第七話 勘違い
「な、何言ってるんですか!?」
衝撃的な発言をした三奈方先輩に冬真は動揺が隠せない。
「あれ?意識してるの?」
ニヤニヤしながら冬真の方に顔を近づける。しかし、外見が男性でも中身が女性だとやはり意識してしまう。おまけに冬真の大好きなお姉さんボイスだ。
「い、意識もなにもしませんよ!」
「お姉さん...悲しいなぁ〜...」
「お兄さんの間違いだろ!」
「なんで隣なんですか!」
流れ的に愛してるゲームをしないと、何をしでかすかわからないため冬真は渋々受け入れたが、隣に先輩が座るなんて聞いていない。
「なんでって、隣の方がやりやすいし...やっぱり、i」
「意識なんてしてません!!」
「じゃー、私からね。......愛してる。」
そうして恋人同士がやる愛してるゲームが始まった。冬真にとっては地獄のゲームである。
「あ、愛してる。」
「愛してるよ。」
「俺もあい、愛してる。」
冬真は始まったからにはやってやろうと思い、しっかりと三奈方先輩の目を見て言ってやった。そうすると、三奈方先輩が顔を近づける。近距離であるため、三奈方先輩の良い匂いが冬馬を刺激する。
「愛してる。」
その瞬間、外見が男子であるのにもかかわらず、お姉さんボイスと甘い匂いにやられニヤけてしまった。
「はーい!冬真君の負け!」
おそらく、今ニヤけた顔はとんでもなく不細工でキモいだろう。冬馬自身でもわかった。
「それじゃ、罰ゲームね。」
「え?罰ゲーム!?」
「勝ち負けのあるゲームには罰ゲームあるでしょ。」
「で、でもそんなの聞いてn...」
「死人に口なしだよ。」
「いや、それ意味間違ってる...そもそも俺、死んでないし...」
そんなやり取りしている中、三奈方先輩はポケットからスマホを取り出す。
「動画撮るから、カメラ目線で愛してるって言ってね。」
「え?」
「さーん。にー。」
「ちょ!」
「いち!」
『ピコン』
片手にスマホを持ちながらニヤニヤする三奈方先輩に、はよやれ みたいな感じにもう片方の手で合図される。
「あ、愛してる。」
動画を撮られながら言う「愛している」は、また違う恥ずかしさがあった。
「絶対に流失しなでくださいね!」
「そこまで僕......鬼じゃないよ。」
「なんか間がありましたよ!?」
笑いながら言っている三奈方先輩を見ている冬真は心配でしかなかった。いつ何時、何かの間違いでこの学校に広まったらクラスの男子から馬鹿にされ、クラスの女子には陰で話のネタにされるだろう。
(最悪だぁ...)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(図書室で本探してたら、遅くなっちゃったな...)
中宮は正式に入部届を出して今日から文芸部の部員となった。放課後、部室に行こうとしたが、図書室で借りたい本があったため借りてから行くことにした。しかし、案外探すのに時間がかかってしまい、部室に行くのが遅くなってしまった。
中宮は小走りで部室に向かい、扉を開けようとすると中から声が聞こえる。
「...愛してる。」
「あ、愛してる。」
(な、なんで...冬真君と三奈方先輩が...)
部室の中から冬真と三奈方先輩が「愛してる」と言い合っているのを聞き、ドアノブから手を離した。
「愛してるよ。」
「俺もあい、愛してる。」
二人に気づかれないようにそっと部室から離れた。まさか、もうそんな関係になっているとは思ってもいなかった。なぜ、心の奥が締め付けられるように痛いのかがわからない。
文芸部に入るべきじゃなかった。
(なんで私...こんな嫌な気持ちなんだろう...帰ろう...)
昨日と同じ帰り道、一人で帰るのは慣れている。だけど、今日の帰り道だけ泥の上を歩いているように重く感じた。
(今頃、部室で二人は何してるのかな...)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(今日で今週学校終わりかぁ〜...昨日は最悪だったな...三奈方先輩、動画撮れてなかったとか言って3回ぐらい撮り直した辺りで、「全部撮れてた。てへぺろ。」とか言ってきやがって...クゥーーーー!思い出しだけでも腹立つ!!)
学校が指定している最寄り駅で降りて学校に向かう。終点であるため、同じ学校の生徒が多く降りる。学校までの道のりは駅から15分程度、それに加えて坂道であるためとても辛い。
(これほぼ毎日この坂を上るとか鬼畜すぎだろ...あっ、あれって...)
冬真の前を見てみると、中宮がしんどそうな感じで歩いていた。
「なかッ...」
(あれ?俺、なんて呼んでたっけ!?いや、そもそも俺、呼んだことない!え?中宮さん?美夏ちゃん?いや、それはキモいな。中宮ちゃん。いや、それもキモい。)
考えているうちに中宮は冬真との距離を離していく。無理に声をかけなくても良いと思ったが、挨拶だけはしようと思って、坂を少し早歩きで上る。
「お、おはよう...」
いきなり声かけるのは怖いと思うが、なんせ呼び方がわからない冬真にはこれしか挨拶の仕方がわからなかった。
「え、あっ、おはよう...」
なぜか顔を赤くして応える中宮は小走りで坂を上った。
(え?なんか...俺、避けられてる?)
「あの人避けられた?」
「あはは、オモロ。」
「何あれ。嫌われ者?」
周りにいる同じ学校の生徒からの冷たい視線や嘲笑いが冬真の心に突き刺さる。なぜ、避けられているのかがわからない。なぜ、顔を赤くしていたのかがわからない。わからないことだらけで、何をするべきなのかもわからない。とりあえず、気持ちを切り替えて冬真は学校に向かった。
(やはり、昨日の事で避けられているような気がする。)
放課後になり、冬真は部室に向かう。部室に向かっている最中も考えていた。しかし、いくら考えても昨日の事しか考えられなかった。
(でも、腕引っ張らないと危なかったし...)
考えていうちに部室に着いていて、部室の扉を開ける。中には中宮が一人いた。随分早く来ていたようだ。それに、中宮も文芸部に入部したことを今知った。
「あっども。」
冬真の返事に対して中宮は軽く頷くだけで、読んでいた本にまた目線を向ける。よくよく見ると、なぜか顔が少し赤くなっているように見える。
(なんで、顔赤いんだ?もしかして、熱か...?)
本を読んでいる中宮をしゃがんで下から顔の様子を覗き込んだ。
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