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第五話 フルーツオレ

「実は僕、女の子なんだ...」


冬真は一瞬、リュックから本を探し出す手を止めたが、何事もなかったようにまた探し出す。


「あ...あれ?衝撃的なはずなんだけどな...」


「最初から薄々わかってましたけどね。」


「トイレ確認してないのに?」


「えっ...なんのこ、ことですか?」


冬真は三奈方先輩のトイレで性別を確認しようとしていたことを思い出し、動揺しながら頬を赤る。


「えっち...」


三奈方先輩が冬真の耳元で囁く。冬真はさらに頬を赤らめて、リュックからゆっくりと本を取り出す。


「か、からかわないでください...」


冬真は取り出した本に集中しようとも、耳元で囁かれた言葉が何度も脳内で再生される。


「可愛いとこあるじゃん。」


三奈方先輩はニヤニヤしながら、冬真の肩をつつく。そんなやり取りをしているうちに、電車の扉が閉まり動き出す。慣性の法則で三奈方先輩の肩が冬真の肩に触れる。


(やばい...こんなの意識しちゃうだろ...)


いつもならすぐ最寄り駅に着くはずなのに、今日に限っていつもより長く感じた。


「あっ、僕ここだし。ばいばい。冬真君〜」


「お、お疲れ様です。」


三奈方先輩が降りて、電車が再び動き出すと同時に冬真は一気に緊張が溶け、体が重く感じた。


「はぁ...」


(無言気まずっ!!え?まだ、入学して2日目...もう一年ぐらい経ったんじゃ...)


『扉が閉まります。ご注意下さい。』


「あっ。」


(ここで降りなきゃいけなかったの気づかなかった...最悪だ....)


冬真は自分の最寄り駅に着いたことに気づかないぐらい三奈方先輩の余韻に浸っていた。大きなため息をつきながら、次の駅で降りた。


(ここから一駅分歩くのか〜...嫌すぎる...てか、帰り方わかんねー。あっ)


スマホ取り出して、マップアプリを開きマンションの名前を入れる。今の時代、スマホさえあれば、迷子になっても家に帰れる事はすごい事だと改めて実感した。


(次はそこの公園の手前を右か...)


スマホのマップアプリを頼りにして、自分のマンションへ帰る。公園の手前を左に曲がると、知っているコンビニが見える。


(ここに繋がるのか〜。いつか、この辺探索しないとな...)


スマホのマップアプリを閉じて、ポケットにしまう。何も考えずにボーっと歩いていると、視界に公園のブランコが目に入った。そこには、中宮が一人でブランコに座っている。


(な、何してるんだ?)


足を止めて中宮の様子を伺っていると、ただボーッとしている。何か悩んでいるようにも見えて、声をかけるべきなのか、冬真の頭の中で天使と悪魔が対決している。


〜冬馬の頭の中〜


天使:「冬真君!女の子が悩んでいたら声をかけるべきだよ!」

悪魔:「いや、冬真。お前は陰キャだ!陰キャらしく声かけず、そのまま帰れよ!」

天使:「だめよ!そんなんだと、青春できないよ!」

悪魔:「女の子と喋るだけが青春じゃねーぞ!男友達と馬鹿騒ぎすることだって青春だぞ!」


天使:「冬真君!」

悪魔:「冬真!」




(う〜ん...やっぱり声をかけるべきだよな...)


天使と悪魔の対決では天使が勝った。陰キャの冬真はそもそも男友達がいないため、馬鹿騒ぎすることはない。というか、そんなキャラではない。


冬真は自販機でフルーツオレを買って中宮の方に足を運ぶ。一人でそっとしておく方がいいのかもしれないが、だからといって無視はできなかった。


「大丈夫か?」


中宮の顔の前にフルーツオレを差し出す。中宮はキョトンとした顔で冬馬を見る。


「私、フルーツオレ苦手です...」


「え?」


(女子ってフルーツオレとかそういうの好きなんじゃないの!?ミスったぁぁぁぁ!!)


「他の買ってくるよ。あはは...」


「だ、大丈夫ですよ!飲めるんで!も、貰います!」


(なんか、変な気を使わせてしまった...)


中宮は冬真の手からフルーツオレを奪い取った。その時、中宮の顔は始め見た時より和らいだ気がした。


「なんかあったのか?」


ゆっくりと中宮の隣のブランコに座る。


「大丈夫です。ありがとうございます。」


「話したくないなら無理に話さなくていいけど、自分を追い詰めるような事はしないようにな。」


赤く染まっている空を見ながら、冬真は言った。実際、中宮の心情なんて中宮にしかわからない。それに加えて、冬真は女心というのをいまいち理解していない。下手に話題を振ったりしてしまうと、また変な気を使わせることになる。


(にしても...自分から行ったとはいえ、この沈黙の時間地獄すぎるだろ!)


この後、どうしようかと悩んでいるときに中宮がゆっくりと口を開いた。


「私、文芸部入るか迷ってるんです。」


「そうなのか?」


「はい。実は私、剣道県内一位なんです。」


「え?」


(県内一位!?なぜ、文芸部の部活体験に来ているんだ?)


「それで剣道部の顧問から入らないかって?勧誘されてて...」


「剣道部に入らないのか?」


「なんか、疲れちゃったんです。周りのプレッシャーというかなんというか...」


(周りからのプレッシャーね〜...)


冬真はブランコから立ち上がり、大きく息を吸った。


「あぁァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」


周りの目を気にせず、思いっきり叫んだ。


「ちょ、ちょっと!冬真君!何してるの!?」


小さな声で冬真に尋ね、周りをチラチラと確認する。


「やってみ。意外と気持ちいいし、悩み吹っ飛ぶよ。」


息を切らしながら、ゆっくりとブランコに座る。


「や、やらないよ。もう帰るね。あと、フルーツオレありがとう。じゃーね。」


そう言って中宮はそそくさと帰っていた。


(あ〜。やってしまったか?これは。)


そう思いながら、中宮の遠ざかる背中を見ていると足を止めた。そして、


「冬真君のばぁぁぁぁぁか!!!!!!」


そのまま逃げるように走って行った。その姿を見て、冬真はなぜか少し安心した。


(明日からどうしようか...)


明日からの中宮との接し方に悩み、もう一回叫んだ。

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