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第四話 コーラ

集中して本を読んでいると、冬真は中宮に肩を軽く叩かれた。


「え、、ど、どうしたの?」


「そ、その本って謎の恋愛人っていう人の本?」


中宮は冬真が読んでいた本を指さして聞いてくる。冬真はマニアックな作家を知っていることに驚いた。


「え?知ってるの!?」


「うん!私、その人の恋愛小説好きで今、集めてるの。」


「俺もこの作家さん好きなんだ。なんか癖のある書き方というか...なんて言うのかな...」


「その人の小説読むと、その世界に引き込まれちゃうよね!」


「そうそう!」


(あれ?今、俺普通に女の子と会話してるくね?)


冬真はマニアックな作家を知っている仲間が近くにいて、つい声が大きくなる。


「ジーーーーーー」


三奈方先輩は眉間にしわを寄せて瞬きもせずに、冬真と中宮の会話を聞いている。


『あっ』


冬真と中宮は嫌でも三奈方先輩の視線に気づいて、同じ反応をする。冬真たちが気づいても三奈方先輩は視線を逸らさない。ただ冬真たち一点を見つめている。


「え〜と...なんですか?」


嫌な予感がしながらも冬真は恐る恐る聞く。


「いや〜なんか僕、部長なのに空気みたいじゃん?」


(いや、ただの嫉妬かよ!)


「え〜じゃ、三奈方先輩は何読んでるんですか?」


「え?そりゃ〜...ベーコンレタスだよ!」


(腐女子じゃねーか!!...うん?腐男子なのか?どっちなんだ?)


「ベーコンレタスってなんですか?」


中宮は首を傾げ、目を点にして尋ねる。三奈方先輩は悪い大人のようにニヤけて解説をしようとする。


「ベーコンレタスっていうのは...」


「恋愛小説ですよね〜...はは...」


(なんか、まだ知らない女の子には知って欲しくない!)


冬真は三奈方先輩の話を遮ってテキトーに話す。三奈方先輩は目を丸くして冬真の方を見る。


「冬真君...(きみ)も腐っているのか!?」


「え?」


「いや、いいんだ。そんな君でも僕は...」


「違いますって!と、とりあえず、この話はやめましょう。不健全です。」


冬真はきっぱりと三奈方先輩に言って、自分が読んでいた本に戻る。その一連のやり取りを中宮は一人ぽかんっと眺めていた。


体験入部とはいえ、部室で本を読んでいるだけで部という活動はない。ただ、集まって読む。それだけのことしかしていない。なのに、冬真はとても居心地良く過ごすことができている。


《キーン...コーン...カーン...コーン》


最終のチャイムが鳴り、学校に残っている生徒は帰宅を促される。運動部以外のほとんどの部活はやる気がないのか、この最終チャイムが鳴る前に学校から出て帰宅している。


「今日はここまでだね。体験入部来てくれてありがとね。」


三奈方先輩は寂しそうな表情で別れを告げる。一年間、文芸部はただ一人、三奈方先輩だけで活動していた。そう思うと、冬真と中宮は心を針で刺されたような感覚に陥った。

さっきまでは少しだけ楽しく喋ったり、本を読んでいただけの関係であるが、この数時間の部活動は言語化できないほどの価値があったように感じていた。


「みんなで一緒に帰りませんか?」そのただ一言が冬真は言えずにいた。断られてしまうのではないか。今は調子に乗っているだけではないのか。そんなことを考えている。


「僕が鍵閉めとくし、先に帰っていいよ。」


「わかりました...ありがとうございます。」


冬真は頭を少し下げながら言った。中宮も冬真に続くように言い、昇降口の方へ歩いて行った。冬真も昇降口に向かおうとしたが、同じタイミングで帰ると気まずくなるような気がしたため、わざとトイレに行って時間を数分つぶした。


(今日の入部体験行って良かったな...)


冬真は数分トイレで数分つぶした後、昇降口に向かい靴を履く。そして校門を抜け出そうとした時、再び三奈方先輩に出会う。


「あっ...ども。」


「冬真君じゃん。一緒に帰る?」


「えっ、は、はい。」


冬真と三奈方先輩は、たわいもない話をしながら駅に向かう。どうやら、冬真と三奈方先輩の最寄りは一駅違いである。


「なんか気まずいね。」


「いや、先輩から言ってきたんですよ?」


「あのまま知らないふりして帰るのも気まずいでしょ。」


「確かに...です。」


何度か会話は途切れて無言が続いて気まずくなることがあったが、退屈することなく駅に着いた。


「あっ、冬真君。何か飲む?」


三奈方先輩は駅のホームにある自販機を指さす。


「いや、悪いですよ。逆に何か飲みますか?」


「そこは先輩に奢らせて欲しいな〜。今日、久しぶりに楽しかったし。」


「そんなの...コチラコソ...ですよ...」


冬真は下を向いて、少し恥ずかしながら言う。顔から首にかけて熱くなっていくのがわかる。


「なーに?聞こえなーい。」


「はぁ...コーラで。」


冬真はため息をついた後、自販機の一番上にあるペットボトルのコーラを指さす。


「一番高いやつじゃん...」


三奈方先輩は少し嫌な顔をしながらも、小銭を入れてコーラを買う。


『ピッ』


「はい。どうぞ。」


「ありがとうございます。」


冬真は三奈方先輩からのコーラを受け取り、電車が来るまでベンチに座って待つ。その隣に三奈方先輩が腰掛ける。


「ジーーーーーー」


冬真が手に持っているコーラをガン見する。


「そんなに欲しいならあげますよ。先輩の奢りですから。」


「え?いいの?」


三奈方先輩は冬真が持っていたコーラを奪うように取って、キャップ開けて飲む。


「なんかありがとね。」


「いや、先輩のお金なんで。」


「一言多い!」


そんなやり取りをしているうちに、電車がやってきた。終点ということもあって、降りる人はとても少ない。もちろん、終点だから、どこでも座れる。冬真は一番端の角に座り、その隣に三奈方先輩が座る。


出発するまでの時間、冬真はコーラをリュックの中にしまって本の続きを読もうと探し出す。


「言わなきゃいけないことがあるんだ。」


出発するまでの無言の時間、三奈方先輩は話を切り出す。


「はい?」


「実は——」

最後までお読み頂きありがとうございます!!

20時頃に第五話投稿予定です!!

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