103 冒険者新聞
大激浪という災害が過ぎ去ると、疎開地から人々が戻って来た。その者は王都に残っていた戦士に涙ながらの抱擁をしている姿がそこかしこにある。
大激浪とはほとんどの場合、王都が壊滅する被害があるのだから、二度と会えないと思っていたからだ。
プーシーユーはというと、3日間、屋敷に籠もって食っちゃ寝。外に出るとダークエルフが英雄だと騒ぎ立てるからという理由もあるが、疲労感がなかなか抜けないらしい。
シモンは力量が合わない力を使ったから。プックは大激浪が始まる前に無茶な製造作業をしていたからだ。
ユーチェは~……慣れない旅で疲れたことにしておいてあげてください。
動き出したのは、プックから。シモンから発注された銃を早く完成させたい模様。そうなるとシモンたちも何かしていないと居心地が悪いのか、着替えて外に出た。
ひとまず冒険者ギルドに仕事がないかと探しに来たら、大激浪で死んだ魔獣の後片付けのみ。食料になる魔獣は余りに余っているからだ。
「どうすっかな~……肉体労働しかないぞ?」
「ウチも重たいの持つの嫌やな~」
シモンとユーチェのパラメーターは、力が低い。したがって魔獣を運ぶ仕事なんて苦手な分野なのだ。
しかしながら食って行くには仕事をしなくてはならない。プックにも新作を依頼したのだからなおさらだ。
「シモンさん。お待ちしておりました」
2人は掲示板を凝視して楽な依頼を探していたら、ギルド嬢が後ろから近付いて来た。
「ん? 待ってたって??」
「王様から大激浪の報酬が出ております。サインをいただきたかったのです」
「報酬……そんな約束してなかったんだけど……」
「何を言っているのですか。すっごく活躍したと聞いてますよ。ダークエルフの英雄に報酬が出るのは当たり前のことです」
「嫌な予感しかしないんだけど……」
シモンの予感、大正解。金融部門の小部屋に通されて書類を見たら、ゼロがいっぱいだ。
「こ、こんなに……貰い過ぎでは??」
「正当な対価です。ダークエルフが誰1人死ななかったのはシモンさんのおかげですからね。安いぐらいですよ」
「皆で頑張った結果だと思うんだけど……」
「ダークエルフの感謝の気持ちですからお収めください。まぁ銀行に振り込まれちゃっていますから、もう返せませんけどね」
「ハメられてる気がするんだけど……」
あまりにも額が多すぎて、シモンは恐縮しっぱなし。メインデルト王はそんなシモンの性格を把握していたから、銀行振込にしたのだ。
このままサインをしなくとも、勝手にサインするとまで脅されたからには結果は一緒。シモンは書類にサインして、当面の生活費だけ下ろして小部屋を出るのであった。
「あんなもん、女王様が使った額の半分にも満たないどすよ」
「シーッ! てか、そんなに貰ってたの!?」
まだ冒険者ギルド内なのにユーチェが変なことを言うのでシモンは口を塞ごうとしたけど、自分の声のほうがデカかったね。周りにも注目されちゃった。
そこでダークエルフ全員が冒険者新聞を片手に持っていることに気付いた。何か面白いことでも書かれているのかと思い、シモンは一部買って冒険者ギルドをあとにする。
それから中央に向かい、適当な喫茶店に入ると、頼んだ飲み物が揃ってから新聞を広げた。
「うわっ。ヤバイことになってる」
「ヤバイどすか? 全然ヤバないやないどすか。プーシーユー大活躍って凄いことやないどすか。これでウチも、故郷に頑張っていることが伝わります~。パパたち、どんな顔してるんやろか~」
ユーチェはうっとりした顔でまったくこの危険度に気付いていないから、シモンは真顔で教える。
「俺たちは勇者パーティに命を狙われてるんだぞ? これじゃあ、七層の王都にいると宣伝しているようなものだ」
「あっ……」
「さらに言うと、六層や他の層にも影響が出るかもしれない。俺たちは下に向かっているとバレたんだからな」
「ヤバイやないどすか!?」
「そう言ってるだろ~」
普通のパーティなら冒険者新聞に載ることは光栄の至りだが、勇者パーティを怒らせているプーシーユーにはバッドニュース。
あの邪悪な勇者パーティなら、シモンを狙わずにエルフ等を狙って傍若無人を働き兼ねないからだ。
ユーチェもその危険度に気付いたが、2人ではどうやって冒険者新聞を止めたらいいかわからない。とりあえずお茶を飲み干したら、冒険者ギルドに戻って来た。
そこでギルドマスターに相談してみたら、もうすでにギルド便は違う層に出発済みとのこと。
それもご丁寧に、大激浪を乗り切ったその日に七層全土に冒険者新聞は広まっており、同時に各層にいるダークエルフにも伝えようと急いでギルド便は出発させてしまったそうだ。
これでは止めようがない。ギルドマスターの手が届くのは、七層までだからだ。
そこでギルドマスターはその上ならばとアドバイスをくれたが、シモンはしかめっ面。嫌々そのアドバイスに従って、お城にやって来た。
「すまん。もうちいと待ってくれ。忙しいのなんのってな」
「忙しいのならまた今度でよかったのに……」
「なんか言うたか?」
「いえ、何も!」
冒険者ギルドのマスターより上で冒険者ギルドに物を申せる者となると、王家しかない。シモンは数日は待たされると思っていたから、こんなに早く王様に会える自分がちょっと怖くなっているみたいだ。
「ほいで。急ぎの用件たぁなんじゃ?」
メインデルト王は、書類を片付けるとソファー席にいるシモンの目の前に腰を下ろした。
「冒険者新聞です。これをなんとか止めてくれないでしょうか?」
「冒険者新聞? シモンたちの活躍がよう書けとった思うんじゃが」
「それが困りまして……」
シモンは勇者パーティーの件を説明すると、メインデルト王は「あっちゃ~」とおでこを叩いた。
「そりゃあすまなんじゃ。儂も興奮しとったけぇ、その件はすっかり抜け落ちとった。すぐに手を打つ……が、間に合うかどうか……」
残念ながら、迷宮を確実に突破できる冒険者ギルドのお抱え冒険者は出払っている。新たに雇うにしても騎士から出すにしろ出発まで時間が掛かるのでは、間に合わない公算が高いようだ。
それならばとメインデルト王は新しい案を思い付いた。
「ヨシッ。シモン……いや、プーシーユーを、我がダークエルフ王国の特使に任命する」
「……はい??」
大出世。苦情を入れに来ただけなのに、凄い大役を与えられたシモンは声が裏返るのであった……




