010 鬼に金棒
迷宮素人のプックを連れて行くのなら、準備と予習は必要。ヘルメットと胸当てだけは超特急で作らせて、武器は鍛冶で使う金槌だ。
プックは鍛冶以外に使うことは嫌がっていたけど、シモンが手に馴染んだ物のほうがいいと折れてくれなかったから、渋々使うことになったとのこと。あとは持ち物と迷宮の道順を確認して、早めに就寝する。
翌朝、シモンはいつも通りの時間に起きたら、プックの体調確認。
「普通に寝たんだ……」
「なんや? アカンのか??」
遠足を楽しみにする子供みたいになかなか眠れないと思っていたのに、プックは強心臓。寝不足を理由に断ろうとしたシモンの小細工は、まったく通じず。準備を整えて借家を出た。
朝早く出たワケではないので、迷宮にできていた冒険者の列に並び、受付でシモンはプックの身元引き受け人のサインをする。
迷宮は危険だから冒険者以外は入れないって規定はあるが、階層を移動する商人や要人が少なからずいるから、冒険者が護衛をすればそれ以外も入れる。
今回は冒険者になりたい人を、低階層に案内するという理由で門番を納得させていた。
そうして無事迷宮に入ると、初めて来たプックは目を輝かさせている。
「ここが迷宮でっか~……洞窟みたいな通路やな。なんで明るいんやろ~」
「壁の鉱石が光ってるらしいけど、そんなもんとしか俺も知らない。それより、絶対に俺の指示に従えよ?」
「わかってまんがな。まだ死にたくありまへんからな」
軽く注意したシモンは、プックを後ろに付けて歩き出す。
迷宮の入口付近は、他の冒険者が喋っていたり少なからずいるモンスターをタコ殴りしているから出番はナシ。罠もないので、早足で奥に向かう。
冒険者がバラけて来ると、シモンはまた注意を促して先を急ぐ。プックはキョロキョロと周りを見ているが、シモンとの約束は守って離れずについて行く。
そうしてしばらく歩いていたら、角を曲がる直前でシモンが止まったので、プックはぶつかりそうになった。
「モンスターでっか?」
「ああ。ゴブリンが1匹……アレの試射には持って来いだ」
「プーシー1号の出番でんな!」
シモンは拳銃の名前を口にしたくないのに、プックが言ったから苦笑いだ。
「ここからでも見えるだろ? 絶対に動くなよ??」
「わかってまんがな。心配性でんな~」
再度確認をしたらシモンは通路から出て、ゆっくりとゴブリンに近付く。そして軽く振り向き、プックが見てるのを確認したら引き金を引いた。
「頭に一発って……なんか面白味に欠けまんな」
シモンの放った弾丸は、見事ゴブリンの頭に命中。それでパタッと倒れたから、プックは喜ぶよりも残念にしてる。
「いつもこんなもんだぞ? 弓で一発だ」
「やっぱりお兄さんって、すんごい有能なんちゃう?」
「1人ならな……パーティだとお荷物なんだ……」
「褒めてるんやから、暗い顔しなさんな~」
褒められても、いまいち褒められた気がしないシモン。それでも気を取り直し、ゴブリンが迷宮に吸い込まれるなか腰を落としてから先に進む。
続いて発見したモンスターは、ゴブリンが2体。いつものシモンなら走り抜けるらしいが、拳銃があるからチャレンジだ。
通路から飛び出したら2度引き金を引いて、プシュップシュッと鳴る音。その次の瞬間にはパタパタとゴブリンは倒れた。
「はやっ……」
「ああ……思っていたより使えるな……いつもは矢を構える前に、けっこう近付かれるのに」
拳銃は、シモンには持って来いの武器。いや、狙撃手に取っては鬼に金棒の武器なのだ。
「てか、こんなに簡単に頭を撃ち抜けるもんなん? 頭より胴体のほうが的が大きいやろ? 普通はそっち狙うもんやないん??」
「ああ~……俺の場合、ヘッドショットってスキルがあるんだ。頭に命中さえすれば、ほとんど一発で倒れるから頭を狙うようにしてんだ」
「それって、スキルの補正があるっちゅうことか?」
「どうだろう……器用さの値は他と比べてめちゃくちゃ高いし……」
「素でこれかい……」
あまりにも射撃の腕が良すぎるので、プックも驚愕の表情。しかし、言いたいことはあるのか頭を振って気を取り直す。
「体とかを狙うことできへんか? 一発で倒したら威力がようわからんねん」
「あぁ~……1匹の時なら試してみるよ。その前に弾込めておかないと」
プックのお願いに答えたシモンは、拳銃のシリンダーを出して、まだ撃っていない弾丸だけ押さえて3個の薬莢をパラパラ落とす。
そして新しい弾丸を入れていたら、プックは足元に落ちた薬莢を指差す。
「それ、置いてくんか?」
「まぁ……いらないし。そのうちスライムが食べて消えるから、証拠は残らないと思う」
「迷宮の説明はええねん。それにまた黒い粉を入れたら、使えるんちゃうか?」
「かもしれないけど、いっぱいあるからいまは考える必要なくね?」
「そ、そやな。取っておいたあーしがバカやった……」
シモンの現在の残弾は約5万。まだ火薬も作れていないのに薬莢をチマチマ拾っていたプックは、なんてケチ臭いことしてんだとちょっと恥ずかしくなるのであったとさ。




