王の剣
俺の名は、”ライト・サタデェー”、この大地の名は、”光に包まれし聖なる星”、そして俺の父さんの職業は…
「行ってくるよ…」
「うん!」
騎士だ。
「いってらっしゃいですよぉー」
「いってらっしゃい!父さん!」
皆が手を振って見送る父、ギル・サタデェーには俺を含めて三人の子供がいる。
長男のケイ・サタデェー10歳、長女のモルガン・サタデェー10歳、そして俺、ライト・サタデェー8歳の四人暮らし。
母さんはいない、父さんが言うには戦争のさなか、街に向けられた砲撃に巻き込まれて命を落としたと言っていた。
とにもかくにも、俺達兄弟は皆父さんに憧れている。
「兄ちゃん!いつか大きくなったら、俺も騎士になる!」
「そうだな、まぁーなれたとしても、ライトはオレの下だろうけどな!」
「なんでだよぉー!」
「だって”小さい”もん。」
俺は産まれつき身長が人より小さい、今もそうだし…きっとこれからもそうかもしれない。
でも…
「だったら…」
俺は胸を張って兄さんに宣戦布告をした。
「世界一”小さい”背中で、俺は”世界を背負う”騎士になる!」
「だったら賭けようぜ…」
俺達の押し問答に、姉さんは少しあきれ顔で手を広げ首を横に振るが、俺は本気だ。
それに呼応するように、兄さんも俺にその拳を突き出してきた。
「オレとお前、どっちが上に立つか勝負だぁ!ライト…」
「うん!」
この日から、俺と兄さんの憧れの騎士になるための特訓が始まった。
「二人ともよくやるよねぇー」
「まぁーいいじゃないか、やる気があるのは良い事だぞ。」
「でもさぁー、正直心配、毎日あの調子じゃ体壊しちゃうよ…」
あの日から早一か月、俺と兄さんの始めた修行は過酷を極め、姉さんと父さんはそれを見て笑っていた。
(ピピ!ピピィ!!!)
「「はい!」」
朝6時起床、毎日朝はパンと紅茶を食べて一日を始める。
「「うぉぉぉ!!!」」
朝7時、僕らの最初の修行は筋トレ、腕立て、上体起こし、スクワッド、うさぎ跳びをそれぞれ100回。
「オレのが速いもんねぇー」
「負けないもん!」
朝9時、近くの山を頂上から下山までをそれぞれ100回、それを一日30セット、㌔で表すと実に1000㌔を軽く超えていたと思う。
「寒い…」
「耐えろ、これも修行だ弟よ…」
朝11時、昼ごはんまでの2時間を、家の前の滝に打たれ耐える。
「ちょっとあんた達!、ご飯できたから、早く体拭いて服着ちゃいなさい!」
「「はーい!」」
昼13時、父さんが狩りで捕まえた動物の肉や、鳥の卵、魚、などなどを使った姉さん特性の料理を頬張る。
「おいライト!お前そんだけかよ!すっくねぇー!」
「なんだと!姉さん!僕お代わり!」
「はいはい、落ち着いて食べなさいよ。ご飯は逃げないんだから…」
「はは、お前達はよく食うな。」
「食べ過ぎよ、このままじゃこいつらに山の作物も畑の野菜も、動物も全部喰われちゃうわ。まったく…」
昼の時間は戦争、俺と兄さんの飯の取り合いが開幕。
「なぁー父さん、あれ…」
「おぉー、随分と大きな獲物だな。でかしたぞケイ!」
「うん!オレ父さんの息子だから…」
「何言ってんだぁ!!!俺も父さんの…」
「「しぃぃぃ!!!」」
14時から17時までは、父さんの狩りを手伝って山に入って動物を狩ったり。
「やったぁ!捕まったぞ!」
「ずるいよ兄さん、俺だって…」
川で魚を手づかみしたり…
「ライト!あんた魚捕まえんのも動物狩るのも”下手”なんだから、さっさとこっち手伝ってよ。」
「下手じゃないやい!俺だって…」
「はいはい、いつかね、いつか…」
「ぷぅー」
姉さんと一緒に、畑や飼っている鳥の飼育をしたりしていた。
そして日が暮れて夜…
「ここからだ…」
「兄さん…」
6時には、夕ご飯が始まり、その後就寝、残された時間はたったの一時間…
一日の最後に、俺ら兄弟が毎日欠かさずすることそれは…
「「はぁ!」」
完全に日が落ちる前、一日の閉めに俺と兄さんは必ず剣を交える。
「中々やるなぁー、流石オレの弟だ…。兄に恥じぬ実力であれよぉ!」
「恥じる?それどころか誇れるぜ、俺の剣は”世界最強”だからなぁぁぁ!!!」
ものは当然本物の鉄の剣ではない、ただの木の剣、言わばただのチャンバラ、ままごと遊びの延長線…
それでも俺らは真剣だ。
しかし…運命は突然僕らに牙をむくことがある…
「父さん…」
ある日、父さんは平和で暇だった騎士の仕事が、急に忙しくなったと言って家に帰れない日が続いた。
僕らは、父さんに教わった狩りを続け、食事には困らなかったが…
「お父さん…」
父さんが次帰って来た時…元気な体は形もなく…最後まで剣を握りしめ続けたであろう…
”その手だけが俺達の元に帰ってきた”。
「父さぁぁぁん!!!」
”戦死”…これは後から知ったことだが、父さんが家に帰らなくなった頃、人間族の国ケルビナは、獣人族の国キースと戦争を始めていたらしい。
獣人は獰猛な種族、人間より遥かにその寿命は長く、その力は絶大、それに彼らには最終手段も残っている。
”本能覚醒”、それを使った獣人の目は赤くなり、血管が全身に浮き出、狂犬病の犬のようによだれをたらして唸り声を上げ続け、その戦闘能力を飛躍的に向上させる。
父さんは、そんな獣人の一人に敗れた…”獅子の獣人”の戦士だったらしい…。
「兄さん…」
「へ?」
「”必ずなろう”…”騎士”に…」
俺達はこの日、涙と血の元に約束した、いつか旅に出て、名を売り騎士になって…
”必ず父さんを殺した”、”獅子を撃つ”と…
「おいライトぉ!起きやがれこのバカ弟ぉ!」
あれから月日は流れ、7年…
「うぅ~ん…まだ眠いよぉ~」
「ふざけた事抜かしてんじゃねぇーぞ、コラぁ!」
兄さんにベットを蹴られ、叩き起こされたその日…
「なんだよ、まだ朝の…」
「もう12時だぞ…」
この日、13時から、街で剣の大会がある。
「えぇぇぇ!!!もう12じぃぃぃ!!!」
「はぁ~、全く、今日はお前が”15歳”になって、やっと出場できる初めての大会の日だってい言うのに…」
街の大会には、毎年騎士団の人達も大勢見に来るから、ここで名を売っておくのは必須なのだが…
「なんでもっと早く起こしてくれなかったの!兄さんぁ!、朝の6時から手合わせだって約束したでしょぉ!」
「何度も起こしたのに、お前が起きなかったんだろうが…」
とにかく、俺は急いで身なりを整え、荷物をまとめて支度した。
「行って!」
「ちょっとライトぉ!」
「なに姉さん?俺急いでるんだけど…」
「はぁ!元後言えば、あんたが寝坊するのが悪いんでしょ。ご飯、食べて行きなさい。
「えぇ~…」
「は!何?」
「いえ、何でもありません。」
1分でご飯をかけこんで、俺は街に向かう最後の馬車に乗り込んだ。
「お待たせいたしました!少年少女諸君!」
会場中に響く、視界者の声、長ったらしい戯言を聞き飛ばし、俺は抽選で決まった対戦表を見る。
「ふぅーん、一回目は火銃のアリか…」
ちなみに初の説明となるが、この世界には当然、魔法が存在する。
そして今回俺が戦う相手、火銃のアリは…
「さぁーライトくん、君も僕の花火になってちってくれ…」
炎魔法の使い手らしい…
「おらぁぁぁ!!!」
先手必勝、俺はゴングの直後、すぐさま駆け出し距離を詰める。
「火球総弾!!!」
相手は俺に向けて、無数の火球を向けて来た。
「魔法…お前だけのものじゃない…」
「なに!」
俺にも流れている、父さんにだって使えた、魔法の才能…
「”光輝けぇ!”」
その掛け声の事を、この世界では詠唱と呼ぶ、それと同時に俺の剣は光り輝き、目の前の火球、それと言う現象を…
「”聖剣”」
斬る。
「「うぉぉぉ!!!」」
観客がざわめく、目立つ無数の火球を斬り伏せた俺の刃を見て驚きを見せ、拍手喝さいが鳴りやまない。
「こんのぉ!」
すかさず俺に向けられた火球、相手も手練れ、そう簡単に行くとは俺も思ってない…
「でもさぁ…」
俺は飛び上がった、飛び上がって斬り伏せた、光輝く刃を再び振るって。
「お前、俺より弱いよ…100倍ぐらい…」
相手の胸から大量の血が流れる、勝負は決着、観客の誰もが俺に声援を送る中…
「おいぃぃぃ!!!ライトぉぉぉ!!!」
一人だけの罵声…
「なんだよ兄さん!弟の初白星だぜぇ、もっと喜んでくれても…」
「ふざけんなぁ!お前その剣…」
「剣?」
気づくとそれは、折れていた。
「あ…あぁ…」
「あの馬鹿…」
父さんが死んでから、17の兄と姉が大会以外の日、毎日せっせと貯めて何とか国税金を納め、その他の支払いも全て済ませて何とかやりくりしている俺ら家族にとって…
”鉄の剣”はとても”高価”だ。
「どうしてくれんだぁ…なぁーライト…」
兄弟二人で一つの剣、兄弟二人でバトル時はジャンケンで剣の所有者を決めて、片方は魔法で…って約束だったのに…
「ライト、お前まさかこの兄に、これから先全ての戦いを不慣れな魔力で戦えと?」
「いやぁー、不慣れって言ってもさぁー、俺より二年も前から使ってるわけだし…」
「おいおいライトくん、それはオレの魔力量がお前より少ないのを知っての発言か!」
兄さんの魔力量は、お世辞にも多いとは言えない…
よく言って並み程度、少なくともこの数十戦ある戦いをそれ一本で勝ち抜けるほどはない…。
「でも…」
「いいから早く…”変わりの剣”探してこぉぉぉい!!!”」
兄さんの轟音の如き声が、会場中に響き渡る。
「分かりました、分かりました、持ってくればいいんでしょう。」
兄さんの出る試合の間に、三試合はさむので少し有余がある。
俺は街中の武器屋を探し周り、俺の少ないこずかいで買える剣を探した…。
しかし当然…
「ない…」
剣はどれも高級品、ただの庶民に手を出せる代物じゃない。
騎士であった父がいた頃の裕福なサタデェー家ならまだしも、父の遺産も底をついた今では…
「しかたない…家に帰って”姉さんのへそくり”から少々拝借しよう。」
少々とは言ったが、恐らく全額あってをギリギリな上に、俺はまだ働いていないので、返すのは10年以上先になるだろう。
「はぁー…はぁー…試合の後、この距離をこのスピードは流石に…」
汗水たらして息を荒げ、やっとの思いで家に付く、そして当然兄さんの試合も後数刻で始まるだろう。
「急がねえ―と…」
そう思っていた矢先、泉から不信な音がした。
(なんだ?魚か)
にしては不自然だ、俺の肌が感じている、異常な魔力の感じ…
(バァ!)
肌をつんざくその魔力の方へ視線をやると、泉から謎の手と共に打ち上げられたのは鉄の剣…
「よっしゃラッキー、良くわかんねぇーけど、これで…」
その剣の塚は、眩い黄金に輝いていて、その中央には”赤い竜”の紋章が入っていたが…
そんな事はどうだっていい。
俺は急いでいる、早く兄さんにこの剣をとどけねば…
それから数刻の時が経ち…
「兄さん!」
「遅いぞライト、もう少しで失格になるところだった…」
「悪い悪い、でもこれ…」
俺が着いた時、試合はすでに始まっていて、審判に頼んで少し延長してもらったらしい。
そんな兄さんに俺は、例の剣を渡した。
「なんだ?随分と豪華な…」
その剣を兄さんが握った瞬間、異変は起きた。
「あれは!」
周囲の騎士団、そして一人のローブの女がその場に立ち上がり、その剣を一点に見つめる。
「なんだよこれ…ライト…」
「え!そんなはずは…」
それもそのはず、俺が兄さんに手渡そうとした瞬間、剣が少し動いただけだった、なのにその剣は、立った一撃で会場を真っ二つに切り裂いて観客全員を震撼させ、騎士団は慌てふためき、ローブの女は一人笑っていた。
「ライト!その剣どこで手にいれた、とにかく兄さんにかせ、それは危険すぎる!」
兄さんが俺から無理やり剣を取り上げようとするが、兄さんが持った瞬間、剣は先ほどまで放っていた光を失い、急に重くなって地面に落ちる。
「なんだこれ…持ち上がらない…」
「そんなはず!俺それ持った時、まるで体の一部見てぇーに軽くて…」
俺達兄弟がそんな話をしていると、審判も対戦相手もそっちのけで、上にいた騎士団全員が俺の首に剣を突き立てて取り囲む。
「なんだよ…これ…」
「お前、名は…」
「ライト…サタデェー…」
「そうか…ではライト、お前は”一体何者”だ。」
「はぁ?俺はかつての対戦の英雄、サタデェー卿の次男、ライト…」
「否…」
「は…」
俺は状況が飲み込めなかった、騎士団が一体何を言っていて、俺に何を言わせたいのか全く分からなかった。
「お前は…」
【そこまでだ】
騎士団が取り囲む中、俺と騎士団の間に突然現れた黒いローブの女…
「誰だぁ貴様ぁ!」
「わっちか?わっちはな…」
その女は一瞬で、現れた瞬間、天から無数の羽が落ちて来る…
「これは…」
「”催眠薬”だよ、わっちが調合し、空気に混ぜて巻いておいた、目の前に羽が見えているならもう君らはわっちの仕掛けた罠の中さ…」
周囲にいた全員、俺も含め全員が夢に溺れてその場に静止した。
「おっと、君もかかってしまうとは、すまないね…”解除”。」
「は!」
俺は、女の使う特殊な魔術で目が覚めた。
「お前!このピンクのガス…」
「その件は後だ、”ライト・ドラゴンヘッド”くん」
「は!俺の名はライト・サタデェー!ドラゴンヘッドってそりゃ…」
「人間族の王の名前…ユーサ・ドラゴンヘッドには一人息子がいた…」
ローブの女は突然、俺を無視して変な語り口調で話し始めた。
「なんの話だぁ!俺は戦争で散った偉大な騎士!サタデェー卿の次男!ライト・サタデェーだぁぁぁ!!!」
無視する彼女をよそに、俺は叫んだ、だって意味が分からないし唐突だ、あまりに突飛過ぎるよその情報は…
「真実を受け止めたまえ少年、その剣が最たる証拠だ…」
「剣…これが…」
「その剣の名は、”王者選定の剣”、かつてはエクス・カリバーとも呼ばれていた代物だ…」
「バジ…レウス?」
「その剣は竜王を打ち取った”ドラゴンヘッド”家の血を継ぐ王にしか扱えない…」
この日、俺の人生は大きく動き出した。
「なら何で、俺が王の息子だって言うならなんでぇ騎士団達を眠らせた!」
「まだ早いからだ、君を”ユーサー”の元に行かすにはまだ…」
「早い?」
「君はこれから旅に出る、仲間達と共に13の王の首を跳ね、そしてその剣の真なる力を開放するんだよ。…そのために…」
受け止めきれない俺を置き去りにして、このローブの女の饒舌を受け止めろと俺に突然投げかけて来た…
「今日から2年、君が17の歳になるまでの間わっちが君を教え導こう…君はまだ”実前の果実”…必ず実らせて見せよう。」
「…」
「この…”マーリン”の名に懸けて!」
15歳、その歳にいつだっえ物語は始まる。
歴代のどの英雄も、始まりの時はいつもその年だ、そうは聞いてたが…。
「急過ぎるだろ、この展開は…」
俺の旅は、突然始まった、それを備える暇も、それを知らせるゴングもなく、突然…
”出生”と言う最大の真実を突き付け、今動き出した。