美しい人
凄絶な愛でもなければ
永久の別れでもない
その声が歌い上げるのは
前を、現実を向いて生きていくという
シンプルな姿勢
単純で難しい事
着飾らずありのまま
身を守る盾も
貫く槍も持たず
裸足で歩くのにここの道は痛すぎる
それでもあの人は
「この道を歩いていきたい。これで生きていく」
そう言った
肩から流れ落ちる黒の髪が美しかった
地位も権力も真っ直ぐに歩いていくのには必要ない
かさ張るから、と放り投げたのはいいけれど
目指すはずの道が扉を閉ざした
終わりなく 果てしなく
響く想い
永続的に流れるその声が
私の心に穴を開ける
会なくして放たれた矢が
埋もれた琴線を掻き鳴らす
身が折れるほどの感情を
魂を揺さぶるその音色を
哀しみではないこの涙を
歌い上げて 真っ直ぐに
高く高く空さえ尽き抜けて
気取った愛の歌でも
安っぽい別れの歌でもない
その声が歌い続けるのは
前を向いて歩いていく
シンプルな姿勢