなかったら、鎧着たモンスターに撃ってた……」
これは危険な行為なので、プックに笑われたことを気にするより、跳弾の危険性に震えるシモン。そんなシモンを他所に、プックは鉄板を確認する。
「パラベラム弾ってのは、ちょっとヘコンでるぐらいや。やっぱりウィンチェスター弾ってのと、用途が違うんやろうな」
「なんで違うんだ? ウィンチェスター弾のほうが強いなら、そっちだけでいい気もするのに」
「さあな~……単純に危ないとか? 貫通したら後ろの人に当たるかもしれへんやん」
「あ~……挟み撃ちにした時は確かに危ないか」
パラベラム弾とは、とある世界でソフトポイント弾とも呼ばれている弾丸。先端が丸みを帯びているから、貫通力が低い。とある世界では警察なんかが採用している、殺傷力が低い弾丸でもある。
「てか、それだったら試し撃ちしたヤツ、後ろはどうなってんだ??」
「……ヤッベ。てへ」
「おお~い! あの壁貫通してないだろうな!?」
鉄を貫通したのだから、後ろの壁も心配。シモンは焦りながら走り、壁の上部からそうっと顔を出した。
そこは広めの通路。倒れている人はいなかったからシモンは胸を撫で下ろし、壁を確認するとボロボロ。今まで撃った弾丸もめり込んでいたり壁を削っていたからだ。
綺麗な穴が空いてる場所があったから、シモンはそこを覗いていたらプックがやって来た。
「気付かんかったけど、壁も傷だらけでんな」
「ああ。これって返す時、別料金とか取られるのかな?」
「これぐらいならあーしが直したる。でも、実験するには、それ用の場所が必要やな~……うわっ。もうちょっとで飛び出てたな」
シモンはケチ臭いことを言っていたけど、プックはそれにはツッコまずに穴を確認したら光が漏れている場所があったので、シモンと同じように胸を撫で下ろしていた。
とりあえずシモンが壁を飛び越えて、壁から頭だけ飛び出した弾丸を回収。それをプックに見せたら、他の弾丸も気になったのか落ちてる物を2人で拾い集めた。
「こっちがウィンチェスター弾で、こっちがパラベラム弾やな。見てわかる違いやろ?」
「ああ。パラベラム弾は潰れてる。違いはわかるけど、意味がわからない」
「貫通しないように、潰れやすく作ってるってことやと思う。こんなん人が喰らったら一大事やで。弾が体に残るんやからな」
「マジか……てことは、貫通したほうが魔法で治しやすいってことか……」
「誰なんやろうな~。こんな悪趣味なこと考えた人は」
いまさらながら、弾丸の危険性を初めて実感した2人であった……
翌日は、シモンは自主的にお休み。射撃場を安く作ろうと思って、土木工事に精を出している。
土嚢でも積んだら貫通しないとプックが言っていたので、庭の一角を真っ直ぐ削って、その土を壁際に積むだけ。そこだけ一直線に少しだけ陥没しているのは、工期短縮なんだとか。
それでも丸一日掛かったから、プックは「人を雇ったほうが安かったのでは?」と冷たいツッコミ。シモンもその何倍も稼いでいることを思い出して、ヤケ酒飲んでた。
その翌日は、迷宮で憂さ晴らし。クイーンアントを大量に殺し、他のモンスターも見付けたそばから撃ち殺してストレス発散。
この日は過去最高の額を稼げたので、気分が大きくなってしまったのか、今まで我慢していた腰に取り付けられるタイプの収納バックを購入。
樽がふたつも入る収納バッグを買ったから大出費だけど、ホクホク顔で帰宅したからプックに「娼館行って来たんやな」と勘違いされていた。
そしてシモンが買って来た夕食を並べていたら、プックは工房に戻って拳銃を持って来た。
「ほい。できてるで」
「おお~。早かったな~」
「2個目やからな。ついでに収納するベルトもこしらえてやったで。腰に付けてみい」
「こうか?」
シモンはベルトをしっかり固定して、二丁の拳銃を両側にある革の袋に収めた。
「おお~。取りやすい。このまま弓も撃てそう」
「弓なんてもういらんやろ」
「あ、そっか。10発は撃てるから持ち歩く必要ないのか。でもな~……これ、盗まれたら困るな。カモフラージュで持っていたほうがいいか……」
「確かにあーしでも使えるから危ないかもしれん。盗まれんようにせなな」
「おう。気を付ける」
シモンは拳銃を出しては仕舞うと繰り返していたら、プックに「安全装置外したまま仕舞うと足を撃ち抜くで」と脅されてビクビク。
それで怖くなったのか、安全装置を何回も確認してから革ベルトを外してゆっくりとソファーに置いた。
それから食事をしていたら、プックが言い出し辛そうに切り出す。
「ほんでなんやけど……」
「ん?」
「材料がな。もう尽きそうやねん。お金ちょ~うだい」
「えぇ~……今日、収納バッグ買ったばっかなのに~」
「あらら。言うタイミング間違ってもうた」
残念ながら、これはシモン専用の武器製造。材料ナシには作れないので、本日散財してしまったシモンは渋々支払いを約束するのであった。




