第三十三話 文化祭③
文化祭前日に用意した机の上には、今回の目玉——文芸部部員で作成した冊子が並べられている。しかし、それだけでは素っ気ないため、部室の物置に置かれていた何年物なのかはよくわからない工作作品を教室の至る所に置いている。
「なんか、とても......質素だね。」
中宮は教室を見渡しながら、冬真の隣の椅子に腰を下ろした。
「これ、本当にお客さん来るのか......?」
ボソッと言うと、三奈方先輩はさっきまで食べていたイチゴ飴の串を冬真に向ける。
「冬真君!お客さんが来るに決まってるでしょ!」
(どこからそんな自信が湧いてくるのだろうか......)
「第一にね。文芸部が文化祭で出展するのは約10年ぶりなの。」
『10年ぶり!?』
冬真と中宮は声が裏返りながら驚く。
「それに、生徒会が配ってる文化祭の案内書にはね。デカデカと書いてあるんだよ。」
またも冬真と中宮は同時に唾を飲み込む。
「【10年ぶりの文芸部復活!!】ってね。」
『プレッシャーがすごい!!』
「それなら、やばくないですか?」
冬真は教室を見渡しながら、三奈方先輩に尋ねた。三奈方先輩は食べ終わった串をゴミ箱の方に投げ入れた後、ため息をつく。
「それが映えってやつでしょ。」
(何言ってんだ、この人。映えの意味知らないでしょ。)
「そもそもお年寄りの方が大半を占めてるんですから、映えとかそんなのわかりませんよ。」
冬真が焦りながら言っても、聞く耳を持たない。中宮はというと、冊子を手に取ってゆっくりと読んでいる。
(なんかマイペース......だなー。)
「おー、ここは落ち着いとるの〜。」
扉の方から老夫婦の方が顔を出していた。三奈方先輩は別人のように「ごゆっくりどうぞ〜」と腰を低くして挨拶している。中宮もそれに驚いて、サッと読んでいた冊子を戻した。
「ばぁーさんや、わしの作った作品が飾られておるわい。」
「まぁ!よく残ってましたね〜!」
老夫婦はとても楽しそうに一つ一つの作品を見ている。
(これは正解だったのか......?いや、そもそも何年前にその作品作られた物なんだ?!)
そんなことを思っていると、老夫婦の方が冬真の方へ歩み寄ってきた。
「せっかくだし、1冊貰ってもいいかな?」
「あ、は、はい!」
老夫婦は財布からお金を取り出して冬真に渡した後、中宮が老夫婦に1冊手渡した。
「ありがとうございます!」
深々とお辞儀した後、老夫婦はゆっくりと教室から出て行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
チャイムが鳴り、文化祭1日目終了の放送が流れる。あの後、ご年配のお客さんで賑わって思いの外、冊子が売れた。
「いや〜!楽しかったね〜!」
三奈方先輩は大きく手を上に伸ばす。
「ですね〜。」
冬真は共感しながら、早速教室の片付けを始めた。文芸部は部員数が3人しかいないため、一日のみの出展となっている。少し心残りではあるが、手を動かした。
「まゆちゃーん!」
すると、いきなり扉から顔を出して三奈方先輩を呼んでいたのは、久しぶりに姿を現した春崎先輩だった。
「あっ、みかちゃん久しぶり〜!それに陰キ......綾人君も〜!」
(今、絶対に陰キャ童貞って言いかけたよな?)
「お久しぶりです。」
冬真と中宮は軽くお辞儀する。三奈方先輩と春崎先輩の会話を聞いていると、どうやら担任に呼ばれたらしく、一旦席を外すことになった。また戻ってくるらしいので、それまでは冬真と中宮で片付け進める。
「そういえば、この作品って何年前に作られたの?」
中宮が三奈方先輩が掘り出した作品を指差す。
「うーん...でも、あの老夫婦の方が作った作品だし、60年前ぐらいのものじゃないかな?」
「そうかぁ〜。あの老夫婦ここで知り合ったのかな?」
中宮は片付ける手を止めて、教室の窓から外を眺めた。
「明日、楽しみだね!」
中宮は振り返って、白い歯をみせながら笑顔で言った。その時、冬真の心臓が大きく跳ねる。
「そ、そうだね......!あっ、俺トイレ行ってくるよ。」
冬真は逃げるようにトイレの方へ向かう。その時、中宮は冬真の耳が真っ赤になっていることを見逃さなかった。
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